映像作家クロストーク

SPECIAL

2023年03月30日

【対談】Aマッソ『滑稽』演出 大森時生×YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』 皆口大地│「VHSってつくづくホラーのためのメディア」

【対談】Aマッソ『滑稽』演出 大森時生×YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』 皆口大地│「VHSってつくづくホラーのためのメディア」


VHSはやっぱり怖い


ーー大森さんはテレビを飛び出して『滑稽』で舞台を手がけられましたけど、皆口さんはYouTubeという場所を飛び出して、例えばテレビの世界で番組を作るなら……とか考えたりしますか?

大森:それはお聞きしたいです。ぜひテレビで一緒になにか作れれば嬉しいですね。

皆口:テレビで……(笑)。でも、テレビの深夜帯とかって、独特の雰囲気ですもんね。テキトーにザッピングしてたら、事故のように急にわけがわからない番組がやってたりするロマンはYouTubeには真似できないですよね。どこかそこに憧れてるのはあります。それこそテレ東さんの『蓋』(*3)とかすごく良かったですよね。

大森:『蓋』すごく良いですよね。昨年に退社された上出(遼平)さんが手がけていたんですけど、「蓋」のような未明にたまたま「目撃」したという感覚にはすごい憧れがあります


*3…….テレビ東京で2021年9月未明、「停波帯」と呼ばれる時間に不定期で放送。人気番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を手掛けた上出遼平とヒップホップユニット・Dos Monosのコラボ番組で、渋谷川の奥に潜む地底人を探すモキュメンタリー。

皆口:ああいう番組に偶然出会ってしまった時の「キュン」っていうものに憧れてるところはすごくあるんです。もし自分がテレビで何かできることがあるなら、そういう憧れを形にできたらいいかなと思いますね。

大森:今のテレビの唯一の強みが、勝手にこっちから視聴者に届けられるっていうところだと思うんですよね。こういう言い方をすると、テロリストみたいですけど、勝手にメディア側から生活に侵入していける魅力を感じています。


ーーそれぞれお二人にお聞きしたいのが、今の作風に至るテレビ体験や映画体験をお聞きしたいです。これまで観てきた作品で、頭の片隅にずっと残っているものはありますか?

大森:リアルタイムで観たものではないんですけど、高校生か大学生ぐらいの頃に観た『バミリオン・プレジャー・ナイト』(2000年/*4)ですね。正直、本当によくわからない番組で、面白いかどうか怖いかどうかもよくわからなかったんです。ルールも規則性もメッセージ性もないような気がして、テレビっていう媒体でこんなにもわからないことをやって、でもそれがすごく新鮮で、なんとなくずっと心に残っていますね。また、強く影響を受けているのが『ワラッテイイトモ、』です。

*4……2000年にテレビ東京で放送されたコントやアニメ、歌をテーマにしたバラエティ番組。難解な映像が多く、中でも有名な作品は『フーコン・ファミリー』(後の『オー!マイキー』)。

ーーK.K.という方が作ってキリンアートアワード2003を受賞した映像作品で、『笑っていいとも!』をサンプリングした、もはや都市伝説のような存在ですよね。

大森:大学生の頃に見て、既存のバラエティ番組を切り張りして異物を作り上げるという手法に衝撃を受けましたね……。個人的に音楽はVaporwave(*5)がすごく好きで、謎のサンプリングとか無秩序な切り張りっていう概念がそもそも好きで、それによって不気味なものが出来あがることに面白みを感じるんです。だから、わかりやすく怖い番組やホラー映画って、人並みには観てきていますけどそこまで通ってきていないんですよね。ジャンプスケアがあるホラー映画に至っては苦手すぎて、いつジャンプスケアがあるか調べてから観るほどで(笑)。ホラー映画好きにはブチギレられてしまうと思うんですけど……。

*5……2010年にインターネット上のコミュニティから生まれた音楽のジャンル。80年代から90年代初頭の大衆音楽をサンプリングして作られる。アートワークもVHSや初期のWindowsの画面などが多用される。

皆口:そうだったんですね(笑)。自分が影響を受けたのは間違いなく、堂本剛さんが出演していた『金田一少年の事件簿』(1995〜97年)と、『ほんとにあった!呪いのビデオ』(*6)シリーズですね。まだ小さい頃、『金田一少年の事件簿』を観たときに眠れなくなるほど怖くて「もうホラーっぽいものを観るのは辞めよう」と思うほどトラウマで。そこから5〜6年経って、そろそろ大丈夫かな? と思って『ほんとにあった!呪いのビデオ』を観たらまた眠れなくなって、おまけにその時味わった恐怖心を3日間ぐらい引きずったんですよ(笑)。

*6......1999年にリリースし現在まで続く人気シリーズ。一般から投稿されてきた心霊現象が記録されているVHSを検証していく。『Q』にも参加している寺内康太郎監督も2004年の作品に参加している。また、Base Ball Bearの小出祐介が熱狂的なファンであることでも有名。

大森:『ほんとにあった!呪いのビデオ』は本当に引きずりますよね(笑)。

皆口:引きずりましたね……。それで、もうちょっと優しいのだったら自分にも観れるかもしれないと思って、他のホラー映画を観るようになっていって。本質的にホラーが好きだったんでしょうけど、とにかく耐性がなかったんです。だから、今でも「あの頃に観た眠れなくなるような作品がどこかにあるはず」っていう怖い物観たさがホラー作品をずっと観ている原動力みたいなところがありますね。


ーーいま「引きずる」という言葉が出ましたけど、お二人の作品も観た後、頭の片隅に染みができるというか、残るものが多いと思うんです。そのあたりは意識して作られていますか?

大森:そうですね。観終わった後の感覚は大事にしたいな、とはいつも思っています。それでいうと黒沢清監督の『CURE』(*7)が現体験としてあるかもしれないですね。最後のレストランのシーンの不気味さが忘れられなくて、いつまでも思い出せますけどたまに見返したりしていますね。具体的に画作りなどの参考にしているというより、感情として大事にしたい映画というか。

皆口:『CURE』なんですね。なんかちょっと意外ですね。

*7……1997年公開作品。役所広司が演じる猟奇的殺人事件の犯人を追う刑事の姿を描いたサイコ・サスペンス。

大森:そうですよね。なんといいますか、僕はフェイクドキュメンタリーを作ってるっていう感覚があんまりなくて、自分の中ではあくまでフィクションを作ってるっていう感覚なんです。

皆口:なるほど。自分自身、作り手としての意識が薄いというか、いまだにいちホラーファン、いち視聴者という感覚がありますね。大森さんの中での『CURE』が、僕でいうところの『リング』(*8)かもしれません。貞子がブラウン管から出てくる、あの瞬間の恐怖度ってものすごいボルテージだと思うんです。あれを超えるとしたら、どういうアイデアだろう? とかは、ふと考えちゃったりしますね。

*8……1998年に公開されたホラー映画。監督は中田秀夫。観たら1週間後に死ぬという呪いのビデオを取り巻く物語で、公開後に社会現象になるほどヒット。この作品以降「呪いのビデオ」をテーマにした作品が多く生まれた。

大森:『リング』でいうと、VHSを超えるメディアってまだ出てきていないですよね?

皆口:それは本当にそう思いますね。

大森:『このテープ』もVHSに頼りっきりだったんですけど、あの画質感も含めて潜在的に恐怖感のあるVHSって強すぎますよね。誰が見ても無気味に感じちゃうVHSを超える何かがないのかなとはよく考えたりするんです。最近、NewJeansの『Ditto'』という曲のMVでガラケーが出てきていたんですけど、僕はVHSをあまり通ってない世代なので、逆に初期のガラケーの画質はいま怖さを感じるかもなって思ったりしたんですけどね。


韓国の人気グループ・NewJeansが昨年公開したMVで、90年代のハンディカムやVHSなどを駆使した映像が話題となった

皆口:自分はレンタルビデオ屋の棚がVHSから徐々にDVDへと染まってゆくのを見ていた世代なんですけど、VHSで映画を観ていた当時からVHS特有の不気味さは感じていたんですね。でも、徐々にDVDになり、VHSの怖さってなくなっちゃうのかなって思っていたら、全然消滅はしていないですよね。どっかに仕舞われたまま埋もれて埃をかぶって、現役じゃなくなることによって、むしろあの頃より怖い存在になっていってる。

大森:まだまだずっと怖いですよね。VHSが孤高の存在になってる要因のひとつとして、デジタルでVHS風の画質に加工をするのがけっこう難しいというのもあるかもしれませんね。『このテープ』は、撮影した映像をVHSに一回落として、何度もダビングしたりしてあの画質感を出してるんですよ。それと、VHSの上書きできるっていうギミックがやっぱり面白さと怖さを生んでる気がしますね。それこそ『Q』でもそのギミックを使った作品(『Q1「フェイクドキュメンタリー」』)がありますもんね。


Q1「フェイクドキュメンタリー」より。テレビ制作会社に保管されていたあるVHSを検証してく

皆口:そうですね。VHSってつくづくホラーのためにあるようなメディアですよね。『Q』はいつかVHSで発売したら面白いと思うんですけどね。

大森:それは欲しいですね!

皆口:チャンネル登録者数100万人とかいった際には、記念品に(笑)。

Profile


皆口大地(写真左)
1987年生まれ。WEBデザイン会社でデザイナーとして勤務しながら、2018年にディレクターとして心霊スポットに突撃するエンタテインメントYouTube番組『ゾゾゾ』を立ち上げる。その後、2021年8月より『フェイクドキュメンタリー「Q」』をYouTubeで配信スタート。全12話でシーズン1は終了し、シーズン2も配信している。

大森時生(写真右)
1995年生まれ。2019年にテレビ東京入社。2021年12月末に放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』ではプロデューサーを担当。その後、制作した『Raiken Nippon Hair』で『テレビ東京若手映像グランプリ』優勝。他担当は番組は『島崎和歌子の悩みにカンパイ』(2022)、『このテープもってないですか?』(2022)など。Aマッソの単独公演『滑稽』では演出を担当。

(撮影=前田立/取材・文=市川夕太郎)

Aマッソお笑いライブ『滑稽』配信チケット販売中 


大森時生が演出を担当したAマッソのお笑いライブ『滑稽』の配信チケットが以下のリンクにて発売中。
https://pia-live.jp/perf/2302353-001

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!