「大奥」第12話:青沼の会を暴走した“承認欲求”が崩壊に追い込む悲劇の前哨戦
NHKドラマ10「大奥」のシーズン2が10月3日に放送開始となった。よしながふみの同名漫画を原作に、3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、若い男子のみが感染する奇病により男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く本作。シーズン2の前半「医療編」には、鈴木杏、村雨辰剛、松下奈緒、玉置玲央、仲間由紀恵ら豪華キャストが名を連ねる。
本記事では、第12話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「大奥」第12話レビュー
源内(鈴木杏)の誘いで、大奥入りを果たした青沼(村雨辰剛)。当初一人も集まらなかった彼の蘭学講義は徐々に賑わいを見せ、やがてその場所は赤面疱瘡にかからない方法を見つける学問所として機能し始める。学びを得て、そしてそれが人のため、世のためになる可能性に目を輝かせる大奥の男たち。お調子者の伊兵衛(岡本圭人)がムードメーカー的な存在として場を沸かせ、青沼や10代将軍・家治(高田夏帆)の御台である五十宮(趙珉和)たちが温かい眼差しを向ける。一点の曇りもない彼らの笑顔を見て、胸を痛めるあなたは原作勢だ。これから彼らに降り注ぐ悲劇をすでに知っているから。「大奥」(NHK総合)第12話は早くもその悲劇の前哨戦となる回だった。
杉田玄白(小松和重)ら著名な蘭学医と共に赤面の“サボン”作りに乗り出した頃、青沼は五十宮からお礼を言われる。家治とは夫婦仲も良く、側室との間にできた子を血の繋がりはなくとも共に育ててきた五十宮。決して不幸せではないが、どこかに埋められぬ虚しさがあったという彼の思いに共感する人はきっと多いはず。人というものは社会的な生き物であって、どうしても何らかの形で社会に貢献して他者に認められたくなるものだ。前話における源内の「ありがとうって言われたい」は、その欲求を限りなくシンプルにした台詞である。
“ありがとう”で人と人が繋がっていく「医療編」の筆頭は言わずもがな源内。彼女がいなければ、この青春群像劇は始まらなかったであろう。弟が赤面疱瘡で亡くなったことをきっかけに、武家の跡を継がずに男装して遊学していた源内の心を射止めたのは田沼意次(松下奈緒)だった。源内が彼女に惹かれたのはその美しさだけではない。自分の知らないものを面白がる好奇心の強さ、お礼に口吸いでもという無礼な申し出にも笑顔で返す器の大きさ。意次の人柄に惚れた源内は、彼女にありがとうと言われるためにひた走る。
その姿が、見知らぬ男たちから必死で逃げる源内の姿にオーバーラップする場面はあまりに辛く見ていられなかった。後日、身体中にできた発疹を青沼に見せる源内。おそらく襲ってきた男たちに赤面疱瘡以外(源内は女性であるため、赤面にはかからない)の細菌を移されたのだろう。レズビアンである彼女がどれほどの苦痛を受けたのか、私たちには計り知れない。
ただ言えるのは、男たちが犯した行為は“支配欲”に基づく暴力だということ。意志を持った相手を暴力によって黙らせ、尊厳を奪い、支配下に置く。それは、青沼や源内たちが持つ“承認欲求”とは近いようで全く別のものである。自分を価値ある存在として他者に認められたいという欲求は人間なら誰しも持っているもの。あくまでもその欲求を誰かの役に立つことで満たそうとしている間はいいが、それが叶わないと知った瞬間に不当な方法で相手に自分の存在意義を認めさせようとする人もいる。
母の宗武と同じく将軍の座に固執する田安定信(安達祐実)も、彼女を巧みに操り、不要に田沼との対立を仰ぐ一橋治済(仲間由紀恵)もそう。承認欲求を暴走させた先に辿り着く“支配欲”が、青沼の会を刻一刻と崩壊に追い込んでいく。
(文:苫とり子)
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