映画コラム

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2023年03月18日

『シン・仮面ライダー』賛否両論になる「5つ」の理由|PG12指定だが子どもが観てもいいか?

『シン・仮面ライダー』賛否両論になる「5つ」の理由|PG12指定だが子どもが観てもいいか?



賛否両論ポイント1:カルト宗教を連想させるショッカーの目的

本作のキャッチコピーには「変わるモノ。変わらないモノ。そして、変えたくないモノ。」とある。何が(初代「仮面ライダー」と)変わっていて、何を(庵野秀明が)変えたくなかったのか、様々な解釈があるとは思う。まずひとつ「大きく変わったモノ」をあげるのであれば「敵組織であるショッカーの目的」だろう。

初代「仮面ライダー」におけるショッカーの目的は「世界征服」という、とてもわかりやすい「悪」だった(石ノ森章太郎による漫画版でショッカーは「人間のロボット化の計画」も実行しようとする)。

今回の『シン・仮面ライダー』でもショッカーが倒すべき悪であることに変わりはないが、打って変わって「人類の幸福のため」という大義名分を挙げており、その言い分は今まさに日本で問題となっているカルト宗教を思わせるし、とある「疫病」についての考えがコロナ禍での危険な思想にリンクしているところもある。

初代からショッカーの目的を大胆にも変えることにも賛否両論があるとは思うが、それ以上に『エヴァンゲリオン』シリーズの「人類補完計画」をどうしたって連想させる、庵野秀明ファンこそが「またこういうのか」と思ってしまうというのも致し方がないことだろう。

(C)カラー

その全人類を巻き込もうとしている計画には過去の悲劇があり、ディスコミュニケーションの問題が関わっているというのも、やはり庵野秀明および『エヴァ』らしさに満ち満ちているのだから。

だが、そうした人間の苦悩や絶望が行きすぎれば、全人類を巻き込みたくなるほどの危険な思想が生まれてしまうのは、やはり全く古びていないし『シン・ゴジラ』が東日本震災後の日本を連想させたように、今日的ですらあるテーマだと思う。それが、庵野秀明が一貫して描きたいことなのだろうと、個人的には大いに納得はできた。



何より、「世界征服」という目的は、今では説得力を欠いた絵空事のように感じてしまうだろうし、カルト宗教が体よく掲げる「幸福になれる」目的のほうが、やはり良い意味での恐怖をダイレクトに感じられると思うのだ。

そうしたショッカーの間違った思想に対しての主人公サイドのメッセージは、直接的すぎるほどに直接的だが、もともと特撮ヒーローものでは主義主張を高らかに宣言することが伝統的でもあるので個人的には違和感がなく、キャラそれぞれの矜持をしっかり受け取れる場面でもあった。池松壮亮・浜辺美波・柄本佑、そして森山未来という俳優陣の力があってこそ、十分な説得力を持たせることができたとも言えるだろう。

ただ物語の大筋はシンプルなはずなのだが、このショッカーの目的が大きく変わったことによって、専門用語の多用やキャラそれぞれの思想の強さなど、庵野秀明らしい小難い印象がこれまでの『シン』シリーズよりもさらに加速している。一度観ただけでは全てを把握できない情報量の多さも、良いと思う人もいれば煩わしく思う人もいそうだ。

なお、テレビアニメ化が決定した漫画「AIの遺伝子」の作者である山田胡瓜が本作の脚本協力をしており、前日譚のスピンオフコミック「真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-」の漫画脚本も担当している。

パンフレット掲載の山田胡瓜のインタビューによると「庵野さんのメモにあった人類の幸福を追求しているはずの組織が実は“悪”というのは面白いかな、と思った」とあり、やはり根底には庵野秀明の思想が明確に表れているのは間違いない。さらに、実際の本編にまさに人工知能(AI)の存在があることには、石ノ森章太郎による漫画版だけでなく、その「AIの遺伝子」らしさも存分に感じさせた。

賛否両論ポイント2:浜辺美波演じる緑川ルリ子のキャラクター性

初代「仮面ライダー」における緑川ルリ子は、仮面ライダーこと本郷猛が、自身の父の緑川弘を殺してしまったのだと誤解してしまう。石ノ森章太郎の漫画版でも設定は同様で、2005年の映画『仮面ライダー THE FIRST』でも(異なるキャラであるし父から婚約者へと変わっているが)踏襲されているポイントだった。

いかにも悲劇のドラマとして活かせそうな設定だが、今回の『シン・仮面ライダー』では緑川ルリ子の誤解そのものが描かれない。むしろ後述すように「優しさ」がすぎる本郷猛へ、父の行動が「エゴ」であることを諭そうとする、現実主義的的で冷静なキャラへとシフトチェンジされており、そして「バディ」としての活躍もさらにウェイトを置いた印象があったのだ。

極端なことを言えば、今回の緑川ルリ子は『エヴァ』の綾波レイと、惣流(式波)・アスカ・ラングレーをミックスしたような役柄でもあると思う。クールな言い回しではあるが主人公を心配する様は前者を、優しすぎる様を攻めたりツンツンする様が後者そのもの。

この緑川ルリ子が『エヴァ』に「寄っている」ように思えること、庵野秀明の好みが思いっきり表れていることも賛否が出そうだが、浜辺美波の存在感もあって、現実離れはしているがちゃんと好きになれるヒロインになっていたとは思う。

その本郷猛との関係性を2時間の映画の中で描くために、前述した誤解をする過程をバッサリとカットしたのだとも納得できた。また、繰り返される「私は常に用意周到なの」という決め台詞も、『シン・ウルトラマン』の山本耕史演じるメフィラスの「私の好きな言葉です」のようなマネをしたくなる魅力があってとても良い。

とはいえ、そうしたキャラクターのクセの強さが、これまでの『シン』シリーズよりもさらにはっきりあるというのも事実。緑川ルリ子の他にも、「ケイ」という敵サイドのキャラがやたらと良さげなイントネーションで英単語を言うルー大柴のような印象も、『シン・ゴジラ』の石原さとみが演じた役に引き続き好みが分かれそうだ。

そしてシークレットキャストが演じる、とあるクレイジーかつセクシーな役は、セクハラ的な描写が批判された『シン・ウルトラマン』から「反省する気がない」印象も持ってしまった。

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©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

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