続・朝ドライフ

SPECIAL

2023年07月07日

「らんまん」田邊を「泥棒教授」と呼ぶ青年も家柄マウント<第70回>

「らんまん」田邊を「泥棒教授」と呼ぶ青年も家柄マウント<第70回>

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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第70回を紐解いていく。

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野田(田辺誠一)は出張中

万太郎(神木隆之介)は博物館に野田と里中(いとうせいこう)に会いに行きます。野田は不在でした。彼は今、大河ドラマ「どうする家康」に穴山信君として出演中だからでしょうか。今週の日曜の第26回に穴山は出るはずです。

里中が伊藤孝光(落合モトキ)を紹介します。彼はシーボルトの愛弟子で「泰西本草名疏」を書いた偉大なる植物学の研究者・伊藤圭介の孫。万太郎は屈託なく孝光に接します。ひざまずいて手を握ったりしたりして。

孝光は、万太郎がマルバマンネングサの学名になったことを知っていて、最初は感じ良かったものの、言動がいちいち、祖父を盾に、マウントをとってるふうに見えます。偉大なる祖父にいかにかわいがられたか語るのです。でも万太郎は植物を愛する者同士だから親しみを感じているのか、気にしません。

万太郎「膝抱っこ〜」
里中「おじいちゃんっ子〜」

あははと笑いながら、へつらうこともなく、好意的です。里中もいいキャラです。

ところが、「東大」の話になった途端、孝光の態度が変わります。東大には「泥棒教授」がいると。それは田邊(要潤)のことでした。トガクシソウを田邊にかすめとられたと恨んでいるのです。

うすうす、田邊の悪行(というほどではない、ずるさみたいな感じ?)は描かれてきましたが、彼に手柄をかすめとられている人は万太郎だけではなかったのです。でも万太郎があんまりピンと来てないところが、人柄です。そして、里中はもっと人間ができていて、ひじょうに冷静です。里中の視点から見たら、田邊も単なるヒールではなさそうです。

里中は、
「間違いがあれば世界中の学者が協力して正していけばいい」
「かれんな花をめぐって人間が争っているね」
「研究は日々進歩する学問においてそれは健全なことだよ」
とじつにフラットな考えです。

とはいえ、やっぱり、自分たちががんばってやってきたことを、ほかの人の栄誉になるのが悔しいのは当たり前です。それこそ、祖父、叔父、自分と三代続いての悲願とあればなおのこと。伊藤孝光は、ちょっと「家」にとらわれています。

学歴、家柄、そういうものに人間は囚われてしまう。万太郎はそこから距離をとって、ひたすら植物に夢中です。
里中に、東大を出てなくてもどうしたら植物学者として認められるのか相談すると本を出せばいいと言われます。あの学会誌がそのはずだったのが、田邊にうまくいいくるめられたわけで。一回、やろうとして失敗している話だよなあと思いましたが、それはそれ。今度はもう一回、単著として本を出すことになるのでしょうか。それが夢の図鑑企画なのでしょう。

さて。「泥棒教授」として話題沸騰の田邊が帰宅すると、雨のなか健気に待っていた聡子(中田青渚)がなぜシダが好きか、訪ねます。
「シダは陸の植物の覇者」
「シダは地上の植物の始祖にして永遠なんだ」

文学的なセリフに、言葉のない聡子。わかってあげてよ〜と思うけれど、凡人には田邊のロマンはわからないのです。
田邊はただの出世したいだけの権威主義ではなく、文学や芸術に至高のロマンを持っているようですが、それを他者と分かち合えない孤独のなかにいるようです。寿恵子なら、それを理解してあげられそうな気がするのですが……。

そんな寿恵子は雨が降っていても、聡子のようには夫を玄関先で待っていません。ただただ、枕をともにすることばかり考えています。これは別に色欲ではなくて、若い女性特有の、殿方とのロマンチックな秘めごとへの憧れでしょう。やがてそれは味気ない動物的な行為でしかないことを知るとしても、最初はなにか素敵なことのように思って胸をときめかすのです。

そのときめきは朝、目を覚ますと、寿恵子の想像を超えたものでした。
万太郎が植物を観察するように、寿恵子のまつげや産毛について語ります。詩と学問はともに美しいものであることを、寿恵子は羞恥が先立って気づけない。田邊の言ってることがわからない聡子と同じでありました。

今日の深川演出は、俳優の目をどアップで映すのが印象的でした。まつげを映したかったのかもしれません。


(文:木俣冬)

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