『シン・仮面ライダー』賛否両論になる「5つ」の理由|PG12指定だが子どもが観てもいいか?
賛否両論ポイント3:実写『キューティーハニー』のリベンジのような「アニメっぽい」アクション
『シン・仮面ライダー』の大きな見所は、やはりアクション。初めからフルスロットルで見せ場を展開するのは『シン』シリーズの共通事項であるが、今回は冒頭からハイスピードかつ派手で情報量の多いアクションが展開するので大興奮した方が多いだろう。岩崎琢による音楽がカットごとにハマっているし、音響を含めた迫力は劇場で観てこそのものだ。
ただ、西野七瀬演じるハチオーグとの戦闘シーンはかなり好みが分かれそうだ。何しろ、ここであえて「止め絵」を強調したような、滑らかではない「カクカクした」見せ方をしたバトルとなっている。これは、2004年の庵野秀明監督作品である実写版『キューティーハニー』を連想させるものだったのだ。
ただ、実写版『キューティーハニー』で売りとなった、アニメっぽさを実写で再現する「ハニメーション」という試みは、逆に安っぽさが出てしまっているなどで批判的な声が上がる理由でもあった。そちらが興行的にも失敗した作品であるだけに、今回のハチオーグとの戦闘シーンは、その「リベンジ」であるように見えたし、個人的には『キューティーハニー』の時のような安っぽさはそれほど感じず、むしろケレン味たっぷりで面白く観られた場面でもあった。
また終盤のバイクアクションは、2017年の韓国映画『悪女/AKUJO』を思わせる面白いギミックがあり個人的には大満足だった。「暗すぎて見づらい」という意見もあるが、黒を貴重した画それぞれがまたカッコいいのも事実。24日からスタートする、黒がクッキリと見えることも売りの「ドルビーシネマ」上映で観れば、より楽しめることだろう。
また『シン・ウルトラマン』と同様に物理法則的にはあり得ないバトルが多めというのも好みは分かれそうだ。とはいえ、その超現実的な印象もまたケレン味というか、笑ってしまうほどのインパクトがあったので、個人的には楽しめた。アクション監督の田渕景也は2022年の『バイオレンス・アクション』がかなり酷評されてしまっていたが、今回は演出の過剰さも「仮面ライダー」には合っているように思えた。
ただ、大いに気になったのはラストバトル。もちろんネタバレになるので詳細は伏せておくが、もう少し万人が飲み込みやすいように工夫できなかったのかと、悪い意味でモヤモヤしてしまった、というのも正直なところだ。
余談だが、本作から実写版『キューティーハニー』の他、(おそらく画の印象やダウナーなトーンのヒーローものであることから)紀里谷和明監督による2004年の映画『CASSHERN』を連想する方も多い。
一方で個人的には塚本晋也監督による1989年の映画『鉄男』も「肉体と精神が変容する男」の悲劇とグロテスクさを描くという点で、今回の『シン・仮面ライダー』に通じていると思う。まさに塚本晋也が緑川弘役で出演するというのも、そのリスペクトなのかもしれない。
賛否両論ポイント4:詰めこんだ結果、歪にもなっている
『シン・ウルトラマン』にも通じているポイントとして、元々は1話が30分に満たない連続ドラマを一本の映画に仕立てる上での、構成の不自然さがある。
まず、本郷猛が改造されるまでの過程をバッサリとカットし、「その後」のアクションから始まるということからして、かなり大胆な構成だ。このことから、彼が望まずして改造人間になった悲劇性が減じたと思う方もいるだろう。また、ヒーローとして(ハチオーグに洗脳された人たちはいたものの)市井の人を救う場面もないに等しく、完全に仮面ライダーとその協力者たちと怪人たちの関係だけで物語が「閉じた」印象もある。
後述する「優しい」本郷猛の物語としては大いに筋は通っているのだが、さすがに設定の説明がやや多すぎるきらいもある。テンポの良い編集を重視しすぎたためか場面の転換がやや唐突に感じてしまった部分もある。2時間の上映時間の中に詰め込んだために、良く言えば贅沢、悪く言えば矢継ぎ早な印象もある。アクションとドラマのシーンの緩急もやや極端だ。
とはいえ、その歪(いびつ)さをも含むことですら、この『シン・仮面ライダー』の独特の味わいになっていると思う。何より、多少の整合性に欠く場面があったとしても、庵野秀明の(パンフレットでは自分個人がやりたいこと以外のことが重要だと繰り返してはいるものの)「これがやりたい」がここまで全編に表れていることを、好きにならざるを得ないのだ。
賛否両論ポイント5:本郷猛の優しさと、その顛末
本作は前述した通り、PG12指定納得の殺傷と流血の表現がある。そして「暴力を描いてこそ、伝えられるものがあると改めて思わせてくれた」理由は、主人公の本郷猛が誰かを殺害してしまうほどの力を恐れ暴力を嫌う心理、そして彼の「優しさ」へ直結していることだった。その本郷猛の優しさは、劇中で度々「優しすぎる」「良いところでもあるが、弱点でもある」などと、たびたび指摘される。設定そのものも、初代での一流の生化学者かつバイクレーサーから、「コミュ障で無職」へと変更されている。一方、変わらないのは、勝手に改造され戦いに身を投じるしかない、悲しみを背負ったヒーローであることだろう。
この緑川ルリ子以上に大きく変わった本郷猛の性格と設定もまた賛否を呼びそうではあるが、個人的には大好きだ。「暴力ではなく、優しさで世界は救えるのか」という問いかけも、本作には存分に含まれていると思えたからだ。
現実の世界を見回せば、残念ながら戦争やテロなど、暴力で己の「正義」を示そうとする者がたくさんいることがわかる。だからこそ今では「世界征服を企む悪の組織を倒す」が通用しないという考えが、おそらくは庵野秀明および作り手にはあったのではないか。
それがカルト宗教のように全人類の幸福を願うショッカーの目的であったり、優しさと弱さが表裏一体の本郷猛に反映された結果だと思えたのだ。また、劇中のとある「幸せ」と「辛さ」に対しての言説も、物事の本質が紙一重であるという提言だろう。
また、庵野秀明はほぼほぼ一貫してディスコミュニケーションの問題を描き、逆説的に人と人との繋がりの尊さを示してきたとも言えるが、今回は「孤独」をも肯定してみせることにも感動があった。「ひとり」も決して悪いことばかりではない、時には必要な時間でもあるというのも、とても今日的かつ大切なメッセージでもあると思えたし、ひとりで戦うことも多かった「仮面ライダー」らしさだと思うのだ。
そして物語の結末は、その「優しい」本郷猛の物語としても納得できる、感動的なものであると同時に、劇中最大のサプライズでもあった。それもまたやはり賛否あるポイントだろうが、「庵野秀明がどうしてもやりたかった『仮面ライダー』」として、個人的には大いに肯定したいのだ。
(文:ヒナタカ)
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