インタビュー

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2023年03月16日

映画『死体の人』主演・奥野瑛太「役者を“仕事”とは思いたくない」

映画『死体の人』主演・奥野瑛太「役者を“仕事”とは思いたくない」

その目力は、一度見たら忘れられない。

映画『SR サイタマノラッパー』シリーズ(2009年)のMC MIGHTY役に抜擢されてからというもの、『葬式の名人』(2019年)、『プリテンダーズ』(2021年)、『すばらしき世界』(2021年)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022年)など、多くの映像作品で存在感を見せている役者・奥野瑛太。

2023年3月17日(金)に公開される主演映画『死体の人』では、死体役がメインの売れない役者・吉田広志を演じている。草苅勲監督の初長編映画となる今作、彼自身のパーソナルな部分を色濃く反映した脚本を見て、一度はオファーを断ったという奥野。その真意から話を聞いた。

「僕じゃないほうがいいんじゃないか、って」

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――今作のオファーを受けたとき、最初は断ったとお聞きしました。


奥野瑛太(以下、奥野):草苅監督に会う前に台本を読ませていただいたんですが、草苅監督の顔が浮かんでくるくらいにパーソナルな部分を投影した台本で、あたたかく優しい人柄を感じられました。ともすれば暗くなりがちな題材だけど、ユーモラスに明るく描かれていて、とても良いと思ったんです。

ただ、ここまで草苅監督の顔が浮かぶ役柄を僕がやってしまうのは、どうなんだろう。「僕じゃないほうがいいんじゃないか」と思ったんですよね。

これまでにさまざまな撮影現場を経て、綺麗ごとだけじゃない現実ってものを目の当たりにしてしまっている。そんな僕が、主人公の吉田みたいにピュアで明るくいられるかどうか不安でした。草苅監督のイメージしている像とは違うんじゃないかな、と。

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――それでも、草苅監督は奥野さんに対して「ぜひに!」と仰ったそうですね。

奥野:そう言っていただいたので、お受けしました。

僕自身、主人公の吉田と草苅監督は同一人物に近いと感じているんです。俳優業に対して明るい夢を持ち続けている、「初期衝動に近い感性」を持っている人だと。

その反面、僕はいろいろな経験をしてきて、時には明るくいられない瞬間もあると知ってしまっている。本来は現場に「自分の感性」なんて必要ないんだけど、それを信じないと場に立てない瞬間というのもある。そういった、いわゆる“埃”みたいなものを取り払わないと、吉田は演じられないと思いました。

――吉田を演じるにあたり、草苅監督やほかの共演者の方ともディスカッションを重ねたのでしょうか?

奥野:吉田は、僕自身の立ち位置としてもシンパシーを感じる役だったので、台本が仕上がる段階からコンスタントにコミュニケーションを取らせていただきました。吉田と僕は、もちろん違う部分もあるけれど、似ている部分も多い。時には脚本の内容が変わるくらいに、「こういうやり方もありますよね」と、能動的に提案させてもらいました。

いつだって、右往左往している

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――主人公の吉田を演じるにあたり、どんな役作りをされたんでしょうか?


奥野:今回だけ特別に何かをした、というわけではなく、基本的にやることは同じですね。とにかく台本を読んで、台本通りに頑張る。それしかないです。

最近は「自分の感性を信じて、それを表に出そう」とは考えなくなりました。若い頃は、そうやって自分を奮い立たせないと現場に立てないこともあったんですよね。とくに今回の吉田はとてもピュアな役柄ですから、自分の感性ほど邪魔なものはなかったです。「お前を出してどうするんだよ!」っていう。

台本を読んで、台本に書かれている通りの人になるにはどうしたらいいかを考える。これまでもこれからも、それはずっと変わりません。

――映画『グッバイ・クルエル・ワールド』で共演された西島秀俊さんは、奥野さんのことを「役に没入する、憑依型の役者」と評していましたが、ご自身ではどのように考えていますか?

奥野:いや〜、どうなんですかね(笑)。でも西島さんにそう言われている瞬間でさえ、「あっ、ここの部分のことかな~」って思うこともあるので、ひどく客観的な部分もちゃんとあるように思います。現場というものはどうなるかわからないっていう、イチかバチかを楽しんでいるところもあるので、見てくださる観客の皆さまに、どうやって想像力を膨らませてもらうか。まぁ、そういう“遊び”もしたいなと思ってます。

僕は、わりとほとんどの現場で右往左往しちゃいます。役の心理に近づくためにどうしたらいいか、自分の脳みそだけじゃ足りないので身体の全部で考える。自分からできるだけ離れたいと思って台本を読んでいる節があります。共演者の方、スタッフの方、周囲の方からエネルギーをいただきながら、ずっと考え続けてます。

役者を“仕事”だと思ったことはない

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――吉田は、仕事に対するこだわりがとても強い人物です。奥野さんの、仕事における譲れないこだわりはなんですか?


奥野:こだわりですか……。変な話ですけど、役者をお仕事とは思ってないのかもしれません。皆さんも仕事ではなく、好きなことに対するほうが、こだわりというか、エネルギーが湧きませんか?

きっと、好きなことは仕事にしちゃいけないと思っているところがあって。好きなことだったらいくらでも一生懸命にこだわるエネルギーが湧くけど、「仕事だ!」と思っちゃうと、途端にそれができなくなる。どうしても、作業効率みたいなことを考えちゃいますしね。うん、僕は、あまり仕事だとは思いたくないです。

――仕事ではなく、プライベートと地続きにとらえているのでしょうか。

奥野:う〜ん、境目って、普通はあるものなんですかね? 僕は社会人として働いたことがないからわからないんですけど。

役者は、台本をもらって「この人になれ」と言われます。でも、そんなのできないよ〜って思うところから始まると思うんです。ずっと「できないな〜」と思いながらやっている。そういう試行錯誤のなかで、ふと道端を歩いている人でさえ「面白いな」「なんであんなことしてるんだろう」って考えることが、演技に役立つこともあるから。僕の場合は、切り替えはないかもしれないですね。

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――その感覚は、役者を始められてからこれまで、ずっと変わらないのでしょうか?

奥野:感覚としては変わらないです。これまでもこれからも、「苦手だな〜、おもしろいな〜」と思いながらやっていくんだと思います。

苦手だからこそ続けていけるんじゃないかな。自分らしく人前で話すってことさえ全くわからないですし、「その人である」ことはものすごく苦手です。毎回「どうすればいいんだろう」と思いながら、頭を抱えてますよ。

忘れられない言葉

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――今回の映画で、もっとも印象に残っているシーンについて教えてください。


奥野:すべて残っているんですけど、ひとつ挙げるなら終盤の、母親から送られてきたビデオテープを再生するシーンでしょうか。

目の前には物しかないんだけど、でもちゃんと、その物自体に母親の気持ちが乗っているんですよね。僕自身、プライベートでも覚えのある感情なんです。僕でさえ忘れてしまっているような作品を、母親が大事に取っておいてくれたり、見てくれていたりするから。リンクする部分があって、演じている間もグッときました。

僕の勝手な解釈かもしれませんが、このシーンには草苅監督の思いや、これまで経験されてきたパーソナルな部分が嘘偽りなく反映されていると感じたんです。感覚に寄り添わないといけない、何がなんでも失敗できないと思いました。撮影期間がタイトで、次が迫っていたんですけど、蔑ろにしちゃいけないよな、と。なので「もう一回!」って言って、何度かテイクを重ねましたね。

――この作品には、偉人による「死生観の格言」がたくさん出てきます。奥野さんにとって、忘れられない言葉はありますか?

奥野:ダンサーの田中泯さんの言葉を思い出します。泯さんのドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』(2022年)を拝見しました。上手から歩いてくる泯さんが画面中央で咲いている桜の木の前で踊る1カットのシーンがあるんですけど、踊り始めてしばらく経ってから「あれ、もう泯さん踊ってる!? いつからそこにいた?」ってなったんです。

「どうしてあんなことできるんですか?」ってご本人にうかがったら、「あれは、自分に心があるうちは、できないよね」って言われて。たぶん僕自身それまでも何度も目の当たりにはしていて憧れる感覚だったと思うんです。でもそれをスッと、なんとも軽く核心を突かれた感じになっちゃって。その言葉の破壊力が忘れられません。

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――自分から心を離す、想像もできない境地という気がします。

奥野:僕自身もそう思います。まだ感覚として実感できていないからこそ、言語として留めておこうとしている。そうしないと忘れちゃいますから。こうやって都度、尊敬する先輩や言葉に出会って励まされるから、役者を続けていこうと思えるんじゃないでしょうか。

――最後に、あらためてこの『死体の人』は、奥野さんにとってどんなメッセージが込められている作品でしょうか?

奥野:死生観って人によって違うものだけれど、全員が共通して持っているもの。育ってきた環境や置かれている現状は違えど、人生に寄り添っているテーマだし、みんなその問題と向き合いながら生きている。

死体役しか受けられない役者の姿を通して、生きることや死ぬこと、死生観を描き出している作品です。役者じゃない一般の方にも共感性があるテーマについて、ユーモラスに表現されています。その土台となっている草苅監督の感性をぜひ見てほしいですね。

(撮影=大塚秀美/取材・文:北村有)

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