映画コラム
『プリンセスと魔法のキス』がディズニーの転換点である「3つ」の理由
『プリンセスと魔法のキス』がディズニーの転換点である「3つ」の理由
2:望むものではなく、本当に必要なものを見つける大切さ
さらに脱構築と言えるキャラクターはナヴィーン王子。お調子者で無責任かつ怠け者で、しかも親からは勘当されていてお金もない。しかし、彼もまたシャーロットと同様に、悪役にはしていない。彼は「親のスネをかじっていて」「何から何まで(歯磨きまで!)他人にやってもらっていた」からこそ、カエルになってからのティアナとの冒険の最中で、初めて料理を手伝って、ティアナに「キノコを刻む才能がありそうね」と(半ば皮肉っぽくはあるけど)褒められたりもする。彼は「自分の力で何かを成す」喜びを知り、まさにそのための行動をしているティアナに惹かれていったのだろう。
いわば、本作は「今まで知り得なかった価値観を知ること」の大切さも示している。ティアナもまた、お金を貯めるために周りから心配されるほどに仕事ばかりであり、それは亡き父に代わってレストランを持つ夢をかなえるためだった。
そして、ママ・オーディが「もう一度考えて、自分のことを。本当の願いに気づいたら、青空が見える」と歌っていたように、ティアナは父と家族の写真を見て「望みは叶わなかったけど、必要なものは持っていた。それは愛よ」と気づくのだ。
「望むものではなく、本当に必要なものは何か?」という問いかけも、とても重要なものだ。それこそ、どれだけ努力をしても、夢はかなえられないということは現実にして往々にある。だけど、夢を追う過程で必要なものを手にしていたことはあるはずだし、その必要なものと共にまた夢に進むことだってできる。
その必要なものは、もちろん愛であるし、「誰かの幸せのために行動する(そして自分も幸せになる)」ことかもしれない。これは後のピクサー作品にも受け継がれ、『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013)でひとつの到達点を迎えた、真摯な「夢との向き合い方」へのメッセージだ。
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3:「星に願いを」に回帰する
さらに脱構築と言えるのが、「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」。これは1940年のアニメ映画『ピノキオ』の主題歌で、ディズニー映画で初めに流れるロゴの場面でもそのメロディが流れる。その歌詞では、ストレートに「輝く星に心の夢を祈ればいつか叶うでしょう」と歌われている。一方で、この『プリンセスと魔法のキス』でティアナが父から教わったのは「星は夢を叶える手伝いをするだけだ。自分で努力をすることが大切なんだ」ということ。前述したようにおとぎ話が大好きだったシャーロットも「星に願いをかけるなんて子どもっぽい」って思い始めていたりもしたし、ティアナが星に願いをかけたことを後悔する場面すらあった。
極め付けは、ホタルのレイは夜空に輝く一番星に「エヴァンジェリーン」と名付け、美しいメスのホタルだと思い込み恋をしていたが、ティアナに「遥か彼方で燃えているガスの固まりよ!」と残酷にも告げられ、しかもレイはドクター・ファシリエに踏み潰され死んでしまう。つまりは、「星に願いをっていうけど、それだけで夢がかなうはずがない」ことをシニカルに突きつけているのだ。
でも、そうであったとしても、その夜空に輝く一番星であるエヴァンジェリーンのそばに、レイと思しき星がきらめくシーンの、なんと感動的なことか!
客観的には「2つの星が輝いている」、それだけにすぎないはずだ。だが、「レイが愛する人と一緒にずっといられますように」という願いを、ディズニー映画らしい「星に願いを」へと、見事に回帰みせたのだ。
おまけ:『ソウルフル・ワールド』につながるジャズの重要性
最後に、舞台背景についても簡単に記しておこう。ルイジアナ州の南部にある都市ニューオーリンズはジャズという音楽の発祥の地であり、劇中のミュージカルもジャズそのもの。ジャズは1863年の奴隷解放宣言後に、ダンスホールやバーでの仕事をするために黒人たちが生み出したものでもある。劇中の年代は1920年代であり、人種差別の風潮はまだまだ強くはあるものの、ニューオーリンズでは様々な移民が(それこそ劇中の「ガンボスープ」のように)入り混じっており、ジャズも興隆してしていった、まさにティアナのように「誰でも努力すれば夢をかなえられる場所」でもあったのだ(それこそ劇中ではワニのルイスだってジャズ演奏者になれる)。
後のピクサー作品『ソウルフル・ワールド』(2020)でもジャズ文化の重要性が語られており、そのジャズの特徴が物語とも不可分になっている。『プリンセスと魔法のキス』よりもさらにジャズの本質にも迫る内容にもなっているので、ぜひ合わせて観てみてほしい。
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(文:ヒナタカ)
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