「虎に翼」高瀬と小野が友情結婚? 花江、新潟へ<第93回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第93回を紐解いていく。
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寅子の家に航一が
美佐江(片岡凜)のことでもやもやしている寅子(伊藤沙莉)を気遣ってか、日曜日、優未(竹澤咲子)は稲(田中真弓)とふたり、映画に出かけます。
こういうときのお母さんといてもつまらない、というのも本音でありましょう。聡明な気遣いと、子供らしい本音を併せ持っているのだと感じます。
たぶん、ふたりっきりでいたら、完璧主義の寅子が出てきて、優未のことをへんに気遣っておかしなことになって、かえって疲れそう。
優未の気遣いのおかげで、何するでなく、ぼーっとして、気づけば居眠りしてしまった寅子のもとへ、航一(岡田将生)が訪ねてきました。読まなければいけない書類がたまっていると言い、寅子の家でマイペースに読み始めます。
航一は航一で、寅子に寄り添おうと思ったのでしょう。自分にしてもらったように、ただ横にいようと。書類は彼らしい不器用な言い訳であることを寅子は気づいています。
優未は、航一が来ることも予想していたのでしょうか。
その沈黙が不思議と寅子の心を軽くしていきました
(ナレーション)
心をゆるした者同士、黙って互いが別々のことをしていても、そこにいるという存在感だけで安心することがあります。
いつのまにか、寅子と航一にはそれが生まれているようです。もはや夫婦っぽい。優三(仲野太賀)につくったお守りをふと手にとり、彼を思い出しながら、航一に癒やされていく自分の心を寅子は抑制できないようです。母と娘ではこうはならないのですね。うーん、難しい。
「お茶新しいのに替えますね」という台詞を深読みすると、寅子は拠り所を「新しいのに替えた」のかと思ってしまいます。
そのお茶は熱すぎて、航一はすっと飲めません(単なる猫舌かもしれませんが)。
「僕も無意識に弱っているあなたにつけこもうとしていたのかもしれません すみません」
(航一)
航一もこれまでだまっていた総力戦研究所の話を皆にしたからすっきりしたわけではなく、いまだになにか抱えていて、もっと寅子に癒やされたいと思っているようで……。
でも、今日のところは、お互い理性で踏みとどまります。
帰っていく航一を見送る寅子にナレーション(尾野真千子)がかかります。
胸が苦しくて息が詰まる。こみあげてくる感情はなんなのか その答えから必死に目をそらすことしかできない寅子がいました
(ナレーション)
雪の道、お向かいさんの大根、湯気をたてるやかん、引き戸の音、等々、向田邦子ドラマふうの昭和の生活描写によって情緒が高まりますが、ちょっと待って。寅子は美佐江のつきつけた問題、なぜ人を殺してはいけないのかという究極の難問に悩んでいたのではなかったのでしょうか。それがいつのまにか恋愛感情にすり変わっていませんか。
人間とはそういうものだということなのでしょうけれど……。吊り橋効果にしたってあまりにヘヴィ過ぎないでしょうか。この感情に追いつける視聴者はかなり選ばれし者という気がします。
凡人の筆者なりに考えてみますと、人間とは理性だけでは抑えきれないことがある。頭でわかっていても身体がなぜか頭と違う方向に向かってしまう。倫理対本能という最大の難問を新潟三条という閉ざされた街を舞台に描こうとしているのかなと思います。ドラマ制作総力戦研究所で研究したら難しそうだと予想がつきそうななかなか無謀な挑戦です。
「ようやく長い冬に終わりが見えてきたようです」と昭和28年3月、美佐江が東大に合格したことを森口(俵木藤汰)が大喜びでお礼に来たり(このひとの態度の起伏も激し過ぎてついていけないですがこれもまた理屈ではないのです)、高瀬(望月歩)と小野(堺小春)が「友情結婚」することがわかったり。
世間体を気にして、結婚という体裁に収まろうと冷めた様子の高瀬と小野に、寅子は自分と優三を重ねて、慎重になったほうがいいと助言します。
ん? 寅子も最初はそうだったけれど、好きになって子供を作ったのではなかったのでしょうか。ここで、疑問を呈したら、優三との日々を否定することになりはしませんか。
高瀬はもともと妙に冷めたところがあったので、こういう結婚のスタイルを選択しそうな気もしますが、だったら小野のことが気になっている素振りを見せていたのはなんだったのか。生物的本能はあるけど、感情はさばけているということでしょうか。
小野はあれほど朝鮮人との恋に真剣だったので、急にさばさば友情結婚してしまう感情の動きが早すぎる気がしますが、朝鮮人との恋もいっとき燃え上がっただけだったのかもしれず、香淑(ハ・ヨンス)と汐見(平埜生成)との真剣な関わりとの差が描かれたのかもしれません。あるいは、恋を忘れるために結婚してしまえ、という荒療治か。
向田邦子世界から「ゆとりですがなにか」的な世界までが15分の間に詰め込まれたところへ、花江(森田望智)が訪ねてきて、きゃっきゃと喜ぶ寅子と花江。
ここのところ、イマジナリー花江だったので、ホンモノかと触ってみる寅子。
花江の生き生きした実存が救いになりました。森田さんのキャラづくりの巧さが光ります。彼女くらい飛躍してあっけらかんとしていると、理屈を取っ払えるのです。
(文:木俣冬)
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