「大奥」第15話:治済は愛し愛される喜びを知らない、生命力の高い“哀しき化け物”
本記事では、第15話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「大奥」第15話レビュー
ただ“退屈だ”という理由のみで、自身の孫を間引いていた治済(仲間由紀恵)は、その報いを受け、子を亡くした二人の母・茂姫(蓮佛美沙子)とお志賀の方(佐津川愛美)の執念により毒に倒れた。「化け物でも母は母」と最後まで母親の呪縛から抜け出せなかった家斉(中村蒼)の計らいで一命は取り留めたものの、身体は動かせず、言葉も発せなくなってしまう治済。彼女にとっての地獄はこれからだ。死ぬまで本当の退屈を味わわなければならないのだから。
自業自得と吐き捨てたくなるほど、治済の極悪非道な行いで多くの者が命を落とし、残された者たちが嘆き苦しんできた。だが、それこそが。いや、それのみが治済のただ唯一の生きがいだったとも言える。ある意味では、最も哀れな人間だったのかもしれない。
家斉はそんな母親とは真逆で、したたかさこそ一切ないが、人の命を弄ぶ卑劣さもなかった。治済に毒を飲まされてもがき苦しむ武女(佐藤江梨子)の姿を目の当たりにし、ショックのあまり記憶を消してしまうほど繊細で、子を亡くして自我を失った茂姫を見捨てず向き合う優しさもある。
人が苦しんでいたら心を痛め、どうにか助けてやりたいという気持ち。決して頼り甲斐のある将軍とは言えないが、それだけは確かに持っていた家斉は家臣たちの協力を得ることができ、黒木(玉置玲央)をはじめとした青沼(村雨辰剛)の弟子たちと人痘に代わる熊痘接種を成功させた。
他者と一緒に汗をかき、何かを成し遂げたときの達成感。人と人とが愛し、愛される喜び。人の心というものを持って生まれなかった治済はそれを一生得ることができないのである。何に対しても心が動かず、唯一刺激を得られるのは人が苦しんでいる姿を見たときだけ。周りの人間は治済の恐ろしさゆえに従っているだけであり、一人として彼女を慕うものはいない。だからこそ、家斉がようやく自分の意思を持って動き出したと見るや、皆がこぞって彼女を欺くことに協力したのだろう。
第14話において、治済は「これが天下ってやつみたい。思ったより退屈」と亡き母の位牌に語りかけていた。生きている人間とは誰とも心を分かち合うことができない。それは孤独と言うより他ないが、その孤独にすら本人は気づくことがないのだ。
治済は哀しき化け物だった。そのくせ人一倍生命力があり、簡単に死ぬことすら叶わない。さらには化け物の血を孫である家慶(高嶋政伸)に受け渡し、死してもなお彼女は多くの人を苦しめることとなる。
(文:苫とり子)
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