「最高の教師」最終回:灰色の世界に“色”がついた瞬間……“最高の教師”の正体は?
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松岡茉優主演の“土10”ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」が2023年7月15日放送スタート。松岡茉優演じる高校教師・九条里奈が、卒業式の日に教え子から突き落とされ、殺されてしまった。次の瞬間、彼女は1年前の始業式に戻る。自分を殺したのは誰なのか、30名の生徒=容疑者を前に、犯人探しと“最高の教育”を目指す1年が始まる。
本記事では、最終回をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」最終回レビュー
ネット上の考察班からは、初期の段階(2〜3話あたり)から「真犯人は星崎(奥平大兼)では?」と予想されていた。少しだけ愉快犯じみた言動が目立つこと、他の何人かの生徒のように大きな問題は起こさない代わりに、上手いこと主要人物と顔馴染みであることなどから、比較的、予想は簡単だったように思う。このドラマの秀逸なところは、真犯人が予想通りだったとしても、それで面白さが半減しない点にある。
一週目の人生で九条(松岡茉優)を突き落としたのが星崎で、二週目の人生でもそうだった。きっと多くの人がそう考えていたにもかかわらず、「見応えのあるドラマだった」と充足感に満ちている。その理由は、最終回を彩るのにふさわしい結末だったから、そして、そこに至るまでの道のりが丁寧に描かれた脚本だったからだろう。
星崎の目からは、この世界が灰色に見えていた。
彼の口からポツポツと語られた、自転車のブレーキをかけずに、全速力で坂を駆け降りる遊びについてのエピソードが興味深い。みんなが笑ってくれると思って、全力で駆け抜け身体全体でぶつかって見せたら、引かれてしまった。その瞬間から、周りとズレている自分を実感するようになった。
実際に彼は言っていた。つまらない教室を変えてくれたのは先生だ、と。九条を主人公に映画を撮りたい、とまで言っていた星崎の気持ちに、偽りはなかっただろう。それでもいつしか、せっかく色のついた景色から、また少しずつ色彩が失われていくのを見るのは、どれだけの絶望を伴っただろうか。
星崎は、九条を突き落としたあと、世界や自分自身に対する虚しさを抱えながら、自らの命さえも捨てようとしていた。「まずは自分だけが、自分の思いを信じてあげる。そうすればきっと、変えようと動けるはず」……そんな九条の渾身の言葉も、今回ばかりは、彼にだけは届かない。必死の説得も届かず、星崎は渡り廊下から身を投げてしまう。
しかし、星崎を助けるため、九条の夫・蓮(松下洸平)やクラスメイトたちがやってきた。その姿を見ながら、彼は言う。「色がついてる」と。
ギリギリのところで助け出された星崎の心は、きっと今後も迷うだろう。色がついては消え、またもや、白黒の世界で生きていくことに恐怖を感じるかもしれない。
それでも彼は、クラスメイト全員が自分を助けるために走り、「俺たちのために、死ぬな」と言ってくれたことを忘れない。彼らの後ろに見えている、真っ赤な夕焼けの色を忘れない。
まさに、急死に一生を得た九条。その後、不意にあらわれた浜岡(青木柚)によって刺されてしまうが、なんとか命を繋ぎ留めた。
この物語は、一度は生徒の手によって命を失いかけた九条が、ふたたび一年間をやり直す過程で“最高の教師”を目指す話だった。そして同時に、九条にとっての“最高の教師”とは誰かを、実感する話でもあった。
彼女は、生徒によって殺され、そして、生かされたのだ。最高の教師は、生徒自身のことでもあった。
九条が発するメッセージ、そして生徒一人ひとりの苦悩が解き放たれていく様が、丁寧に描かれた脚本。ドラマ「3年A組」とリンクしたこの物語は、今後も折に触れ、脳裏をかすめていくだろう。迷うとき、悩むとき、何もかも嫌になって、投げ出してしまいそうになるとき。彼らの言葉がきっと、頭のなかで響く。私たちが、私たちの人生において、もっとも良い選択をするために。
(文:北村有)
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