続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年07月18日

「虎に翼」土地の境界問題とは何だったのか。弁護士・太郎(高橋克実)の暗躍<第79回>

「虎に翼」土地の境界問題とは何だったのか。弁護士・太郎(高橋克実)の暗躍<第79回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第79回を紐解いていく。

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私情と仕事が混ざる寅子

「死を知るのと受け入れるのとは違う。事実に蓋をしなければ生きていけない人もいます」
などとニヒルな顔で語る航一(岡田将生)が探偵のように見えます。田舎の密度の濃い人間関係から起こる陰惨な事件を解決する探偵のような風情。

そして、寅子(伊藤沙莉)は「だから語りたくないし語られたくない」と同調。ここでもう高瀬(望月歩)のことではなく自分の優三(仲野太賀)への気持ちにシフトしてしまっています。昨日の今日で優三のことで泣いていたのですから無理もないですが。

次郎(田口浩正)は皆戦争で誰かしら大事な人を亡くしているから、乗り越えていかないとと、割り切ったことを言いますが、さらに航一は「そう言われるとわかっているから、彼は乗り越えたふりをするしかなかったんでしょうね」とまた探偵が犯人がわかったあと、エンディングで言うような台詞を語ります。

東京の人は洒落たことを言うと、次郎は席を立ちます。話が合わないし、粘ってもいいこともないと諦めたのでしょう。

そもそも、航一は仕事で書類の確認に来ていたのですから。ふたりきりになって寅子に書類の確認を促しますが、寅子は「自分の話をされているようでした」と自分の話をはじめます。娘に優三の話をできないこと、娘との間に大きな溝ができてしまったという複雑な話をします。仕事を終わってからにしないのが寅子流。世の中には、仕事をまず済ませてと思う人もいますが、そうはならない、ままならないこともあるのです。

航一は自分は溝を自ら作るほうだけれど、寅子はとんでもなく諦めが悪いですね、と褒めます。
表現が独特ですが、すっかり航一は寅子の理解者です。優三と似た感じです。唯我独尊ながらそれなりに傷ついて迷う寅子の理解者であるのです。

その日の帰り、寅子はばったり高瀬に出会います。お弁当は持って帰った様子がないけれど、作業しながら食べたのだろうか、と気になります。お金を払って優未(竹澤咲子)に持って帰ってもよかったのではないか。と余計なことを考えながら、寅子と高瀬の会話を見ます。
寅子は、謝ったり褒めたり、期待をかけたり、若い高瀬の心をほぐしていきます。

「すべて一気に解決することはできない。でもひとつひとつやっていくしかない」(ナレーション・尾野真千子)

物事がたくさん重なってどれも手がつかずどうしようもないときはありますが、ひとつひとつ、できることからとりかかっていくしかないということは確かにあります。寅子がんばって。

翌朝、高瀬は出勤していて、ふたりで境界問題に当たります。江戸時代の古文書が見つかって、それが役に立つかと思ったら(このとき買い物かごをもったまま資料室に行く寅子が気になってしまったけどサザエさん的な感じ?)、調停で、太郎(高橋克実)が別の資料を出してきて、手打ちになってしまいます。寅子と高瀬が行動しているのを、じっと見ている太郎と次郎がじつにあやしかった(昭和の未解決事件のようでした)。

太郎が仕組んだ茶番な解決はさておき、ここで注目は、原さんの弁護人らしき太田さんを演じていた新川將人さんです。ずっとハンカチで顔の汗をふいていて、この部屋の蒸し暑さが伝わってきます。

物理的な不快な暑さのみならず、この調停の、この町の人間関係の、ねっとりじっとりしたいやな空気すら感じさせます。出番が少ないのに、この場面を見事に作りあげています。さすが長年、富良野塾を経て蜷川幸雄さんの芝居に出ていたかたで(村上春樹の小説の舞台化「海辺のカフカ」ではジョニー・ウォーカーを演じました)、蜷川さんはこういう場面における脇役の芝居にとても細かったので、蜷川さん亡きあともしっかりこれまでやって来たことをやり続けているのだと感じました。名もなき人たちを描くというのはこういうことです。ただ配置すればいいのではありません。

ちなみに森口さんを演じた俵木藤汰さんとさんを演じた星野亘さんは新潟出身の俳優さんです。地元枠。

話を戻して、太郎です。「つまり森口さんも原さんも先人たちの誤りに翻弄された被害者なのです」と、境界問題をうまくまとめたうえ、高瀬が訴えられないようにもうまく話をつけます。ここでは「持ちつ持たれつ」と口癖のように繰り返します。でも寅子がそれはそれ、これはこれで、高瀬が森口さんにしたことはきちんと罰されないといけないと言うのです。そして、高瀬もまんざらではない顔をします。

このエピソードでなぜかたびたび民族音楽のようなものが劇伴になっています。これは「トリック」を思わせます。太郎の言う、狭い地域ならではの独特な風習や問題解決の仕方をミステリーに仕立てた秀作が「トリック」でした。つまり金田一耕助ものを21世紀にアップデートした作品です。新潟編の入口は、戦後の横溝ミステリーとトリックの流れで作っているようです。

寅子の家庭問題、戦死した人をなかなか忘れられない問題、職場の人間関係、若者とのコミュニケーション問題、調停案件、地域差のある倫理問題等々をぎっしり詰め込んで、ワンエピソードにしていてすごい腕力だなと思います。まさに「すべて一気に解決できない。でもひとつひとつやっていくしかない」です。

(文:木俣冬)

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