「ペンディングトレイン」最終回:白浜(赤楚衛二)にとってのヒーローは萱島(山田裕貴)だった
山田裕貴主演の“金10”ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」が2023年4月21日放送スタート。本作は、山田裕貴演じる美容師・萱島直哉をはじめ、上白石萌歌演じる体育教師・畑野紗枝や、赤楚衛二演じる消防士・白浜優斗らが、乗車した電車内に閉じ込められ、近未来に飛ばされてしまうSFサバイバルストーリー。
本記事では、最終回をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
「ペンディングトレイン ー8時23分、明日 君と」最終回レビュー
こんな世界、終わってしまえばいい。前回、自棄になって闇落ちしてしまった白浜(赤楚衛二)は、12月9日に隕石がぶつかると確定しても、避難せず残ると決めてしまった。自暴自棄になって「もうどうにでもなれ」と思ったからか、それとも、最後まで消防士としての職務をまっとうしようとしたからか。地球に隕石がぶつかり、滅びてしまうとわかったとき、人はどうするか。萱島(山田裕貴)や畑野(上白石萌歌)たちは、ネット上で情報提供したり、政府や大学教授らに訴えたりしながら、ひたすらできることをした。
できることをし尽くしたあとは、ただ「最後の日まで、どう生きるのか?」を考えた。きっと仮に、現代に生きる私たちにそんな運命が待っていたとしても、同じことをするのではないだろうか。
5号車で、ともに未来のサバイバル生活を生き抜いた仲間たち。そのうちの一人が言っていた言葉が、胸に迫る。
「生まれる前に戻るだけ。もともといた場所に帰るだけ。そう考えれば怖くないわ」
半年後に隕石がぶつかり、人類が滅びるとわかったら。避難する人間と、残ることを選ぶ人間とに二分するはずだ。避難する人間は、残る人間のことがわからない。残る人間は、避難する人間のことを思いやりつつも、生きる選択から距離をとる。5号車の仲間たちのなかでも、意見は割れた。
白浜も、ギリギリまで「残る」と決めた人間の一人だ。多くの人を助ける側にまわった。一度は闇落ちしてしまった白浜が、なぜ立ち直ったか。
それは、ともに生き抜いた仲間たちから「ありがとう」と感謝されたから。畑野や萱島ともう一度、一緒に海に来ようと約束したから。あの日々はつらいことばかりじゃなかった、と思えるようになったから。
しかし、それを許さない人間がいた。萱島だ。彼も残る側かと思われたが、それは白浜を説得するためだった。「なんでここに」と憤慨する白浜に対し、萱島は言う。
「お前みたいなやつがいるから、この世界も悪くない。生きよう。何があっても」
このドラマは、私たちに多くの問いを投げかけた。当初は「30年後にタイムスリップしたらどうするか?」とSFチックな問いかけで、非現実的な空想に過ぎなかった。
それでも少しずつ、彼らが間接的に投げかけてくる問いは深みを増す。
非現実的な状況で、初対面の人間と協力するにはどうしたらいいか。限られた条件で生き延びるためにはどうするか。リスクがあっても元の世界に戻る方法を試すべきか。苦境から脱せられたとして、今の自分をどう受け止め、そして、どう生きるか。
彼らの未来は新たな電車に乗せられた。その進む先に何が待っているかは、はっきりとは描かれない。彼らの行く末は、私たちの想像に任された。
萱島は言っていた。「その目で、耳で、体で、そいつの奥を見ろよ」と。「知りたかったら直接聞けよ、何を勝手に妄想してんだよ、そいつの奥を見ろって」と。この言葉は、きっと不確実な未来を生きると決めた私たちの、指針となってくれるに違いない。
(文:北村有)
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