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映画コラム

REGULAR

2023年08月04日

『カールじいさんの空飛ぶ家』が賛否両論を呼ぶ、だけど肯定したい「3つ」の理由

『カールじいさんの空飛ぶ家』が賛否両論を呼ぶ、だけど肯定したい「3つ」の理由


3:冷酷無比とも言える悪役の顛末

『カールじいさんの空飛ぶ家』がもっとも賛否両論を呼ぶ理由、それは悪役のチャールズ・F・マンツの顛末なのではないか。数個の風船が足に引っかかっていたとはいえ、あの落ちるスピードの速さを踏まえれば、彼は最後に死んだのだろう。

マンツはかつて冒険家であり、怪鳥の骨が偽物と判定されたことで、冒険家協会から資格を剥奪され、名誉挽回のために「怪物を生け捕りにするまで帰らない」ことを宣言した。それ自体は憐れむべきことに思えるし、疑心暗鬼になりずっと南アメリカにいた彼の境遇は、確かに切ない。人によっては、マンツにいっさいの救いを用意しなかったこと、またカールとエリーにとって憧れの存在を悪役にしたこと自体にも、後味の悪さを感じてしまうのも無理からぬことだ。

ただ、そのマンツは明らかに人殺しでもある。彼は「傑作なウソ」などと言いつつ、「地図作りをしていた測量士」と「草木の標本集めをしていた植物学者」のヘルメットを次々に床に落としていった。マンツは一方的に彼らの目的をウソだと決めつけたあげく、命を奪ったのだとわかるのだ。

たったひとつの目的に執着し、疑心暗鬼が行きすぎた挙句に、手前勝手な理由で殺人を犯した者に、救いをいっさい与えない冷酷無比な結末は、なるほど王道のハリウッド映画的な勧善懲悪的な物語としては十分納得はできるようにも思えるのだ。(だからこそ日本の観客との評価の差異もあるのかもしれない)(そもそもマンツは潔白を主張していたが、怪鳥の骨は本当に偽物だったのかもしれない)

ちなみに、このマンツの顛末はスタッフの間でも意見が分かれたようで、いくつかのアイデアが出されていたのだという、それらは以下のようなものだ。


・飛行船での戦いの後、マンツとカールの違いを明らかにし、マンツを故郷まで送り返す案もあった(しかし、両者がただ長時間立って話すことになり冗長なため却下)

・マンツが恐ろしい迷宮に迷い込み、そこで道に迷って死ぬ(クライマックスの舞台を空にしておきたかったので却下)

・マンツがケヴィンによってカールの家に誘い込まれ、その家の中にいたたま落ちて死ぬ(エリーを象徴する家を非業の死と結びつけたくなかったので却下)

・マンツが風船に絡まるが、落下するのではなく浮かび上がっていく(顛末としては曖昧すぎるため却下)


これらの案のほうが良かった!という方ももちろんいるだろうが、筆者個人は現状のままで納得している。なぜなら、マンツは「カールがそうなっていたかもしれない」人物でもあるからだ。

例えば、カールもまた妻の死後に「ずっとその場所(家)に固執し続けて」「自分に近づいてくる者に危害を加えて(工事関係者を傷つけて)」しまっていた。だが、終盤でカールは家の中から家具を次々に投げ出してまで、ケヴィンたちを助けに向かった。

カールは、たったひとつのこと(妻のエリーに見立てた家と共に滝へと行く)だけに執着せず、(エリーとの思い出を胸にしつつ)すぐそばにいる大切な人のために行動ができた。彼が「マンツとは違う選択をした」ことが物語では重要であったし、その真逆のことをしたマンツに冷酷無比とも言える結末を用意することは、必然性があると思ったのだ。


さらに、マンツは1928年にウォルト・ディズニーの大ヒット漫画「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」の制作権を奪った、ユニバーサル・ピクチャーズの重役であるチャールズ・ミンツと名前が似ている。その後にウォルト・ディズニーはミッキーマウスを生み出して世界的な成功をしたが……そんな恨みがマンツというキャラには込められていたのかもしれない。

そして、ラッセルはおじいさんを助けた証明として、エリーのバッジ(グレープソーダのジュースの王冠)をカールから受け継ぐことができた。子どもができなかったカールとエリーにとって、その想いを受け継ぐ子どもであると共に友だちになったラッセルが、(バッジの授与式にパパはいなくてママだけがいたとしても)かつてパパとしていた「車の色を言う」遊びをすることができるということ。双方にとって、確かなハッピーエンドだ。それと同時に、誰かのために正しい生き方を選択して行動し続けてきた人たちによる、素晴らしい人間賛歌だったと思う。

おまけ:「リス!?」はいったいどういう意味?

最後にもうひとつ余談だが、犬のダグやアルファたちが、「リス!?」と驚いて振り向くというシーンがある。これは、おそらく“害獣”でもあるリスを過剰に嫌ってしまうことへのギャグなのだろう。

それでも、このギャグに「なんだかなあ」と思った方には、ぜひDisney+で配信中のスピンオフ短編アニメシリーズ『ダグの日常』をご覧いただきたい。

▶ディズニープラス(Disney+)で『ダグの日常』を観る



こちらではダグと、まさに害獣そのものもなリスとの過酷(?)なバトルが描かれる場面があるのだから。「なるほど、犬がリスが嫌いな理由がよくわかる」と、納得ができるはずである。

参考:Up(2009) - Trivia - IMDb

(文:ヒナタカ)

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