インタビュー

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2023年07月21日

『神回』青木柚インタビュー「人を形成している要素を、前例でとらえない」

『神回』青木柚インタビュー「人を形成している要素を、前例でとらえない」

「22歳」であることを忘れさせる、佇まいと語り口。直近では連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(21年)で、川栄李奈演じる大月ひなたの弟・桃太郎を演じたのも記憶に新しい役者・青木柚。その若さからは想像しにくいが、メインキャストを務める映画やドラマの公開が続き、着実にキャリアを重ねている。

映画『神回』は、来る文化祭に向けて打ち合わせをするため、夏休み中の学校を訪れた二人の男女のうち、男子学生だけが5分間のタイムループを繰り返す青春SFストーリー。青木柚は、ループする5分間から抜け出そうともがく男子学生・沖芝樹を演じる。「とても魅力的な脚本」と語る青木に、その理由から聞いた。

一目で惹かれた、人生が詰まった脚本


――本作『神回』は、東映ビデオのあらたなプロジェクト「TOEI VIDEO NEW CINEMA FACTORY」において、脚本309本のなかから選ばれた作品とのことですが。


青木柚(以下、青木):脚本を読ませていただいて、その展開にすごく惹かれました。脚本を読んだだけでこんなにのめり込むことは、これまでそんなに多くなかったと思います。いわゆるタイムループものですが、たった5分を繰り返す特殊さのなかで、人の内面にある“綺麗な部分”も“そうじゃない部分”も描き出されている。ひとりの人間の一生が凝縮されていて、すごい脚本だなと感じました。



――青木さんから見て、この『神回』がほかのタイムループものと一線を画している魅力は、どこにあると思いますか?

青木:次から次へと目まぐるしいほどに、いろいろな展開が巻き起こるんですよ。中村監督からは、タイムループから抜け出す楽しみ、ある種のゲーム性を求めている面も描きたいと聞いていたので、最初は状況を分析しつつクエストをクリアしていく感覚を大事にしました。5分間がループしていると知った主人公・樹が、最初からパニックに陥るんじゃなく、少しずつ崩れて絶望していく様も面白いところなんじゃないかな、と。

ご覧になる方にも「こんな絶望的な状況から、いったいどうやって抜け出すんだろう?」といった目線で、楽しんでもらえたら嬉しいですね。


――最初は積極的に「この状況から抜け出そう」と頑張る樹が、途中から心折れてしまう展開もリアルだと感じました。

青木:樹自身、「もうどうしようもない」って強く絶望した瞬間が、きっと2回くらいあったでしょうね(笑)。クエストをクリアしていくなかで、クスッと笑える抜け感もあります。樹は一生懸命なのに、周りの人たちとは時間の流れ方が違うんですよ。そういったアンバランスな感覚も、面白いポイントだと思います。

樹は「どこにでもいる普通の少年」


――本作は、青木さん演じる樹が5分間のタイムループから抜け出そうとする様子と、坂ノ上さん演じる恵那のフラットな佇まい、そのコントラストが印象的でもありますね。


青木:樹がどんな言動をしても、次の5分が始まったら恵那は「ありがとう。ねえ、聞いてる?」と同じことしか言わないんですよね。僕のほうは、情報を得たり新しいことに気づいたりと変化があるなかで、恵那は同じことを続けなきゃならない。お互いに大変で、未知の撮影だったと思います。

そんななかでも、恵那を演じられた坂ノ上さんは快活な方で、距離感なく接してくださったので助かりました。それぞれ自分のやることをしっかりやっている信頼感があって。難しいと感じるシーンでもとても心強かったです。


――樹を演じるうえで、どんなポイントを重視しましたか?

青木:中村監督からは、若さ、エネルギーに溢れた樹の面を表に出してほしい、と言われていました。5分間が繰り返されている状況に翻弄されつつも、エネルギッシュな言動を意識する。そのことで、より後半の展開が魅力的になるんじゃないか。より、この物語を鮮明に受け取ってもらえるんじゃないか、と話していました。仕掛けがあるので、あまり詳しくは言えないんですが……。

前半部分はゲーム性、クエストをクリアしていく感覚を大事にしたいというのも、樹の抱える脆さ、凶暴性、若さゆえの鋭さに繋がっていくんじゃないかと思います。とある間違いを重ねてしまう段階も、“理性を抑えられない若さ”といった印象がつくといいな、と。

演じる力<人を知る力


――監督の演出を受けながら、青木さん自身は樹の人柄をどのように解釈されたんでしょうか。


青木:「5分間がループする」という非日常な展開によって、いろいろと突拍子もないことをしてしまうんですけど、樹自身はどこにでもいる子なんですよ。あり得ない出来事によって、普通の少年のなかから、いつもとは違う凶暴性が出てくる。

あえて「過去にこういうトラウマがあって〜」とキャラ付けをするよりは、誰しもが持っている感情の起伏が、タイムループによって浮かび上がってくるだけのことじゃないか、と思ったんです。そこが、この物語の面白いところでもある。僕自身も樹と同じ立場になったら、似たようなことをしないとも言い切れないですし。

あらためて、綺麗な部分だけではない、人の多様な面も描かれている魅力的な作品だなと感じます。



――青木さんがこれまで関わってこられた作品を振り返ると、映画『うみべの女の子』(21年)の磯辺や『なぎさ』(23年)の文直など、背負うもの・抱えるものがある役柄が多いように思います。役作りをするうえで心がけているポイントはありますか?

青木:たしかに、何かしら抱える役が多いんですが、どれも自分のなかでは違うものだと捉えています。暗い役なら暗く!と一面的に表現するんじゃなく、暗い役にも明るい部分はあると思っていて。役柄によって苦しみも違いますし、それは日常を生きる一人ひとりも同じですよね。

これまで自分が積み上げてきた経験が活きるように、毎回、一から、人を形成している要素を前例で捉えないように意識しています。


――青木さんは、複数の作品で撮影時期が重なってしまうことも多いですよね。

青木:そうですね。ありがたいことに、複数の作品を同時並行で撮影することも、少なくはないです。役柄の切り替えについては、衣装やヘアメイクなど、周りの方々の力を借りつつ、自分でも役柄を捉えられるようにしています。

スイッチ、というほどわかりやすくはないんですが、いかにその人物を“芯”で捉えられるかが大事だなと思っていて。役を演じる力というよりは、人を知る力、というんでしょうか。日々関わらせてもらえる作品から、そういった力をもらえていると実感しています。

繰り返したいくらい好きなのは「ロケバスで音楽を聴く時間」


――青木さんが「この時間だったら何度でも繰り返したい!」と思えるほど、大事にしている時間はありますか?


青木:撮影に向かう早朝のロケバスで、周りが真っ暗な中で音楽を聴いている時間が好きです。その当時に出た新曲とか、自分が好きなアーティストが出した曲とかをヘビーローテーションするタイプで。「昨日出た曲、ロケバスの中で聴こう!」って楽しみにしていることも多いです。

音楽アプリを見ていると「ああ、この曲を聴いていた時期には、この作品を撮影していたなあ」って思い出すこともあります。ちなみに『神回』の撮影は去年(22年)の夏くらいだったんですけど、brb. & SIRUP - friends (Official Music Video) をずっと聴いていました。この曲を聴くと、『神回』を思い出しますね。

(撮影:Marco Perboni/取材・文:北村有)

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