「虎に翼」寅子、浮浪児を家に泊める<第57回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第57回を紐解いていく。
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はるの慈愛
戦災孤児の視察をきっかけに、寅子(伊藤沙莉)、よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)が再会しました。よねたちは弁護士事務所を、主人亡きカフェー燈台の建物を使って営み、戦災孤児たちの面倒も見ていました。
多岐川(滝藤賢一)たちもやってきて、「地域に根ざした支援 素晴らしいじゃないか」とよねたちを労います。
汐見(平埜成生)が、あなたがよねさん、という感じで気に留めたのは香子(ハ・ヨンス)から同期の思い出を聞いているのでしょう。香子は出自や過去を隠しているものの、あの頃の友情を大事にしているのだろうと感じます。
ああ、早く、寅子とよねと香子が昔のように仲良くなってほしい。
季節は冬、戦災孤児たちには厳しい季節です。孤児は増える一方で、悪さもするので捕まえて保護します。でも彼らを受け入れる場が足りません。家庭裁判所もその受け皿のひとつになっています。
寅子は保護された道男(和田庵)と再会し、口論のすえ、引っ込みがつかなくなって家につれていきます。
突然、素性のわからない、しかも態度がすこぶる悪い少年を泊めることに家族は戸惑います。当たり前です。が、はる(石田ゆり子)はいくらでもいていいと「人生持ちつ持たれつ助け合いですよ」と受け入れます。
亡き直言(岡部たかし)の浴衣を着て食事する道男はふてぶてしい。少年というよりもはや青年のように体が大きいので、まるで一家の主のような雰囲気です。
はるは、道男を目の当たりにしてようやく、戦後社会の大変さに気づいたようです。もともとお金持ちなうえ、目下、登戸から都会に出ることもなく、浮浪児たちがあふれる荒廃した街を知らないのでしょうか。このへんの感覚が、令和のわたしたちの感覚として描かれているのは、作者が若く、当時の感覚に手が届かないのか、あえて、現代感覚で描いているのかわかりません。
個人的な感想ですが、知らないことを知ろうとする想像力や思考力を大事にすることこそがいまこそ必要であり、手っ取り早く自分たちのわかる範囲に物事を片付けてしまうことで失われてしまうことがたくさんあるように思っています。
自分とは違う存在や考えを、ありのままに受け取ることが平等の前提なのですから。
「机のうえで理屈をこねて結局さじを投げる」とよねが寅子たちに言っていましたが、自分たちのわかる範囲でしか物事を見ないのは、エスタブリッシュメント(支配階級)の感覚です。
多岐川がやたら「愛の裁判所」というのもなんか胡散臭く響いてしまいます。いや、多岐川は志ある人なのはわかるのですが。「愛」という言葉がキャッチコピーのように軽く感じられてしまう。もしかしたら、当時はもっと「愛」に重みがあったのかもしれません。
はるが世間知らずのお金持ちの奥様ふうであるのに対して、なぜか寅子はお嬢様感がまるでなく、どちらかといえばヤンキー風味。道男とのやりとりなんて不良(死語?)同士にも見えます。いや、元ヤンキーの社会人が不良少年と対峙している感じ。上品なお嬢様風味だと視聴者に親しみが持てないからこういうキャラにしているのでしょう。実際それがドラマの人気に寄与しているとは思います。
関西出身者を関東人の役に、関東出身者を関西人の役にしたりするのと同じで、違和感があったほうが印象に残るもの。猪爪家の違和感・道男は猪爪家に何をもたらすでしょうか。
(文:木俣冬)
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