続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年08月02日

「虎に翼」航一(岡田将生)は戦前、総力戦研究所にいたと告白<第90回>

「虎に翼」航一(岡田将生)は戦前、総力戦研究所にいたと告白<第90回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第90回を紐解いていく。

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寅子は航一に寄り添いたい

ことあるごとに「ごめんなさい」という航一(岡田将生)。その真意が明かされました。

雪の降る日、なぜか大繁盛のライトハウス。カウンターには杉田兄弟(高橋克実、田口浩正)がいて。席が空くまで、離れて座って待つ寅子(伊藤沙莉)と航一と入倉(岡部ひろき)。
いつしか客はほかにいなくなり、ひっそりします。

航一は、戦前、「総力戦研究所」に所属していました。そこで模擬内閣をつくって、日米戦の机上演習を行った結果、日本の敗戦が導きだされましたが、報告を聞いた政府が戦争をやめることはありませんでした。

優秀な人々が集まって考えたことなので、実際、その演習どおりに日本は負けました。予想ができていたのに戦争を阻止できなかった責任を感じて、航一は「ごめんなさい」と謝ってしまうのです。

ひとりで何ができたかはたかが知れているとはいえ、戦争で、大事な人を亡くした人が大勢いる、その責任が微塵もないとはどうしてもいえないと航一は苦しみます。

「その罪を僕は誰からも裁かれずに生きている」

航一は自分を責め、自分を信じていないけれど、法律は信じられる。その法律を使って、子供を育てるために裁判官の仕事をしていると吐露します。
法律が唯一信じられるとはいえ、誰からも裁かれない苦しみを背負いながら、人を裁いているとは、もうそれだけで十分、自分を罰しているような気もします。罪悪感ハンパないと想います。
きっと日々すごく絶望しながら生きているのでしょう。彼の長い前髪はその苦悩の表れかもしれません。戦時中の回想では、髪を横分けにして聡明な表情をしていました。いまやすっかり表情が曇っています。

いろんなことが曖昧でうつろいやすいけれど、法律は信じられるという考え方は寅子が、憲法が大好きなのと似ています。だから、ふたりは惹き合うのかもしれません。

航一のモデルである三淵乾太郎さんは総力戦研究所に所属していました。でも、本人の口からはこの経歴にはいっさい触れていないそうです(ドラマの取材担当の清永聡さんの「三淵嘉子と家庭裁判所」より)。だからエモーショナルな部分はドラマの創作になります。

杉田兄弟も、涼子(桜井ユキ)も寅子も、航一が自分を責めることはないと考えますが、航一は耐えがたく、店を出ていきます。

外は雪。港から汽笛(霧笛?)のうなり声が聞こえてきます。その音は戦時のサイレンのようにも聞こえるような気がしました。

追いかけて店を出た寅子に「こいつ急にべらべらしゃべるなって思いました?」と、視聴者の気持ちに寄り添うような台詞を言う航一。

寅子が「あなたが抱えているものは私達誰しもに何かしら責任のあることだから。だから バカのひとつ覚えですが寄り添って一緒にもがきたい。少しでも楽になるなら……」
と語りかけると、航一は雪のなかにしゃがみこんでしまいます。

寅子も一緒にしゃがみ背中をさすります。
しばらくすると、上空に光が差してきます。これは、寅子と航一の心情を表すものでしょうか。
この場面、雪がひじょうに効果を成していました。

寅子の「バカのひとつ覚えですが寄り添って一緒にもがきたい」という台詞もまた、「寄り添う」という言葉が形骸化していないかという視聴者の気持ちに寄り添った台詞にも感じます。

ここは「寄り添う」という言葉しか浮かばないが、「寄り添う」が消費されすぎてありがたみがすり減っている現状もあります。「寄り添う」の本質を考えたいという問題提起にもなっています。「問題提起」も使いすぎるとありがたみがなくなるから要注意です。

さて。おごると食事に誘われて来て、杉田兄弟と共に店内に残された入倉は何を思っているか気になりました。若い世代の彼のお気持ちを知りたい。でも彼も関東大震災は知らないけれど、戦争は経験しているはずです。

(文:木俣冬)

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