<考察>「マリオの映画」がイルミネーション映画の集大成だった“3つ”のワケ
1985年9月13日、ファミリーコンピューター用ゲームとして発売された「スーパーマリオブラザーズ」。シンプルなゲーム性、耳に残るサウンド、そして可愛らしいキャラクター。一度遊んだら忘れられない本作は、令和になった今でも老若男女に愛されている。
そんな「スーパーマリオブラザーズ」がこの度、映画になってスクリーンにやってきた!
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を手がけたのは、『怪盗グルー』シリーズで知られるイルミネーション。イルミネーション作品といえば、ミニオンズをはじめとする個性的なキャラクターが群れをなして映画を盛り上げていくイメージが強い。
実際に鑑賞すると、本作は「マリオ」の映画でありながらも「イルミネーション」らしい作品に仕上がっていた。今回は、イルミネーション作品の特徴を踏まえながら『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の魅力に迫っていく。
【目次】
※本記事は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の核心に触れるネタバレを含みます。ぜひ鑑賞後にご覧ください。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
▶︎『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観る
【関連記事】2023年上半期注目映画「5選」|マリオ、ジョージ・ミラー最新作など
1.イルミネーション社における「群れ」の美学
イルミネーション映画といえば、まず「ミニオンズ」を頭に浮かべるであろう。バナナのような形をした謎の生物。彼らは「最凶のボスに仕えること」を目的とし、恐竜やヴァンパイアなどの仲間として活動してきた。彼らの行動はユニークだ。
『怪盗グルーのミニオン大脱走』では、今にも崩壊しそうな浮遊船を作り、巨大風呂敷のようなものの中にミニオンズが敷き詰められながら陽気に移動する。「群れ」としてのユニークなアクションが特徴的なミニオンズであるが、じっくり見ると一つひとつが個性を持っていることが分かる。
毛の生え方はもちろん、目も一つだったり二つだったりするのである。また、スペイン語からロシア語、日本語と様々な言語を操りコミュニケーションを取っていくことも特徴的だ。群れとしての大きなアクションを描きながらも、個々のキャラクターを丁寧に描いていく演出は、『ペット』『SING/シング』にも受け継がれている。
イルミネーション創業者であるクリス・メレダンドリはこう語る。
イルミネーションでは、第一にキャラクターを重視している
(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』プレス資料より引用)
つまり、イルミネーション映画にとって空間に存在するキャラクターは決して背景ではないのである。一つひとつのキャラクターを作り込んで、世界を描く。それがイルミネーション社の強みともいえるのだ。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも、この特性が活かされている。冒頭、クッパ軍団がペンギンの王国へ攻め入る。戦艦からノコノコたちが現れる。カメラは、新米ノコノコと熟練のノコノコを収める。新米ノコノコは、これから戦が始まる緊張のあまり甲羅に身を隠し震えている。その横で、熟練のノコノコは勇ましく構えている。
またキノピオ王国の場面でも同様に、マリオを興味深げに見つめる者、写真を撮る者、買い物に夢中となっている者と多様なキノピオ像が描かれている。これは、マリオとルイージが住むブルックリンと変わらないことを示す。
ブルックリンでは、ダイナーでライバルのブラッキー(『レッキングクルー』で登場するライバルキャラクター)に煽られる様、高級住宅でのメンテナンス業務、ヒリヒリする家族との夕食、マリオ&ルイージが市民と対話することによって人生を歩んでいる様子がリアルに描かれている。
どれも短い時間でありながらも、全ての世界に登場するキャラクターを細部まで描こうとしているため、異世界にワープしてもすぐに適応するマリオ&ルイージに違和感を抱かないものとなっている。
もちろん、群れアクションとしての面白さもある。本作において顕著なのは、レインボーロードを使ったカーチェイスシーンであろう。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を彷彿とさせる個性的な車に乗ったマリオたちとクッパ軍団が、ガードレールなしの危険な道を疾走する。
ゲームならではのアクロバティックなショートカットを行い、アイテムを駆使しながらゴールを目指す。その過程で連鎖的に、車がクラッシュしていく様子を描く。個にもフォーカスを当てているため、複雑な動きをしながらも観やすいアクションを展開しているのである。
2.共感から一歩引いたところから描くドタバタコメディ
イルミネーション映画の特徴として「共感」から遠ざけたキャラクターを物語の中心に置く傾向がある。『怪盗グルー』シリーズは悪党目線の話であることが多い、『ペット』の主人公マックスは自己中心的な性格を持っている。
『グリンチ』は人間嫌いが主人公で、『SING/シング』のバスター・ムーンは詐欺に近い手法でアーティストを手配しようとする。一貫して、現実世界では軽蔑されるような人物を用いて物語を描いていくのだ。
これは1930〜50年代に流行したスクリューボール・コメディに近い作りとなっている。スクリューボール・コメディとは、男女のカップルが軽妙な会話をしながら思わぬ方向に物語が転がっていく「コメディ映画」のサブジャンル。「共感」から程遠い人物が破壊を引き起こしながら物語を推進させる傾向がある。
『赤ちゃん教育』では、スーザンが古生物学者デビッドを振り回しながら、恐竜の模型を破壊するにいたる。破壊しても軽く謝るだけで、模型をよそに愛を伝える。
『結婚五年目(パームビーチ・ストーリー)』では、妻を追って列車に乗り込むトムを待ち受けるのは、列車の中でクレー射撃のようなものを始める集団だったりする。映画は彼らを罰することなくトラブルの一種として処理していく。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』においてマリオ&ルイージはトラブルメーカーとして描かれている。ブルックリンパートでは、バスルームのメンテナンスに来たふたりが、不慮の事故ながら愛犬を殺害しようとしたり、水漏れを阻止しようとする過程で事態を悪化させていく。
クッパは、ピーチ姫と結婚するために部下や国民の反応をよそに侵略行為を行う。双方が対決した結果、ブルックリンに甚大な被害を与えるもお咎め受けることなく物語は終わる。
この物語構成は『怪盗グルーのミニオン大脱走』に近いものがある。売れなくなった子役バルタザール・ブラットが現実で悪役になろうとし、グルーたちが阻止する内容だ。本作ではグルーの兄弟ドルーが登場するのだが、二人は意気投合した結果、家族やミニオンズを軽く扱うようになってしまう。最終決戦では街が壊滅的被害に遭いながらもほとんど言及されない。こじれた人間関係はいつの間にか修復されハッピーエンドを迎える。
お笑いコントが、共感から外れた者を主人公にして「楽しさ」を生み出すように、イルミネーションは共感から外れた人物を中心に起き、因果関係よりも視覚的・運動的面白さに力点を置いている。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』もその系譜に連ねられる作品といえよう。
3.ライトに引用される楽曲たち
本作を観た方なら、とある違和感を抱くであろう。マリオの映画にもかかわらず、ボニー・タイラー「ホールディング・アウト・フォー・ア・ヒーロー」や『キル・ビル』のテーマ曲などが使用されている。中には文脈が分かりにくい引用も行われている。
例えば、ピーチ姫たちがジャングル王国へ行く場面。ドンキー・コングが王国を案内する場面でa-ha「テイク・オン・ミー」が流れる。
「テイク・オン・ミー」はラブソングである。告白しようとする者の葛藤を描いた内容だ。確かに、スティーヴ・バロンが手がけたMVは歌詞に異なる意味を与えている。ダイナーで読書する女が漫画の世界に導かれていく。店員が雑誌をゴミ箱に捨てたことで、現実/虚構を繋ぐ窓が閉ざされ、女は漫画の世界のヒーローと出口を探していく。なんとかダイナーへ戻ってきた彼女は、男の面影を求めていく。
告白を前面に置いた歌詞とは異なり、サスペンスを通じて愛が生まれてくる内容となっている。このMVでは、他者に対して強く引っ張る側面を軸に全く異なる物語を展開しているが、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ではその要素すら排除されている。
実は、イルミネーションにおける音楽の使い方は独特である。歌詞よりも、その場を盛り上げるに適しているか否かが重要視されている。実際に「テイク・オン・ミー」は『怪盗グルーのミニオン大脱走』でも使用されている。バルタザール・ブラットが強盗する際にこの曲が流れるのだが、脈絡がない。
彼が80年代に囚われた人であり「テイク・オン・ミー」が80年代のヒットソングであるぐらいでしか交わらない。『ミニオンズ』では、運転するおばあちゃんは「ワルキューレの騎行」を流し、ミニオンズは雪山で「雨に唄えば」の楽曲を歌い踊り狂う。
我々が通勤、通学中に高揚感を上げる曲を聴くような、または歌詞ではなく音楽性で聴くような使われ方をしているのだ。この手法は、映画に対する心理的なハードルを下げる役割を果たしている。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』では、所狭しとゲームネタが散りばめられている。それはマリオシリーズだけに留まらず、例えば電話の着信音がゲームキューブの起動音であるようなマニアックなネタまで使用される。
しかし、本作はあくまで老若男女だれしもが楽しめるエンターテイメント作品であること。あえて、楽曲を文脈から引き離すことでイルミネーション社としての姿勢を魅せていると考えられるのである。
最後に
アメリカのビジネス誌FORTUNEによれば、本作は北米で劇場公開されたアニメ映画としては最大のオープニング興行収入を獲得する大ヒットを叩き出している。イルミネーション社が意識するキャラクター性、楽しさ、そして心理的なハードルの低さを持った演出の集大成ともいえ、任天堂ユニバースを形成する上で好影響を与えていくことだろう。
ヨッシーの映画が作られたり、「星のカービィ」や「ゼルダの伝説」が映画化され「大乱闘スマッシュブラザーズ」で合流するような展開になったとしても、初見が入りやすい映画が作られると思うと期待が高まるばかりである。
(文:CHE BUNBUN)
参考資料
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C) 2023 Nintendo and Universal Studios