「虎に翼」久保田に先を越され、花岡には婚約者が。そして寅子は見合いを決意する<第33回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第33回を紐解いていく。
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だから佐賀に
日独伊、三国同盟が結成された頃、花江(森田望智)の実家の女中だった稲(田中真弓)が猪爪家に挨拶に来ます。 無料メールマガジン会員に登録すると、 無料のメールマガジン会員に登録すると、
田舎に帰るそうです。年齢的なこともあるし、女中を雇う余裕もなくなっている状況なのだとか。
戦争の余波が町の様子を塗り替えていきます。「ぜいたくは出来ない筈だ」という看板が興味深い。これがやがて「贅沢は敵だ」になるのでしょうか。
「ぜいたくは出来ない」時代だからか、稲は寅子(伊藤沙莉)に「すべては手に入らないものですよ」といまいちど女の幸せを再考するよう、助言して去っていきます。
弁護士として颯爽と活躍がはじまる……かと思われた寅子ですが、ここへ来て停滞。事務所に依頼に来る人達にことごとく担当を断られていました。
初の女性弁護士と世間にもてはやされても、それは国やマスコミが煽っているだけで、市民には浸透していません。女性の弁護士では不安だと感じるのです。
とくに、結婚もしていない女性には信頼がないようで……。
そんな日々が続き、あっという間に翌年の秋。
久保田(小林涼子)が先に法廷に立ちました。
女性としては日本初の快挙に寅子は「良かったという気持ちとうらやましいという気持ちがごちゃまぜの寅子です」と素直な心情をナレーション(尾野真千子)が語ります。
花岡(岩田剛典)との別れのときは寅子の心情を明示しませんでしたが、今回は、良かったと羨ましいという気持ちの混在をちゃんと表明しました。
久保田の法廷での弁護は、判事たちがいちいち笑ったりするなど、よい出来だったとは思えません。
久保田は結婚して懐妊中。弁護士であり、良き妻、良き母という存在が世間的に好印象なのであり、仕事自体に期待はされていない感じ。
女性が男性の職業に登用されているのは、戦時に国民が一丸となるために利用されている
だけなのだと竹中(高橋努)はシニカルなことを指摘します。
結局、妻であり母であることが女性として一人前の前提なのかと思い知らされる大きな出来事が――。
裁判の帰り、花岡とばったり再会。彼は美しい婚約者を連れていました。
一応、別れてから1年以上経っているのですが、視聴者的には昨日の今日なので、え?早すぎない? と困惑してしまうと思うのです。筆者はそうでした。
なんとなく気まずい花岡と寅子。でも寅子はにっこりお祝いを言います。せいいっぱいの強がりという表情でした。
好きだった男性が仕事のために都合のいい女性と結婚するというのは、「光る君へ」のまひろと道長みたいです。
「だから佐賀についていけばよかったんだ」とよね(土居志央梨)がずばり。
花岡は地元・佐賀に戻り、裁判官として社会的に認められるために最適な女性を妻にしたのでしょう。現代でも、職種にもよりますが、結婚指輪をしている男性のほうが安心されると聞きます。
昔から、いつまでもひとりでいる人よりも、結婚し子供を成した人のほうが、社会の構成員たろうとする意識の高さを感じるという考え方があり。ひとり者は社会に参加する意思が低い、あるいはその能力が欠けていると思われがちなのです。
そこで寅子は父母に土下座して頼みます。見合い相手を探してほしいと。
稲には「すべては手に入らないものですよ」と言われましたが、寅子は法の世界で一人前と認められるために、大事な仕事のために、結婚もしようと考えるのです。彼女にとってのぜいたくは、結婚しないで好きなことをすることだったけれど、ひとつ諦めて、結婚をするのです。
「結婚も仕事も」ではなく「仕事のために結婚」するのです。朝ドラにしては新しい価値観です。
よねの場合は、男装をやめずにやりたいことをやろうと意地を張っていますが、寅子は心底くだらないと思いながらも結婚することで、やりたいことをやろうとする柔軟性を獲得したわけです。
よねみたいな人のほうが好きという人もいるでしょうけれど、寅子のようなちゃっかりした考え方の人もいます。
「結婚前の御婦人に頼みたいのはお酌だろうな」と寅子に言った雲野(塚地武雅)も「弁護意外の価値観は明治のまま」とよねが怒っていましたが、彼だって共亜事件では頼りがいがあったし、お金のない人の弁護も請け負う人権派なのです。でもなぜか女性への認識はゆるい。
堅苦しく1点重視する生き方よりも、「良かったという気持ちとうらやましいという気持ち」の混在を認めて生きるほうが楽になれるのかも。
ドラマではよく、悪い人がいないから好きという価値観がありますが、絶対的に清廉潔白な人がいないドラマもいいものです。
(文:木俣冬)
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