「シジュウカラ」第11話レビュー:悲しみが暴走する…洋平の絶叫と「ハートにファイア」が焼きついて離れない(※ストーリーネタバレあり)
山口紗弥加主演のドラマ「シジュウカラ」が2022年1月7日深夜にスタートした。
坂井恵理原作、「JOUR」(双葉社)で連載中の同名漫画を実写化した本作は、漫画家の女性が、恋と仕事を通して自身の不確かな人生観と向き合っていくストーリー。人生のセカンドチャンスに戸惑いながらも生きる主人公を山口紗弥加、忍と18歳差の恋に落ちる若きアシスタントを板垣李光人が演じる。
本記事では、第11話をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。
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「シジュウカラ」第11話レビュー
どうしてこうなってしまったのか。「シジュウカラ」11話は、大人たちの悲しみが暴走する姿が描かれてますますやるせない物語となった。
まず驚かされたのは忍(山口紗弥加)。みひろ(山口まゆ)との生活を続ける中で、彼女はいささか過保護な傾向が見られてくる。そして、みひろが仕事場を出て人形展で出会って親しくなった少女と一緒に暮らす…と言うと激しくとりみだし、「悠太はここにいればいいの!」と息子と混同させてすがりつく。
これまで、息子の悠太(田代輝)はもちろん、千秋(板垣李光人)やみひろにも大人の思慮深さを失わず接してきた忍。それだけに、動揺する姿はかなり意外だった。ただ、思い返せば、千秋と別れた後ずっと冷え切った関係の洋平(宮崎吐夢)を養ってきた忍。唯一愛情を注げる対象だった悠太がいないのが相当寂しかったのだろう。だからこそ、隙間を埋めてくれたみひろに依存してしまったのかもしれない。
一方千秋。彼は岡野(池内博之)から忍にプロポーズしたことを聞かされ、さらに「僕の方が佐々木先生を幸せにできると思いません?」と言われてしまう。正直、ここのところ筆者の岡野に対する好感度はガタ落ち。忍と千秋の絆に本気で焦っているにしても、プライベートな問題を仕事場に持ち込み、千秋にマウントをとるのはどうにも大人げないと思う。
アパートを引き払って実家に戻った千秋。一緒に暮らし始めた母親の冬子(酒井若菜)は半年分の家賃を払ってくれと頼んでくるなど、相変わらず身勝手に息子を翻弄する。
そんな中、再び顔を合わせる忍と千秋。そこで忍は次のような言葉を口にする。
「私たち、18も違うんだよ?」
「私と橘くんとじゃ立場が違いすぎる。無理に決まってる」
忍の言葉は確かにそうだと思う。実際、彼女が千秋と一緒になるのは相当勇気がいること。だが、そうだとしてもここまで本当に千秋がいたたまれなさすぎてつらい。彼は「漫画のことも先生のことももう忘れたいです」とつぶやいて立ち去った。
自宅でひたすら自転車を漕ぐ千秋。そこへ星宙(榊原有那)が来て「いいかげん自分を試すのはやめたら」と助言する。星宙いわく、千秋は自分の意志と反対の方を選んでどこまで耐えられるか試そうとするふしがあるという。千秋に建設的な言葉をくれた星宙。負の連鎖の中にいる人物が多い中、彼女だけはすでにそこを抜け出せたようだ。
そして、今回忍に輪をかけて視聴者を驚かせた、というか怖がらせたといっていいのが、洋平だ。
涼子(和田光沙)と親密な関係になった洋平。しかし、やはりという結末を迎えた。一緒にお弁当屋でもやりたいけどお金かかるし……と甘くささやく涼子に「少しなら」と言ってしまう洋平。後日、彼がスナックを訪れると「テナント募集」の文字が貼られ、涼子の電話から「現在使われておりません」の声が響いた。
見事に裏切られた洋平。自身の生い立ちを振り返りつつ「忍、俺そんな悪いことしたかーっ!」と叫ぶ。その後ビリー・ジョエルの「ハートにファイア」を歌いだした。
洋平がこの曲をかっこよく歌う姿に惹かれたと千秋に話していた忍。実際に聞いた彼の歌唱は確かに英語の発音もよく見事ではあった。しかし、歌い続けるうちにヒートアップし、挙句に「忍――!」と絶叫して走りだす。間違いなく今までで一番の壊れっぷり。筆者は彼の姿と歌声がしばらく脳裏に焼きついて離れなかった。
ラストで岡野のプロポーズを承諾する忍。現実的に見ればこれが堅実な選択なのだろう。だが決めた理由には疑問が残る。悠太のいない寂しさやみひろが去った悲しみ、千秋への想いなどを忘れるため、つまり岡野への愛情以外のものが多く混じっているなら、どこかでまたボタンを掛け違えてしまう気がする。
結婚を決めて仲睦まじく帰路につく忍と岡野。しかし、マンションに戻った二人が見たのは、ドアの前に座り込む洋平の姿だった。
次回はついに最終回。愛情や寂しさ、憎しみを抱える大人たちは最後にどのような生き方を選ぶのか。
(文:田下愛)
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