「虎に翼」寅子を助けに香淑(ハ・ヨンス)が新潟にやって来た<第88回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第88回を紐解いていく。
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夕飯がお菓子と漬物
どうしても被告人側・差別を受けている側に心を寄せてしまう、と寅子(伊藤沙莉)が悩んでいると、だから合議制があるのではないかと、航一(岡田将生)は冷静です。入倉(岡部ひろき)のような考え方も否定すべきではないし、寅子の考えも。様々な考え方や感情を出し合って、中から最適解を選択する、それには時間や辛抱や知性が大切でしょう。
罪について考えることは、人間の知性の可能性を拓く場なのだと感じます。
問題の放火事件に、ひとつの証拠が提示されました。容疑者・金顕洙(許秀哲)が弟宛に書いた手紙です。そこには「中を完全に燃やしてしまった」とありました。この言葉によって容疑を認めていることになりそうですが、寅子はなぜわざわざ手紙にそんなことを書くのか気になり、また言葉も不自然だと感じます。入倉は日本人には読めない朝鮮語だから油断して本音を書いたのではないかと推測します。
顕洙が手紙を書いている寅子の脳内イメージシーンでは、朝鮮語がセンスよくレイアウトされていました。演出は橋本万葉さんです。
「中を完全に燃やしてしまった」の部分に寅子はひっかかるものの、朝鮮語が読解できないので、小野(堺小春)に聞いてみますが、やはり「燃やす」という意味でした。
もやもやしながら帰宅すると、優未(竹澤咲子)も疲れて眠っていて、食事の支度どころではありません。
寅子が夕飯はお菓子で済ませようと提案します。「だめ?」と聞く寅子に優未は「だめじゃないよ」とむしろ楽しそう。これは以前のいい子のふりではなさそうです。
おそらくですが、寅子が堅苦しかった頃よりも、こういうズレたことをするほうが気楽なのではないでしょうか。それもふたりで手を抜く共犯関係は、こっそりふたりで美味しいものを食べることと同じような喜びがありそうです。
もらいものの洋菓子の数々にお漬物、というなんだか奇妙な取り合わせですが、ふたりの会話は弾みます。山登りで怪我した子を、クラスの嫌われ者の子が背負い、優未が荷物をもって下山したという話を聞いて、寅子が嫌われ者の子はじつは「優しいのね」のだと感じると、「困っている人を助けるのは普通のことでしょう」と優未はあっさり。
こういうときの「普通」はありです。なんでも「普通」でくくって、その枠から外れたものを叩くことは問題ですが、「困っている人を助けるのは普通」という認識はなんの問題もありません。
ふたりの食が進み、溝が埋まりつつあるような、なかなかいい母娘の場面でありました。
そして日曜日、寅子の家を訪ねてきたのはーー
香淑(ハ・ヨンス)でした。
寅子の頼みで、香淑が夫・汐見(平埜生成)と共に東京からはるばる新潟までやって来ました。
香淑が朝鮮語の手紙を読むと、「燃やして」という部分が「気を揉ませて」であることがわかります。「テウダ」という単語は「燃やす」ではありますが、頭に「中」という意味の単語がつくと「気を揉ませて」という慣用句になるというのです。
確かに、公判で手紙を読まれたとき、顕洙がはっとした顔をしていました。
なのになぜ誤訳を訂正しないのか。香淑は、日本で味方がいなくて抵抗するとさらに悪いことが起きそうで諦めてしまったのではないかと、自分の気持ちに少しだけ重ねて推測します。
これで裁判が一歩前進しそう。そのとき、もうひとりの訪問者がーー。
言葉の違いから生じた誤解を寅子が解読していくスリリングなエピソードに、大切な友人・香淑が助けに現れるというわくわくもあり、社会問題を考える機会にもなる見ごたえのある回でした。
(文:木俣冬)
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