続・朝ドライフ

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2024年08月30日

「虎に翼」家族のようなものをお休み「そんなむちゃくちゃな」<第110回>

「虎に翼」家族のようなものをお休み「そんなむちゃくちゃな」<第110回>


「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら

2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第110回を紐解いていく。

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麻雀勝負の果て

のどか(尾碕真花)との麻雀勝負で優未(毎田暖乃)にいつものぎゅるぎゅる(プレッシャーでお腹が痛くなる)が出てしまい、勝負は中断。
そこでのどかは本音を吐き出します。

私の家はにぎやかで明るい家族でなく、干渉しあわず、航一(岡田将生)はニコニコしない等々であったのに、寅子(伊藤沙莉)と再婚(事実婚だけど)してからすっかり変わってしまったことを嘆きます。

この感情、たぶん、複雑で、静かで干渉し合わない空気や、無口で不器用な父に我慢しているうちに、それが当たり前になって、それが居心地よくもなっていたのに、いきなり登場した寅子たちによって父が変わり、家の空気も変わってしまったことが耐え難かったのでしょう。我慢もあるけど、一風変わった家庭というのも芸術を愛するのどかには悪いものではなかったのでは。ホームドラマのようなにぎやかで明るい家なんて平凡だと思ったのでは。しらんけど。

のどかに続いて、朋一(井上祐貴)も航一と寅子と優未に嫉妬をしたと率直に訴えました。
でも、彼はのどかよりも寅子にすでに親近感を抱くようになっていたようで、亡き母の
願いが叶ったのではないかと考えていました。

お父さんを甘えさせてあげたかった、と亡き妻は言っていたと聞いた航一は泣きそうになります。

航一は戦争の傷を抱えてしまったことで、家族と距離をとり、明るい家庭を築けなくなってしまった。もし甘えてしまったら、自分が壊れてしまっていたと告白します。

これまで長い年月、抱えていたことをようやく語った航一。戦争が終わった傷をずっと抱え、解決していない人もいるのです。

百合(余貴美子)は百合で、前の夫との間に子供ができなくてひどいことを言われたけれど、再婚して血はつながっていなくても息子と孫ができたことが嬉しかったと言います。

のどかが、寅子と優未といるほうが嬉しそうだとツッコむと、褒めてくれるからうれしいと言うのです。確かに、ふたりは着物や食事をやたらと褒めていました。
褒められたくてやっているわけではないが、褒められたらやっぱり嬉しい。「のどかさんと一緒で、私も自分を見てほしいのよ」と。誰もが求めることであります。

寅子は皆の切実な渇望を聞いて、自分がいかに両親に子供でいさせてもらえたかを実感します。確かに、寅子はのびのびと言いたいことを言ってやりたいことをやりたいようにやらせてもらっていました。
だから、時々は子供あつかいさせてもらえないかな、と申し出ます。

そして、すこしだけ家族のようなものをお休みしませんか、と提案します。

百合の「そんなむちゃくちゃな」という戸惑いには筆者は大いに同意。
正直、もうめちゃくちゃなんですよ。言いたいことはわかるしいいことも言ってるのだけれど整理されずに一気に吐き出したものを力技でぐいぐいまとめている。理解できる人もいるけれど、追いついていけない人もいる。スパルタ進学塾、あるいはものすごく痛いけどよく効くマッサージ店みたいな感じなのです。

でも、この回の狙いは、ずばり1点です。
他者のやりたいことをやらせてあげること。
星家の問題が「中学生日記」(古っ)のように、各々の意見を語り合うことで解決したあと寅子は職場で、秋山(渡邉美穂)に「秋山さんがやりたいことを選択して進んでいくこと」、そのために尽力すると伝えます。

出産して休みを十分にとったあと、戻ってきていいし戻ってこなくてもいいし、気を変えて進路を変えてもいいと寛大なことを言います。

「あのとき自分がしてほしかったことをしているだけ。つまり自分のためにやってるだけよ」
ここ感動ポイントです。
あのときとは、穂高(小林薫)がいったん子育てに専念したらと提案したときです。ほんとうにそれが寅子にはずっとしこりになった。この回で、子供あつかいさせてもらっていたというので、おそらくあれが、最初に子供あつかいされなかったのでしょう。そしてそれが桂場(松山ケンイチ)いわく「時期尚早」だった。
何度も、穂高の話が出てきたのは、このためです。ここさえ抑えておけば、この第110回は攻略できます。余計な枝葉にこだわらず、1点集中が鍵です。

これまでなんでも自由にできたのに、それをさせてもらえなかった。君はどうしたい?と
寅子の気持ちに傾聴し、こんがらがっている気持ちを整理して、最適な方向に導いてもらなかったことに、絶望した寅子は、未来ある若者たちには同じ絶望を味わせないように、
自論を押し付けず、寄り添いたいと思っているのでしょう。こんな上司がいたらありがたいですね。

こうして星家はみんなで家事分担し、和気あいあい。百合は、働き自分が自由にできるお金を持ちたいと考えはじめて……。専業主婦からの脱皮ですね。

来週は原爆裁判。その前に航一の癒えない戦争の傷を描いてあることが構成の妙であります。褒めました。


(文:木俣冬)

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