「虎に翼」寅子と優三は逃げ恥婚?<第34回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第34回を紐解いていく。
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花岡の本音は
退場かと思った花岡(岩田剛典)が再び、登場。なになに?と思ったら、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)が待ち構えていました。「虎に翼」は、シーンの組み合わせが独特で、それがいいテンポを作り出しています。脚本が編集的な視点も担っているのか、編集でシーンを組み替えているのかはシナリオを確認しないとわかりませんが。
よねと轟は、寅子(伊藤沙莉)に対してあんな仕打ちはないだろうと花岡に意見をします。
ふたりは寅子を不実に捨てたと思いこんでいるのです。
花岡の言い分は、猪爪とは別に将来の約束をしていたわけじゃないし、みなの気持ちを背負って弁護士になると張り切っている寅子に、佐賀に来てくれと言うことはできないというものです。
よねと轟はあの食事のシーンを見ていないから、一方的に花岡に怒っていますが、花岡の言い分も視聴者的にはわかります。少なくとも「わかるよ、おれにはわかる」と筆者は言いたい。
いまと違って、男の人とふたりきりで食事したり、親密に話をしたりすることには、深い意味があった時代と考えます。なにしろ、お見合いではじめて会った人と結婚することがポピュラーな時代ですから。
気軽な男女の友情や軽めの恋愛というような現代の価値観で、花岡と寅子について考えると、コトの本質を見失います。
花岡は花岡で、寅子が好ましいから佐賀に来てもらえたら嬉しいが、無理であろうと判断し、割り切るしかなかった。不器用な性格だし、彼は彼で傷ついているから、そのことを寅子には話せなかった。といったところでしょう。
微妙な失恋を轟にすら言えない、日本男児的に心が縛られた花岡がお気の毒になります。
その日本男児的な縛りが、轟の言う「猪爪も奈津子(古畑奈和)も侮辱する行為」になってしまっていることも否定はできませんが、寅子が社会的地位を得るために結婚しようと考えたのと同じく、花岡も社会的地位を得るために奈津子と結婚するのです。
それを寅子にもあらかじめ説明したほうが誠実ではあったかもしれません。が、「どうせ、おまえなどあいつととうてい釣り合わない」とよねが言うことはちょっと言い過ぎな気がします。よねはよねで、真っ直ぐな人だから良いのですが。
轟が一番、バランスがとれている。この人と結婚できる女性は幸せ者な気がします。
轟は寅子のお見合いについて、どう思うのでしょうか。寅子と花岡は同じようなことを考えているわけです。
寅子はお見合い相手を親に探してもらいますが、年齢的なことや職業的なことでなかなか進展しません。ようやく現れた見合い相手は、医者で、容姿的には見目麗しくはない人物でした。その写真を見て、一瞬沈黙したりして、彼女もまた人を区別しているのがわかります。
「何かビビビっと来たわけではない」という婉曲な言い方にはなっていますが、要するに好みではないけど我慢しようということ。そうして相手の好物のクッキーの焼き方を習ったりしていたら、弁護士は怖そうという理由で断られてしまいました。この医者の勘は正しい。自分が利用されているのがわかったのではないでしょうか。
医者と弁護士、他局の「Destiny」では検事と医者が恋人同士でなかなか大変そうで、医者は検事をやめて弁護士になったら結婚生活ができそうなことを言います。寅子も検事ではなく弁護士なので良さそうですが、それにしたって家事や子供をつくることや義理の父母との関わりなどと仕事を両立できると思っているのでしょうか。
籍だけいれて、あとは自由にしてよしと言ってくれる相手を探さないと難しいでしょう。
都合のいい人はなかなか現れず、弁護士の仕事も決まりません。自尊心を削られていく、これぞ地獄――そんなとき、救世主が。
優三(仲野太賀)です。
お腹を下しながら(つまり彼にとってとても真剣なことなのです)、寅子に「ぼくじゃだめですか」と申込みます。
優三は、寅子の思惑を全部わかったうえなのです。もともと寅子に好意があったから、これはもう好都合。
寅子は「この手があったか」と鼻息荒くなります。
「お互いの利害が一致して契約をしあう」という考え方、割り切って社会的な夫婦を演じるやり方はまるで、石田ゆり子さんの出ていた「逃げるは恥だが役に立つ」のようです。ただ、優三は寅子に好意があり、好きな寅子のために身を挺してくれようとしているところが、「逃げ恥」の平匡さんとは違います。
こと男女関係に関してはなぜか鈍く、優三がお腹を下してまで申し込んできた真意を理解していない寅子。はなはだ自分本位な感じですが、世の中の不当に苦しんでいる女性たちのことを思えば、トントン拍子に寅子に都合のいい展開も痛快に映るのかもしれません。
(文:木俣冬)
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