「ブギウギ」スズ子は愛助の死を知らされて……<第86回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第86回を紐解いていく。
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印象の違う「ラッパと娘」
赤ちゃんが無事生まれましたが、その頃、愛助(水上恒司)はすでに亡くなっていました。出産から2日。このことをいつどのように話すか、山下(近藤芳正)と坂口(黒田有)は思案にくれています。
のんきに見舞いに来ている羽鳥(草彅剛)の傍らで、なんともいえない顔をしているふたり。
その後、羽鳥には事実を話し、スズ子(趣里)にも意を決して……。
全然会えないままで、どんどん手紙の文面も乱れ短くなっていて。それでも、まさか亡くなるとは思ってもいなかったスズ子。ふたりの報告を聞いて、言葉もありません。
一晩ずっと、眠れない状態で過ごします。
翌朝、矢崎(三浦誠己)が大阪からやってきます。愛助から預かった、スズ子の名義の預金通帳と、最期の手紙を渡します。
手紙には愛助がつけた子供の名前が書いてありました。
子供に名づけたことと預金通帳を残したのは、スズ子のモデルである笠置シヅ子さんの史実にもあることです。
笠置さんは大スターで、お金がありそうですが、9歳も年下の吉本頴右さん(愛助のモデル)がせっせとお金を溜めて結婚後の生活のことを考えていたことが、誠実な人柄を感じさせるいい話でありませんか。
手紙には、箱根旅行での写真も同封してありました。愛助の屈託のない笑顔と、手紙の「ごめんなさい」の言葉が胸を打ちました。
愛助がつけた名前は、男の子だったら、強くなってほしいから「兜(かぶと)」、女の子だったら、愛にあふれてほしいから「愛子」。
こんな状況ですが、女の子でよかったと思ってしまいました。いや、「兜」も悪くはないですが……。
「ブギウギ」は、どんなにシリアスな展開でも、どこかに、ふわっと違う手触りを入れてくるのが特徴です。山下と坂口の振る舞いもそのひとつです。また、産婦人科の壁に貼ってある妙に存在感のある動物たちの絵もそんな気がします。それらが救いになっています。
ちょうど愛子が泣き出して、スズ子は「愛子」「愛助さん」と交互に名前を呼び、愛子と一緒に生きていこうと決意します。
愛助が亡くなったことはとても悲しい。けれど、子供を残してもらって、「愛」の字を受け継げて良かった。
これが、創作ではなく(名前は違いますが)、実際にあったことなのですから、まったく事実は小説より奇なりです。
史実といえば、笠置さんの自伝に、頴右さんがラッパを吹いて、笠置さんが歌う夢を見たと書いてあります。ドラマでは、夢は夢でも、親子3人で楽しく暮らしている夢でした。シャボン玉が空に舞い上がる画がすてきで悲しい。
スズ子は夢うつつのなかで、子守唄のように「ラッパと娘」を愛子に歌って聞かせます。いつものパンチのある「ラッパと娘」とは違った、スズ子の、シャボン玉のようにすぐに空にかき消えてしまいそうな繊細な声が涙をそそります。
この歌は、一見、ノリノリで楽しそうですが、「悲しいお方も」と悲しい人にも歌いかけているもので、ものすごく悲しいなかで歌って悲しみを吹き飛ばすもの。
実のところ、悲しみに寄り添ったバージョンこそ、この歌の本質ではないかという気さえします。そして、そっちのほうが趣里さんの声には合っているような気がします。
趣里さんの主演映画『ほかげ』は彼女の特性・憂いが全面的に生かされた映画です。が、得意な憂いばかり演じるのではなく「ブギウギ」では、あえて、憂いを乗り越える演技に挑んでいる。そこが、このドラマの意味なのだと思います。
次週は、悲しみを乗り越え、新たなフェーズにスズ子が向かいそうです。
羽鳥はいても立ってもいられず、スズ子のところに行こうとしたとき、麻里(市川実和子)が「スズ子さんがあなたを必要とするときが来る」と言っていましたが、そのときが来るのでしょう。
(文:木俣冬)
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