©2020『峠 最後のサムライ』製作委員会

【生誕100年】司馬遼太郎の世界を映画で追う


2023年の夏で、歴史小説作家の司馬遼太郎が生誕100年となります。

直木賞受賞作品『梟の城』や『竜馬がゆく』『燃えよ剣』、そして紀行エッセイ「街道をゆく」など多岐にわたる作品は今でも熱い支持を受けています。

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駆け足版、司馬遼太郎の生涯



戦中の1923年に生まれた司馬遼太郎は軍国主義教育の中で育ち、学徒出陣で出征した経験を持ちます。復員後、新聞記者になり、1955年頃から作家活動を開始。

当初は本名の福田定一(ふくだていいち)名義でしたが、1958年頃から司馬遼太郎というペンネームに。このペンネームの由来は、紀元前の中国の歴史家の司馬遷(しばせん)を意識したもので「司馬遷に遼󠄁(はるか)に及ばない日本の者(大衆的な響きの名前の)太郎」とされています。

1959年の「梟の城」で早くも直木賞を受賞して、作家としての地位を確立するとそれ以降に「竜馬がゆく」「燃えよ剣」といった代表作を発表します。以降1996年に没するまで多くの作品を手掛け、独自の歴史観である“司馬史観”が形成されるに至りました。

歴史小説ファンの間では、映画化もされた「武士の一分」「たそがれ清兵衛」などの藤沢周平と「鬼平犯科帳」「剣客商売」などの池波正太郎ととともに“一平二太郎”とも称され、ベストセラー作家であり、ロングセラー作家でもあり、死後もなお作品が売れ続けている稀有な存在です。

また一説には、生誕100年を記念した調査によると、20作品近いミリオンセラーを記録しているともいわれ、まさに国民的作家の1人と言えます。 

司馬遼太郎、映像化の流れ


映画が“娯楽の王様”だった時代に人気作家となったこともあって、司馬遼太郎作品の映画化企画は60年代に多くの作品が毎年のように映画化されました。後年になって再映画化される『梟の城』(忍者秘帖 梟の城)や『燃えよ剣』もこの頃に映画になっています。

60年代後半になると映像エンタメの主役が映画からテレビに移ったことで、司馬遼太郎作品の映像化はテレビを主舞台に。



「新選組血風録」や「竜馬がゆく」などはたびたび映像化されています。NHK大河ドラマの原作になることも多く「竜馬がゆく」「国盗り物語」「花神」「翔ぶが如く」「最後の将軍 徳川慶喜」「功名が辻」などが原作とされています。

「どうする家康」で62作目となるNHK大河ドラマにおいて、そのうちの約1割が司馬遼太郎原作であることを考えると、本当にすごいことです。

またNHKスペシャルドラマとして足掛け三年に渡って放映された「坂の上の雲」も司馬遼太郎の作品です。

映画化復活の流れ


アメリカ・ハリウッドの西部劇とも重なる部分がありますが、映像エンタメとしての時代劇は終わりゆくジャンルとなってしまっています。

NHK大河ドラマ以外ではNHKがBS放送などで何本かのシリーズを作っているくらいで、民放各局に目を移すと「必殺仕事人」と「剣客商売」のスペシャルドラマが年に1本作られるかどうかという状況です。

“チャンバラ”という愛称と共に銀幕を彩ってきた時代劇も、観客を徐々に減らし、演じ手・作り手も減り、気がつけばノウハウの維持で精一杯というのが実情でしょう。


それでも“ある種の伝統分野”として「時代劇を作らなくては」という流れがあり、最近は『武士の家計簿』『超高速!参勤交代』などの経済系時代劇や、一大ブームとなって一時期大量に作られた藤沢周平原作の映画などが今も公開されています。

歌舞伎役者との距離感が近いこともあって、松竹がその多くの担い手になっているのが最近の特色と言えるでしょう。東宝・東映と邦画メジャーにはそれぞれカラーがありますが、松竹は何といっても歌舞伎があるのが強みです。

司馬遼太郎の映画は1970年の『幕末』以降長らく途絶えていたのですが、期せずして同年の1999年に異端の監督による映画が公開されます。


一本が『梟の城』。豊臣秀吉暗殺をもくろむ忍者の物語で、中井貴一、上川隆也などが出演。もう一本が『御法度』。幕末の新選組を独自の視点で描く異色作で松田龍平のデビュー作でもあります。共演にビートたけしや武田真治が並び、音楽を坂本龍一が担当しました。

この2本の作品の異色なところが、共にかつて短命に終わった映画運動“松竹ヌーベル・バーグ”の旗手と言われた篠田正浩と大島渚が監督しているということでしょう。

それだけで本が一冊書けてしまうような紆余曲折を経て、二人の監督が古巣で時代劇に挑んだことになります。

21世紀は大作路線に活路を!



1996年に亡くなって以降も司馬遼太郎の作品は読まれ続け、テレビや舞台なども作られてきました。21世紀に入り、大作路線の作品として司馬遼太郎の小説が立て続けに映画化。

2017年と2021年には原田眞人監督&岡田准一主演で『関ヶ原』『燃えよ剣』が映画化されました。原田監督はこの2作品と『日本のいちばん長い日』で日本史の三大転機を描いたことになります。


興行収入で見ると『関ヶ原』が24億円、『燃えよ剣』が12億円弱と、“現在の時代劇の立ち位置”から見ると十分成功といえる数字でしょう。

『関ヶ原』では役所広司や有村架純、松山ケンイチ、『燃えよ剣』では柴咲コウ・鈴木亮平・伊藤英明といった豪華な面々が揃い、一般映画ファン層にも訴求したと思われます。

最新映画は知られざる幕末の武士の物語

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司馬遼太郎作品の映画化企画の最新作は、2022年公開の『峠 最後のサムライ』です。

役所広司が主演し、長らく黒澤明の助監督を務め、その後良質な作品を丁寧に作り続ける小泉堯史監督による作品です。この2人は2014年の『蜩ノ記』でも組んでいる安定感のある組み合わせです。

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『峠 最後のサムライ』は歴史の隙間に埋まっていた河井継之助という人間を一躍、歴史ファンの間で有名人にした小説「峠」の映画化作品です。

時代は幕末、新政府軍と旧幕府軍が激突を繰り広げた戊辰戦争を描きます。戊辰戦争と一言でいっても鳥羽・伏見の戦いから、最後の函館戦争まで日本全土で戦端は開かれ、激闘が続きました。

今の新潟にあたる越後長岡藩では、当時の家老・河井継之助による藩政改革・軍備改革が進められていて、海外からアームストロング砲やガトリング砲などの近代兵器を輸入するなど小藩でありながらも強い力を持ち、新政府軍とぶつかり合います。

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映画『峠 最後のサムライ』では、役所広司が新しい時代の感性と古くからの忠誠を両立させたユニークな人物として時に軽妙に、時に重厚に河井継之助を熱演しています。

時代劇では、源義経から始まり真田幸村から赤穂浪士、新選組と、“散りゆく者”の持つ儚さに魅了される一面があります。

『峠 最後のサムライ』の河井継之助のその範疇の1人と言えますが、映画では役所広司がチャーミングに演じていて、しかも闘いの先の世の事も考えている描写もあるなど“悲壮感”だけの人に終わっていないのが新味と言えるでしょう。

時代の節目を追体験できるというのは映画の魅力の一つだと思います。そんな視点で司馬遼太郎生誕100年の年に『峠 最後のサムライ』を観てみるのもよいのではないでしょうか?

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(文:村松健太郎)

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