映画コラム

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2023年09月06日

<2023年必見の映画>『福田村事件』 それでも“世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい”

<2023年必見の映画>『福田村事件』 それでも“世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい”

森達也×荒井晴彦による、劇映画への挑戦

©「福田村事件」プロジェクト2023

その悲劇は1923年9月6日、関東大震災から5日後に起こった。千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で、香川から訪れていた薬の行商団が地元民によって虐殺されたのである。聞きなれない讃岐弁のため、朝鮮人と疑われたことが原因とされている。犠牲となった9人の中には、妊婦や幼児も含まれていた。

森達也は、『A2』(2001)を発表した直後から福田村事件をドキュメンタリーとして放送できないかと奔走していたという。だが、森達也曰く「朝鮮人虐殺」と「被差別部落」という2つのタブーがネックとなって、企画に手を挙げてくれる局はひとつもなかった。福田村事件は森達也の中で“塩漬け”されたまま、時が過ぎていく。

<立教ヌーヴェルヴァーグ>と呼ばれる、映画評論家・蓮實重彦の強い薫陶を受けた一派(黒沢清・青山真治・万田邦敏・塩田明彦など)の中にいた森達也は、もともと劇映画が撮りたくて8ミリを回していた映画青年だった。2016年に『FAKE』を発表後、主戦場のドキュメンタリーを離れることを決意した森達也は、福田村事件を劇映画として制作することを思いつく。



そしてもう一人、福田村事件を映像化しようと画策していた人物がいた。荒井晴彦だ。言わずもがな、『赫い髪の女』(1979)『Wの悲劇』(1984)『共喰い』(2013)などで知られる名脚本家。監督を兼任した『火口のふたり』(2019)は、キネマ旬報の日本映画ベストテン第1位に輝いている。

それまで面識のなかった二人はキネマ旬報の授賞式で初めて顔を合わせ(全くの偶然だが、筆者もたまたまその授賞式を観覧していた)、そのまま監督・森達也、脚本・荒井晴彦、佐伯俊道、井上淳一という座組で制作がスタートしたのである。

澤田(井浦新)が性的不能であるとか、静子(田中麗奈)が白い太ももを露わにして倉蔵(東出昌大)とコトに及ぶとか、貞次(柄本明)が義娘との間に子供を作っていたとか、閉ざされたムラ社会のエロスが全編に漂っているのは、明らかに荒井晴彦のアイディアによるものだろう。

かつてのATG作品やロマンポルノにあったような艶かしさが、この『福田村事件』にも刻印されている。

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