インタビュー

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2023年09月01日

『スイート・マイホーム』齊藤工監督と原作者・神津凛子が語るクリエイション。ダイレクト・シネマ的に紡がれた原作を劇映画化した過程

『スイート・マイホーム』齊藤工監督と原作者・神津凛子が語るクリエイション。ダイレクト・シネマ的に紡がれた原作を劇映画化した過程


齊藤工も舌を巻く、神津凛子のクリエイション

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──そういった意味では、まさしく齊藤監督ならではの映画になった、と言っても過言ではないのかも知れませんね。


齊藤:先日、上海の映画祭での上映に立ち会ったんですけど、シーンによっては笑いが起きたりもしていたんです。ひとみ(蓮佛美沙子)さんが白子を調理するシーンだったんですけど、そこは僕が執拗にこだわってしまったところでもあって。あの……魚を捌く行為ってちょっと不気味だったりするじゃないですか。撮影の時期的にも思いのほか用意された北陸の鱈(タラ)が大きくて、あんなに白子が入っているとも想像していなかったんですよね。撮りながら、「嘘だろ!?」と思うぐらい詰まっていて、僕らもギョッとしたっていう──。あ、別にギャグで言ったわけじゃなくて(笑)。

で、そのシーンが中国の人たちに大ウケして、大爆笑が起きていたんです。かと思うと怯えるシーンも声に出してリアクションしてくださったので、「アトラクションムービーでもあるんだな」と認識した部分もありまして。それを言葉にしてお伝えするのはなかなか難しいんですけど、「先生が設計図として我々に預けてくださった原作がこういう映画になって、観てくださった方に受け取ってもらえました」という体感をご報告することで、せめて恩返しができればと考えています。

ただ、アジアの家族像には儒教的な独特の側面も見受けられるので、欧米の人たちのリアクションが若干違うのかなと思うところもあるんですね。そこも含めて、家の中で始まって家の中で完結するという構想が最初からあったのかどうかを、先生に聞いてみたかったんです。

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神津:それが……書き始めたらあのような物語になった、というのが実際のところでして(笑)。

齊藤:そうなんですね! ちなみに、人を描こうとして書き始められたんでしょうか?

神津:「家の中に怖いものがいるんだろうな、お化けかな? 人間かな?」……と思いながら書き進めていったら、自然と賢二(演:窪田正孝)をはじめとする登場人物たちが現れてきて、中の人たちが勝手に動くのを見て、まとめていったという感じですね。

──原作を執筆中、神津先生としても登場人物たちの言動が明確にイメージとして浮かび上がっていらっしゃったのでしょうか?

神津:そうですね、パソコンを開くと賢二やひとみ、本田(奈緒)たちが何かをしているような情景が浮かんでくるので、それを見ながら文字にしていったという感覚でした。

齊藤:先生のその感覚の鋭さに対しては、ただただ「すごい」というひと言しか浮かんでこないです。あの……キャラクター同士の化学反応のようなものも、それぞれ複合的じゃないですか。1つのキャラクターが暴れていくとして、その目線で物語を追っていくと思うんですけど、キャラクターそれぞれが交差するところも、先生はスムーズに捉えていらっしゃったんですか?

神津:はい、たとえば賢二で言うと……彼の目線で見ているわけではなくて俯瞰して見ているので、キャラクター同士の交錯も混乱せずに書けたんじゃないかなと、自分では思っているんです。

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──その目線は俯瞰から一人称に変わったりもするわけですが、その切り替わりも先生がパソコンを開いたときに目にした情景によって変わってくるのでしょうか? ちょっと観念的な話になってしまいますが……。

神津:小説を書き始めたときは、賢二とひとみと娘のサチ(磯村アメリ)しかいなかったんです。先ほど、齊藤監督がおっしゃってくださった甘利というキャラクターが私も大好きなんですけど、書いているうちに見えてきたと言いますか、出てきたんですよ。「あぁ……何かいいキャラが出てきたぞ!」という感じで、登場させようと思って書いたわけではなくて、本当に後から現れたという感覚でしたね。

齊藤:僕からすると、プロットがないまま物語を紡いでいらっしゃることに、ただただ感嘆していまして……。その手法で映画を撮ろうとすると、やはり前衛的な方向に寄っていく可能性があるので。それこそ前衛的な劇団がかつて、そういう活動をされていた記憶もありますけど、エチュード的な側面もあったような気がしていて。

ただ、キャラクター個々の心根と言いますか、それぞれの灯の点り方の違いがしっかりと原作では描かれていて、読者が賢二を“ほどよく愛せない”という距離感が僕はすごく好きなんです。ともすると、特に男性の目線からすると──賢二の肩を持ちすぎてしまうきらいがありますけど、彼も清廉潔白ではないし、そもそも賢二に肩入れしそうになった自分はどうなんだ……? と、原作を読んだときに突きつけられた気がしたんですよね。

神津:ただ、『スイート・マイホーム』では人の業みたいなものを描くつもりはなかったんですよ。もっとも、その後に書いた小説もそんなにスタンスが変わったというわけではありませんけれど(笑)。

神津作品の映像化に必要だった“儀式”


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──なお、話としては飛躍してしまうかもしれませんが、もしまた齊藤監督が新たに神津先生の小説を映画化するならば……どうしますか?


齊藤:う〜ん……何と言うか、神津先生が描いていらっしゃる“立ち入ってはならないもの”に立ち入るには、経るべき段階があると思っているんです。たとえが正しいかどうかは分からないですけど……沖縄に神が宿ると言われている島があって、そこへ行くには何ヶ所かの御嶽(うたき)を巡ってからでないと──という定めがあるんですね。そうしないと良くないことが起きると言われているんですけど、神津先生の小説を映画にするにあたっては、それに近い手順が必要だなと感じていて。

今回の『スイート・マイホーム』で言うと、スタッフィングやキャスティングが該当するんじゃないか、と。本業が役者である自分からしても“ある領域”までたどり着いていると皮膚感覚で実感している、とてつもない表現者のみなさんが神津先生の生み出したキャラクターを生きること、並びに撮影監督の芦澤明子さんのカメラを筆頭に、適材適所たる映画人が集まってくださったことによって、僕も監督という役割を引き受けさせていただけたのだと思っているんです。

そして、これは個人的な感覚になりますけど、神津先生の『ママ』という作品も『スイート・マイホーム』同様に母性が描かれていますが、僕が男性だからなのか……そこには立ち入れないと感じてしまう愛憎のようなものが渦巻いていると思えてならなくて。単なる読書体験にとどまらず、自分自身も女性である母から生まれてきたという事実に紐づきつつも未踏の地へ連れていってもらえるような感覚を味わえる、と解釈しているんです。なので、もしもまたそういう光栄な機会があるとしたら、“聖なる儀式”を経た上で神津先生の作品と再会したいなと考えています。

──これもたとえが正しいかアレですが、“文学界のA24”的な引力が神津先生の作品にはあるように感じていて。

齊藤:確かに(笑)。実際、『スイート・マイホーム』を映像化したいと思っていたクリエイターの方々が数多いらっしゃったと耳にしましたし、原作権のことで問い合わせも多々あったと聞いていて。そういった事実も踏まえると、神津先生のクリエイションによって世に出る作品は文学界のみならず、日本映画界にとっても大きな意味を持つことになっていくと思いますし、僕個人にとどまらず業界的にも胆(キモ)になってくるような気がしています。

(ヘアメイク=赤塚 修二/スタイリスト=三田真一<KiKi inc.>/撮影=渡会春加/取材・文=平田真人)

<衣装協力=ジャケット¥64,900 シャツ¥36,300 サロペット¥58,300 全てスズキ タカユキ そのほかスタイリスト私物 【お問合せ先】 スズキ タカユキ 03-6821-6701>

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©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

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