続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年09月06日

「虎に翼」政治の貧困を嘆く判決文は、実際に裁判で読まれたものだった<第115回>

「虎に翼」政治の貧困を嘆く判決文は、実際に裁判で読まれたものだった<第115回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第115回を紐解いていく。

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笹山のおじさんの近況も悲しい

今日も更年期と痴呆症と原爆裁判。
こんなにいろいろ盛り込んで、と渋滞で受け止めきれないと思う視聴者もいるでしょう。でもよくよく考えてみたら、どんなことも個々のつらさや悲しみであり、これ、すべて平等、ということであり、深いです。

1963年(昭和38年)、判事補の漆間(井上拓哉)が判決文を書き上げました。原告に賠償請求する権利は法的に不可能と汐見(平埜生成)が言いますが、寅子(伊藤沙莉)は粘ります。判決文にもう少しだけ書き加えてはどうかと。

職場では頭が痛い問題が続き、家に帰れば、百合(余貴美子)の痴呆症が進行しています。
寅子は、なにげなく、更年期のために月経の苦しみから解放されることを喜ぶ自分がいると話しかけます。おそらく寅子は、自分自身もこれまでと身体の状態が変わってしまったことに戸惑いを覚えながら、前向きに考えていることを、百合とも共有したかったのではないでしょうか。

すると、ぼんやりバナナを貪っているように見えた百合でしたが、自身の心と体が動かない状態を自覚し、もどかしく思っているようで、夫のもとにいきたいと言い、「ごめんなさい」を繰り返します。前向きに捉える次元を超えて、心も体もコントロールできなくなったことが悲しくて悔しくて。百合はかつて美しく聡明であったので、このギャップは誰よりも自分が辛い。いつかこういう日が誰もにも訪れるかと思うと、心がちくりとなりました。メガネが汚れている感じもリアル。

「私ね 苦しいっていう声を知らんぷりしたりなかったことにする世の中にしたくないんです」
(寅子)

このセリフのように、寅子は、被爆者の声も、義母の声も、等しく聞いて考えたいと思っているのでしょう。
百合だけでなく、傍聴マニアの寿司屋の笹山(田中要次)も老いて歩けなくなっていることを寅子は道男(和田庵)から明かされます。笹寿司のおじさんは家族が面倒をみているのでしょうか。状況がわかりませんが、ここにもまた老いの苦しみがあります。
ようやく、あんこに、桂場(松山ケンイチ)のお墨付きを得た梅子(平岩紙)は、いっしょに和菓子と寿司の店をやらないかと道男を誘います。


そして、判決の日。判決主文をあとにまわし、判決理由を先に読み上げるという異例のやり方を行いました。なので、竹中(高橋努)などは驚きます。

原爆投下は国際法からみて違法な戦闘行為であったことを述べながらも、損害賠償は請求できないという
内容でした。
記者はそこですぐに出ていこうとしますが、汐見の声が引き止めるかのようにいっそう強くなり、記者たちは席に戻ります。

ここから4分間にわたる判決理由の文書を汐見が読み上げます。

「国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により国民の多くの人々を死に導き傷害を負わせ不安な生活に追い込んだのである」からはじまって、締めはこちら↓


「我々は本訴訟を見るにつけ政治の貧困を嘆かずにはいられないのである」
(判決文)

なかなかシビアーなことを国家に突きつけています。
いまは司法の世界では解決できないけれど、立法と行政ーー国会と内閣が考えるべきところであるのではないかと一石を投じようとしたことが伝わってきます。

結果的には国側の勝訴で、訴訟費用は原告側の負担。やりきれません。

これは、原爆投下に関することではありますが、令和現在の国家と国民のことにも思えてしまうのです。


原爆裁判の判決文は日本反核法律家協会のホームページに裁判記録とともに掲載されています。

(文:木俣冬)

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