(C)和久井健/講談社 (C)2023映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」製作委員会

『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』に見た村上虹郎の「静」の中にある「動」

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二世タレント、アイドル、役者に向けられる目はさまざまだ。「親の七光り」なんて言葉は死語になりつつあるが、両親が有名であればあるほど、姿がチラつくのは避けられない。

『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の両方で、物語の根幹を握るメインキャラクター・羽宮一虎を演じた村上虹郎も、役者の父と歌手の母を持つ。しかし、不思議と彼の背後に両親の顔は見えない。それは、彼が役者としての確固たる表現力を築いたからではないだろうか。

本作で見せた村上虹郎の求心力に触れたい。

声にならない声……誰もが目を引く悲痛なシーン

『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』では、10月31日に勃発する東京卍會と芭流覇羅(バルハラ)の“ハロウィン決戦”に至るまでの過程を、後編にあたる『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』では、その闘争の一部始終が描かれる。

村上虹郎演じる一虎は、もともとはマイキー(吉沢亮)率いる東京卍會の創設メンバーのひとりだった。なぜ東京卍會を抜けることになったのか、なぜ敵対チームである芭流覇羅に移ってしまったのか……。その元となった事件の顛末や一虎の抱える葛藤については、主に前編で明らかにされている。

一虎とマイキーの仲を深く穿つことになったきっかけは、一虎が起こしてしまった“とある事件”。一虎は決してマイキーを憎んではいない、むしろ親愛の情さえ持ち合わせていたが、その仲間愛がいき過ぎたゆえに修復不可能なところまできてしまった。強い愛は、恨みや憎しみと表裏一体なのかもしれない。


とある事件をきっかけに、警察に連行されてしまう一虎。身を警察に引きずられながら、規制テープの向こうで涙を流しつつ見守るマイキーに向け、必死に助けを求める一虎の姿が痛々しい。

まさに、声にならない声。「助けて」とも「ごめん」とも言わない、ただひたすらに「マイキー」と名前を繰り返すだけの一連のシーンは、なんとも言葉にできない感傷を連れてくる

なぜ、一虎はあそこまで暴力的に、マイキーに憎しみを向けるようになってしまったのか。その理由がすべて、このシーンに詰め込まれているといっていい。一度見ただけで、そのあと何度も何度も反芻せざるを得なくなる力が秘められた場面だ。この瞬間、マイキーが一虎に向け手を差し伸べていれば、未来の二人が仲違いすることはなかったのだろうか。

「静」のなかに秘められた「動」の演技

村上虹郎は、淡々とした演技のなかにも、常に炎を燻らせているような表現に長けている役者だ。「静」のなかに「動」が秘められているような、生半可な気持ちで触れれば大爆発を起こしてしまうような。直近で言えば、映画『プリテンダーズ』(2021)で演じた半グレ集団の一人・世界が顕著である。



決して長い出演時間ではないものの、そのインパクトは抜群。本作は、小野花梨演じる花田花梨と、見上愛演じる仙道風子の二人が、若い感性を発散し「世界を変えよう」とする物語である。少々行き過ぎた彼女たちに対し、荒っぽいやり方でお灸を据える立ち回りをするのが、村上虹郎演じる世界と呼ばれる男だ。

笑顔で飄々としており、何を考えているかわからない男だが、おぞましいほどに言動が軽々しく倫理性に欠けている。決して敵に回したくはない、と感じさせる人間。彼が登場するシーンは全体的に画面も暗く、やっていることも凄惨なので、人によっては「直視できない」と目を逸らしてしまう場合もあるだろう。

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大なり小なり誰もが心の内に持つ、良心や道徳といった概念そのものがすっぽ抜けているような男。村上虹郎の凄いところは、根っからのサイコパスのような役柄はもちろん、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021)で演じた雉真勇のような、爽やかな好青年も演じられる振り幅だ。

また、村上虹郎といえば、Netflixで配信されるや否や海外にまで人気が飛び火したドラマ「今際の国のアリス」(2020〜)にも出演。肩まであるブロンドヘアが印象的で、一見何を考えているかわからないミステリアスなキャラ・チシヤを演じている。

アリス(山﨑賢人)やウサギ(土屋太鳳)をじっと観察する佇まいや、心理戦である「ハート」のげぇむを得意とするところからも、つかみどころのなさが垣間見える。村上虹郎は、市井の人間を屈託なく演じることもできれば、腹の底を探らせない一クセある人物にも一瞬で化けられる。



その引き出しの多さは、一虎という一人の人間を演じる際にも活きている。元は、同じ東京卍會のメンバーであるマイキーと、一般的な友人以上の親愛で繋がっていた。それが、とある事件をきっかけに決裂する。心の内にうごめく「静」と「動」の相反する感情の動きを、実に生々しく観客たちに提示できる役者は、そう多くはいない

本作において、さらなる存在感を示すに至った役者・村上虹郎。俗的な言葉だが、“売り時”や“旬”だと判断された若手役者は、多くの活躍の場を用意される。それが吉と出るか凶と出るかは、さまざまな要因に左右されるだろう。はっきりと世の中に実力を見せつけた彼なら、戻ってくる場はいくらでもあるに違いない。

(文・北村有)

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