前田哲監督×當真あみインタビュー「彼女はあらゆる武器を持っている人」
同名の田島列島原作の漫画を実写映画化。いつも不機嫌そうなOL・榊を広瀬すず、榊が暮らすシェアハウスに引っ越してくる高校生・直達を大西利空が演じる。初対面のはずの榊と直達だが、実は過去にある因縁があった。
今回は前田哲監督と、直達に思いを寄せるクラスメイト・楓役を演じた當真あみにお話を伺った。
女優・當真あみの誕生の瞬間
――今作については、映画化のお話は2020年にいただいた、と拝見しました。
前田哲監督(以下、前田):プロデューサーの関口(周平)さんから熱いお手紙をいただいて原作を拝見しました。何より独特の間とユーモアが魅力的でしたね。結構、辛辣なお話なんですけど、ふっと笑えるようなところもあって、登場人物がすごく魅力的だな、というのが最初の印象です。
――當真さんの楓役決定まではどのような経緯があったのでしょうか。
前田:最初はずっと高校生を探していたんです。20歳以上の方が高校生役をやったりすることもありますけど、今回は実年齢の方に演じていただくと決めていたので。でも、なかなかぴったりの人が見つからなくて。それなら少し年齢を下げよう、と。
気になっていた當真さんのことを思い出していたところ、色々な偶然が重なりお会いすることになって。短い時間だったのですが、ドアを開けて、部屋に入って彼女と会った瞬間に「お願いします」と言いたいぐらいでした。
――當真さんはそのときのことを覚えていらっしゃいますか。
當真あみ(以下、當真):まだ全く演技経験もなくて、緊張していました。それまで監督さんに会う経験もあまりなかったので……。
映画はオーディションを何回か重ねて出演するイメージだったので、「まさか」という驚きと、「初めて出られて嬉しい」という気持ち、あとは「自分に本当にできるかな」という不安な気持ちがありました。
――決定までの経緯が運命的ですね。
前田:運命的な出会いをさせていただいて、こちらとしては感謝です。お芝居がどうのこうのじゃないところの、彼女の魅力があった、ということですよね。
「この役をしっかりやらなきゃ」という気持ちで精一杯だった
――撮影に入られるまでは、どういったご準備をされたんですか?
當真:私と監督と直達くん役の大西(利空)くんと何度かリハーサルをさせてもらいました。
あと、今までの自分の小さいときの写真から成長している写真を持ち寄って、「このときはどうだった」みたいな話もしたり、台本を読んだり、軽く動きをつけてやったりとか。いろいろ撮影の流れなどを教えていただきました。
前田:まずは慣れてもらうこと。上手に芝居をしてもらう必要も、芝居を固める必要も僕の中では全くなくて。お芝居に正しいなんてないわけじゃないですか。だから當真さんが何を持っているのか見たい、ということが目的でした。
子ども時代の写真を持ってきてもらったのは、利空くんとお互いのことを知ってほしかったから。小さいころにあったことを話し合うと、わりとすぐにお互いについてを知れるんですよね。
あとは、もうリラックスしてもらうこと。緊張していると持っているものの少ししか出せないものが、もっと出せるようになる。
もちろん、いろんなことを試してもらいましたが、セリフを覚えることでなく、その時の気持ちは何かということや、間違ってもいいんだよということなどをお話させてもらいました。
――最初のシーンはどういうお気持ちでしたか。
當真:これから始まるんだ、って。シェアハウスのみなさんがいるシーンからのスタートだったので、それはすごく緊張しました。
――初めての演技ということで、いろいろ考えられたりもしたのでは?
當真:この役をしっかりやらなきゃ、という気持ちで精一杯でしたね。ほかのことに気が回らず、終わってからこうしておけばよかった、と後悔したりもしていました。
――撮影されていく中で変化は感じられましたか。
當真:後半に行くにつれて慣れてきたというか。最初は初めましての戸塚(純貴)さんだったり、高良(健吾)さんもいたりして緊張していたんですけど、撮影の合間に声をかけてくださったりして、だんだんリラックスしていきました。
前田:基本的に肝が据わってる子ですから。
――錚々たるキャストのみなさんの中での初演技ですもんね。
前田:そうですね。だから演じることの欲が出でくると、もっと大きく化けてくると思いますよ。
相手のことを気遣ってる場合じゃない役に憑依するようなものが出てくれば。もうじきに出てくるんじゃないでしょうか。
當真:頑張ります(笑)。
――個人的に初めて當真さんを拝見したのがドラマ「妻、小学生になる」でした。でも順番的には本作の撮影のほうが先なんですよね。そのあとの作品への向き合い方はここで養われた、という部分はあるのでしょうか?
當真:楓ちゃんは自分の気持ちに素直で、行動にも移せるところが魅力なんですけど、私が持っていないものなんです。それを出すことがすごく難しいな、と感じていて。自分の気持ちに素直な楓ちゃんと、そうじゃない私、となったときに、もっと自分の気持ちに意識を向けて生活しないとそういう感情も出せないな、というのは思いました。
――わりとストレートに気持ちを出される役が多いのかな、という印象もあります。
前田:芯が強く見えるんですよね。今はそうじゃないって言うけど、隠し持ってるんですよ。
當真:監督に言われて、そう見えるんだって初めて知りました。
ちょっとだけ大人に不信感を持った
――本作を拝見して、家族の中での子どもの立ち位置を考えさせられるな、と感じました。子どもが主人公であったり、子どもにスポットを当てるときにどういうところにこだわっていらっしゃいますか。
前田:『水は海に向かって流れる』でいうと、ある種ヤングケアラーの話でもあるですよね。
親の都合で16歳の時に心に傷を負ってしまう。今では親ガチャだとか毒親とか、言語化されてますよね。ヤングケアラーもそうですけど、無力な子供にとっては環境によるものはすごく大きいんです。
それを「跳ね除けて」とか「頑張って」とか「何とかなるよ」とか言うのは簡単だけど。そういう励ましの言葉じゃなくて、横にそっと座ってただただ話を聞く、黙ってそばにいるだけ、というような優しい映画にしたかった、という思いはあります。
だって本人たちは一生懸命足掻いて頑張っているし、周りから見たら小石につまずいてるだけかもしれないけど、本人にとっては大きな岩が目の前にあるような状況。僕は未来に向かって映画を作りたいと思っているので、静かな優しいエール、というのかな。そういうものの作り方をしたいな、と今回は思いました。
――當真さんご自身は、この映画に登場する大人たちを見てどういった印象を持たれましたか。
當真:すごく個性的なようで、パズルのピースがぴったり合うような……シェアハウスの人たちは本当にそういう温かい組み合わせだなと思いました。お互いを尊敬し合っているような雰囲気がありますし、だからこそすごく温かく見えるというか。そこはいいなと思います。
ただ、その外に目を向けるとわりとそうじゃなくて。楓ちゃんも直達くんのお父さんの包帯を巻いてたりとかしていて、もちろん私は台本を読んでいるから、この人がどういう人かはわかっているんですけど、「こういう大人が身近にいるかもしれない」と思うと、ちょっとだけ大人に不信感も持つような気もします。
前田:本当に大人は愚かだと思います。でも愛おしい。
そういう登場人物たちですよね。懸命になんとかしようとしてるのだけど、どこか抜けていたりして、憎み切れないところがある。北村有起哉さんが演じる直達の父親も、坂井真紀さんが演じる榊の母親も。
――現場では、大人な俳優のみなさんはいかがでしたか。
當真:すごく気さくで。高良さんはちょうど私と大西くんが中学生だったので「学校どうなの」とか、馴染みやすいように話しかけてくださったり、みなさん本当に優しかったです。
――監督からは、當真さんの魅力についても語っていただきました。今後、チャレンジしてみたい役はありますか。
當真:すごく難しいのはわかってるんですけど、自分にない魅力や要素を持った役柄に挑戦したいな、と思ってます。
自分のままだと、いつも同じようになってしまうかもしれないから、別のものに挑戦したいですね。
前田:あらゆる武器を持っている人ですよ。儚げな役でも闘う強い役でもなんでもできるポテンシャルを持っている。どんどん変わっていくと思います。だからもう、すぐにでも俳優・當真あみと一緒に映画を作りたい気持ちでいます。ぜひお願いします。
當真:こちらこそ! 頑張ります。
(撮影=大塚秀美/取材・文=ふくだりょうこ)
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