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映画コラム

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2024年08月02日

『インサイド・ヘッド2』が2024年最重要アニメ映画となった「5つ」の理由

『インサイド・ヘッド2』が2024年最重要アニメ映画となった「5つ」の理由

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2024年は国際的にアニメが豊作な年と言える。日本からは、カルト的人気を博した『トラぺジウム』やフリーの3DCGソフトBlenderを使用した『数分間のエールを』。山下敦弘監督が実写パートを撮影し、映画クレヨンしんちゃんの絵コンテ担当として知られている久野遥子がロトスコープに落とし込んだ『化け猫あんずちゃん』などがある。

海外アニメだと、村上春樹の短編を映画化した『めくらやなぎと眠る女』や可愛らしいヴィジュアルと裏腹にハードな戦争の凄惨さを語った『ユニコーン・ウォーズ』などがある。



そして、この夏8月1日(木)よりディズニー&ピクサーから満を期して『インサイド・ヘッド2』が公開されている。少女の内面に渦巻く感情を擬人化し、そのユニークさから第88回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞した名作の続編である。

今回は前作以上にパワーアップしており、2024年最重要アニメ映画となっていた。当記事ではそんな『インサイド・ヘッド2』について「5つ」の観点から書いていく。

※物語の重要な部分に言及するネタバレがあるため、未鑑賞の方はご注意ください。

1:来年のアカデミー賞最有力!?


まず、本作は間違いなく来年のアカデミー賞にて長編アニメーション賞にノミネートされるであろう。そして、受賞も堅い作品といえる。大きな理由として、物語性と技術力の双方で高度なことを行っているからである。

前作では、引っ越しにより孤独を抱えてしまう少女ライリーの葛藤を感情の擬人化で表現していた。今回は、個の物語から他者を介在する物語へと進化を遂げている。

高校入学を控えたライリーはアイスホッケーが大好きで友達と一緒にキャンプへ行くこととなる。ライリーは友達と一緒に憧れのチームに入るつもりでいたのだが、キャンプ当日に彼女たちはライリーと同じ学校へ進まないことを知る。そして、友達はあまりキャンプに本気でないことも分かる。

ここで、人生の大きな分岐点が訪れる。

  • 1:憧れの選手ヴァレンティナに好かれるように行動する
  • 2:友達と一緒に惰性でキャンプ生活を送る

モヤモヤ悩む中、ライリーの心に「シンパイ(心配)」「ハズカシ(羞恥)」「イイナー(嫉妬)」「ダリィ(倦怠)」が生まれる。そして、既存の感情を抑圧し追い込まれていってしまうのだ。

つまり、成長する過程で複雑な人間関係に悩む様子を描いた作品といえよう。従来、複雑な人間関係や心理を様々なアプローチで映画に落とし込んできた。



たとえば、アリーチェ・ロルヴァケル『墓泥棒と失われた女神』では、夢とダウジングを組み合わせて未来を掴もうと足掻く者が搾取される関係性を描いた。イングマール・ベルイマンは『仮面/ペルソナ』において寡黙な者と話す者を対比させ、終盤で個々が融合することにより、個が内に持つ他者性を表現した。

実写映画の場合、アート作品としての難解さが伴う傾向があるのだが、『インサイド・ヘッド2』は前作以上に複雑な感情を描いているにもかかわらず、子どもでも平易に理解できる内容に仕上がっているのである。

2:ディズニー・ピクサーの《到達点》としての一本


ローマは一日にして成らず。

『インサイド・ヘッド2』はここ数年のディズニー&ピクサー作品の積み重ねによって誕生した集大成といえる。

『私ときどきレッサーパンダ』では、親に見られたくないものを見られてしまった羞恥心の高まりをレッサーパンダへの変身で表現した。レッサーパンダは「ありのままの自分」のメタファーとも取れ、自分のある側面を誰にどのように魅せるかといった思春期特有の悩みを視覚的に提示した作品であった。

『ソウルフル・ワールド』では、生きる目的が見つけられない魂と夢を手にしようとするジャズミュージシャンとの関係から、人生の意味を語った。



『マイ・エレメント』では、人種間の恋愛を火、水の擬人化で表現する。これにより、さりげない行動が加害につながることの可視化に成功している。たとえば、火属性が街を歩いていると、水属性を蒸発させてしまったり木を燃やしてしまったりする。水属性も火属性の雑貨屋で物色していると、商品を破壊してしまったりする。このように「存在するだけで生じる加害性」を明示するのである。

そして、これらに共通するものは「悪意を持った敵役」が存在しないことにある。多くのディズニー&ピクサー作品には倒すべき敵が存在する。しかし、上記の作品において敵の存在は希薄となっている。『マイ・エレメント』に関しては、役人や家族と軽く対立する程度に留まっている。

社会が分断し民主主義が保たれなくなりつつある現代において、フィクションができることは「対話の重要性を説くこと」だとディズニー&ピクサー作品は訴えているのではないだろうか。


実際に『インサイド・ヘッド2』では、「シンパイ」が要因となって混沌を引き起こすが、敵としてシンパイを排除することはしない。『私ときどきレッサーパンダ』では怒れる母との対立をモンスターアクション映画として描いていたが、本作ではヨロコビがシンパイに歩み寄り、直接対決することはない。

確かにシンパイはトラブルメーカーであり、ヨロコビたちを追放した首謀者であるが、対話を通じて和解する方向に舵を切っているのである。また感情の対話を実態に引き継がせ、ライリーが複雑な人間関係を整理することに繋げている。つまり、より対話を重視した作劇に寄せているのだ。

3:パワーアップした心理描写


前作でも抽象的概念を視覚化する工夫が行われていたが、今回はパワーアップしている。

着目すべきは擬人化されている感情と感情内で起こる現象との関係性である。まず、本作において感情はヨロコビやシンパイのように擬人化されている。しかし、概念においては現象として描かれている。

たとえば、ライリーが新しいチームメイトから好きなミュージシャンを貶される場面。ライリーは、彼女に対して「皮肉」を言う。この時、感情の世界では皮肉の谷が生まれ、司令部へ戻ろうと旅をするヨロコビたちを阻む。対岸には作業員がおり大声で助けを求めるのだが、皮肉の谷を介すると嫌味に聞こえ、作業員は去って行ってしまう。このことから「皮肉」とは、物事を大げさに言うことで嫌味っぽく相手に伝えるようなものだとわかる。

このように個々の感情のぶつかり合いによって概念が生まれる流れを視覚的に落とし込んでおり、その表現力の高さに圧倒されるのだ。

4:シンクロする実態と感情とのアクションが素晴らしい


また、前作以上にライリーのアクションと感情たちのアクションがシンクロしている点にも注目である。

冒頭に注目してほしい。アイスホッケーの試合が行われる。ヨロコビが司令官となってコントロールする。イカリがライリーをゴールに向かわせ、ビビりが起こり得るトラブルを想定する。ムカムカがライリーの身に起こる不快感を処理し、カナシミがある種ブレーキ役として機能する。これが、実際のライリーの試合でも発揮されチームプレイとしての動きを魅せる。

一方で、実態も心理も少々独善的な部分がある。試合中のライリーは確かにチームプレイはしているけれども、自分がゴールにシュートすることで頭がいっぱいになったプレイをしており、周りが見えていない。そのためペナルティを食らう。感情も同様にヨロコビが前面に立ち、各感情に命令をしている構図となっている。

そして、独善的に振る舞い空回りするヨロコビの行動と自分しか見えなくなっていくライリーの行動をシンクロさせていく。ヨロコビが他の感情を思いやるようになり冷静さを取り戻すようになる過程を通じて、ライリーが複雑な関係性に落としどころを見出していくのだ。


また、新しい人間関係を築く中で感情を抑圧してしまう現象の表現も興味深い。シンパイがたちが従来の感情であるヨロコビを司令部から追放する。その過程で牢屋のような場所に閉じ込められてしまう。

そこには、黒歴史やライリーが恋したゲームのキャラ(知られたくない感情だろう)、そして道化な感情が異なる質感で閉じ込められている。これらは通常、心の奥底に留まっており、実態の行動に現れることはない。そこの領域にヨロコビたちを追いやってしまう。

つまり、感情を抑圧することの本質が描かれているのである。

5:老若男女楽しめる夏休み映画


一見すると難解な大人向け映画のように思える。しかし、『インサイド・ヘッド2』は世界興収が14.6億ドルを突破しており世界興収ランキング歴代1位となった。2位が『アナと雪の女王2』であることを考えると、老若男女に受け入れられている作品だといえよう。

実際に、本作は子どもと大人では異なるイメージを抱くだろう。子どもは、ヨロコビたちの冒険を通じて抽象的概念を理解する。特に「シンパイ」は英語における"Anxiety"、つまり将来に対して抱く不安に対する心配を表す感情であり、ライリーの物語を通じて具体的なイメージが掻き立てられるのだ。

一方で大人が観ると、思春期だった頃の試行錯誤する中で人間関係を拗らせた思い出がフラッシュバックし共感性羞恥心を刺激されたり、懐かしさを抱くであろう。それこそ、ライリーの親の感情さながら彼女を見守りたくなるのである。

最後に

おそらく、ここまでヒットしたからには3作目も作られるであろう。まだ、恋心といった感情は描かれていない。そして、黒歴史やナツカシといった感情に掘り下げの余地が残されている。ひょっとすると次回は、社会人になったライリーが仕事と恋愛との間で葛藤する物語になるのかもしれない。

老若男女が楽しめるアニメを作り続けるディズニー&ピクサーの底知れぬ成長に期待が高まるばかりである。

(文:CHE BUNBUN)

参考資料


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