続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年02月26日

「ブギウギ」離した手を再びつなぐ、大野さん(木野花)の再生<第102回>

「ブギウギ」離した手を再びつなぐ、大野さん(木野花)の再生<第102回>


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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第102回を紐解いていく。

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大野さんの過去

花田家に新しい一員が。家政婦の大野晶子(木野花)さんです。よくできたかたで、なかなか他人に愛子(小野美音)を任せることができなかったスズ子(趣里)も、大野さんには委ねることができました。

大野が来て半年。すっかり楽になったスズ子は、紹介してくれたりつ子(菊地凛子)に礼を言いに行くと、りつ子の口から大野の痛ましい過去が語られます。

明るくしっかり者に見えた大野でしたが、戦争で天涯孤独になっていたのです。
激しい空襲で孫の手を離してしまった記憶がいまも大野の脳裏を時々よぎるようなのです。

ぼうっとしている大野のアップが映ります。でもその横には、愛子が。幼い少女と一緒にいることが大野の心を癒やすようです。

スズ子のなかの空洞をりつ子が察し、同じように空洞を抱えた大野に引き合わせることで、お互いの穴を埋めることができるのではないかというはからいが成功しました。

大野のおかげで愛子は嫌いな人参を食べられるようになりました。
大野の作った漬物は美味しい。手に秘密があるのかなと、スズ子は大野の手に触れます。それは、孫の手を離してしまった手です。

そして、スズ子と大野と愛子が三人で買い物に行くとき、三人は手をつなぎます。すれ違った人が三人を家族と勘違いします。

失くしてしまった手の先がもう一度戻って来ました。

スズ子の家庭生活があたたかくなったところですが、仕事のほうでは悩みが。
次なるヒットを期待されていますが、なかなか「東京ブギウギ」を超えるヒットが出ません。

「自分と競争させられているみたいでんな」と困惑するスズ子。
「ずっと気持ち良う歌ってそれをお客さんに楽しんでもらってきただけやのに」というスズ子に、それが「福来スズ子」だと山下(近藤芳正)は励まします。

スズ子のモデルである笠置シヅ子がどうだったか正確なところは自伝や評伝を読んでもわかりませんが、庶民的な雰囲気で、生真面目で、でも歌って踊ると何かを超越したような独特のものを発揮し、人々を魅了する、というところでしょうか。

福来スズ子の、ふだんは普通だけど、ステージに立つと人々を魅了してしまう不思議な力を感じるには、趣里さんが主演した映画「ほかげ」を見ると補完されるでしょう。
戦争で何もかも失った主人公に残された、ただ生きるための獣性のようなものを、趣里さんが力強く演じ、キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞しています。

大野さんとの家族愛、スズ子の仕事の悩みの2本を15分の間にうまくまとめ、
かつ、タナケン(生瀬勝久)のアクシデントで次回に引っ張る。よくできた回です。

大野の事情に関しても、唐突に空襲体験を出してきたなあとも思いましたが、それをまず知って大野を雇う気持ちになるのでは、彼女への同情のようになってしまいます。まず彼女の家政婦としての実力や人間力にスズ子が参って、そのあと、実は……と裏話が明かされ、ますます信頼感が深まるという、考え抜いた構成なのでしょう。櫻井剛さんのいい感じにまとめる才能が遺憾なく発揮された一編です。

しかも、なんでスズ子はりつ子の楽屋に何ももっていかず、逆にドーナッツをごちそうになるのか、とか、タナケンが舞台でケガしたら、週刊誌よりも業界ですぐに話題になるだろう、ましてスズ子の耳にはすぐに入ってくるだろうというような、ドラマ小姑向けのツッコミどころもたっぷり用意してくださっています。第22週「あ〜しんど♪」(脚本:櫻井剛 演出:小島東洋)の見事なはじまりです。今週も楽しく!

(文:木俣冬)

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