続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年08月09日

「虎に翼」寅子と航一の「永遠を誓わない、だらしない恋」<第95回>

「虎に翼」寅子と航一の「永遠を誓わない、だらしない恋」<第95回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第95回を紐解いていく。

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本庁の床は滑る

思いがけず、お守りのなかに入っていた優三(仲野太賀)の手紙。寅子(伊藤沙莉)思いの優三は、亡くなってもなお、寅子の一番の理解者であり、気兼ねなく生きてほしいと気遣っていました。

お守りの中身を開けることはなかなかしないものですが、なぜ優未(竹澤咲子)がお守りの中を開けたかというと、父のことをもっと知りたかったから。寅子があまり優三の話をしなかったのがかえって功を奏したようです。

好きにしていいのだという優三の言葉に背中を押された寅子は、部下の友情結婚も認めます。が、自分のことはまだ完全に解き放つことができません。優未と優三との血のつながりの深さを感じれば感じるほど、それ以外のものに接触することは憚られるものです。

ところが、ある日の本庁勤務。雨がひどく列車が止まって帰れなくなり、寅子は航一(岡田将生)とふたりきりになります。

優三の手紙を読んで、よけいに優三への義理堅さ(恋しさ)が募った寅子ですから、航一に「私はいまも優三さんを愛している。これからもずっと愛し続けたい。だから彼以外に誰かを愛したりしてはだめなんです」「航一さんのことは大切に思っています。でもきちんと気持ちに線を引きたい」とぶしつけに申し出ます。

いつものこととはいえ、ものすごく自分のペースで話を進め、ふつうだったら、ん?と思いそうですが、航一はあっさり彼女の気持ちを解してしまいます。つまり相性がいいのでしょう。

航一は、妻を亡くして以降、余生と思って生きてきたが、寅子といると蓋した気持ちが開いてしまうというようなことを言います。自分の素直な恋心らしきものを伝え、でも、お互い生真面目でいましょうと一旦引くのです。ここをぐいぐいいくと、寅子は逆上するのでしょうけれど、寅子の気持ちをまるごと受け止める術を航一は知っています。

ところが、帰りの廊下で寅子が滑り、航一に手を貸してもらったことをきっかけに、チャンス到来。
お互いの気持ちがあふれてしまいます。本庁、雨が降ると床が滑るのだそうです。そんなことあります???

恋は二の次三の次だった寅子は、その生真面目な性格から、駄目よ駄目よと頭では抗うのに、航一に胸を高鳴らせてしまう、強烈なこれの実体をわからず、困惑していました。それが恋! (おれにはわかる)

「なんで、私の気持ちはなりたい私とどんどんかけ離れていってしまうんでしょうか」と悩みを吐露すると、航一は寅子の手を強く握って「お互いにずっと彼ら(亡くなった妻や夫)を愛し続けていい」と言います。


永遠の愛を誓う必要なんてないんです。なりたい自分とかけ離れた不真面目でだらしのない愛だとしても僕は佐田さんと線からはみ出て、蓋を外して、溝を埋めたい

(航一)

「気を揉ませたため心配をかけた」というような翻訳文といい「線からはみだし蓋を外して溝を埋める」という言葉といい、「私はいまも優三さんを愛している。これからもずっと愛し続けたい。だから彼以外に誰かを愛したりしてはだめなんです」といい、似たような言葉をいくつも使用することで、あふれる強い思いを表現しています。決して洗練されたとはいえず、そのうえ、法律家の主人公と相手役の高い知性と理性をもった設定とはかけ離れています。ただし、それが不思議なマリアージュをするのです。

寅子は航一の、永遠を誓わない、不真面目でだらしのない愛を「私達の欲する最適なものかと」とそこは堅苦しい言葉でまとめます。

ぎこちなく口づけを交わすふたり。雨で滑る床を滑りながら帰るふたり。
人間はいくつになっても、みっともないものなのです。実のところ、これっぽちのことは決してだらしなくないと思うのですが、ふたりは真面目すぎて、こんなことすらだらしないと自分たちを律してしまうのでしょう。

この場面を見ながら、現実社会で、エリートの人たちが、みっともない恋の現場を週刊誌に撮られたりすることを思い出します。高学歴で立派な肩書をもったいい大人が、すごく忙しい業務の合間を縫ってドロドロの不倫をしたり、不正を働いたり。そんなことが日常茶飯事です。頭がいいのに、なぜ倫理を外れてしまうのか。むしろ、頭がいいから余計に欲望が大きくて、羽目をはずしてしまうのか。人類の永遠の謎です。

「長崎を最後の被爆地に」と願う長崎平和祈念式典の日に、なかなか皮肉めいた、深いエピソードでした。

(文:木俣冬)

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