「虎に翼」甘味と寿司の店・笹竹に集う法曹エリートたち<第117回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第*回を紐解いていく。
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尊属殺人に安保闘争
冒頭、暗がりで女性のすすり泣く声が聞こえます。新聞記事によれば、この女性・斧ヶ岳美位子(石橋菜津美)が父親を殺した状況のようです。
その弁護の依頼がよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)のところに来ました。
なかなかヘヴィな事件です。
1968年(昭和44年)、桂場(松山ケンイチ)が最高裁長官に上り詰めました。
その就任祝いと多岐川(滝藤賢一)の快気祝いを兼ね、寅子(伊藤沙莉)と久藤(沢村一樹)はできたばかりの寿司と和菓子の店・笹竹に集います。
老いと病による衰えをみごとに演じる滝藤賢一さん、
大出世したのにむすっとしている表情を絵に描きやすい顔で演じる松山さん(顔には染みメイク)。
このドラマーーとくに台本から読み取ると松山さんが最も読み取って演じていると思います。
滝藤さんは台本が求めているものを超えて、人間のリアルを追及しようとしている。これが余貴美子さんにも通じるものがあります。
いろいろな演じ方があり、ふたりとも優秀な表現者であることがわかる場面です。
法曹エリートが、寿司と団子の庶民的なお店に集まって、ほかの客たちとかなり近いところで団子を頬張っている。 60代くらいの人たちで貫禄もある人たちだったら、個室に集まりそうですが、そうはしない。これすなわち平等?
昭和40年代の定年は55歳と思っていましたが、それは一般職。公務員は64歳。
たぶん60代の航一(岡田将生)は最高裁調査官室の中枢として調査報告を最高裁判事に行う業務を担当していました。
岡田将生さんはたぶん、年齢不詳キャラを演じているようです。
汐見(平埜生成)はメガネをかけて老けた感じを出しています。
航一の息子・朋一(井上祐貴)も長崎から戻ってきて最高裁で働いています。
キラキラのエリート集団、華麗なる一族的でありますが、あんまりそうは見えません。
その頃、学生紛争が盛んになっていて、東大生が安田講堂を占拠しました。この時代、学生が社会改革を目指して戦っていたのです。令和のいまでは考えられないことであります。
たぶんNHKの貴重なアーカイブ・ニュース映像が流れ、そこだけものすごく生々しい。
星家では、学生紛争の映像を見ながら、このなかに未成年の子もいる、というセリフがはさまれます。
寅子が家庭裁判所で未成年の事件を扱っているからこその視点です。
寅子は、よねに呼ばれて、事務所に出向くと、汐見と香淑(ハ・ヨンス)がいて、娘の薫が安田講堂事件に関わっていて逮捕され、その事件を香淑が受け持ちたいと揉めていました。
香淑はコツコツと学んで、司法修習を終えていたのです。
たとえば、岡田惠和さんや宮藤官九郎さんの脚本だったら、この揉めて平行線のところをおもしろおかしく書くことに尺をとるでしょう。が、吉田恵里香さんは「揉めています」「平行線で」という説明で終えて話を進めてしまいます。描きたい出来事がたくさんあるのでしょう。
そこに新顔がいます。あとで彼女は「私 実は父親殺しちゃって」とドキリとなることを明かします。
冒頭の殺人事件の容疑者・美位子で、尊属殺人の罪で起訴され保釈中の身でした。
「尊属殺人の依頼を受けたということは」とは尊属殺人の弁護の依頼ってことです。
尊属殺人とは、親を殺すことで、罪が重いのです。これは「虎に翼」の前半で一度やっていました。
寅子の上司・穂高(小林薫)は第68回で、尊属殺人の重罰規定を違憲と主張しました。年下の者が年上の者(子供から見て祖父母、父母、叔父叔母)を殺す尊属殺に関して、刑が重いのは平等の法律に反するのではないかと問われていたのです。昭和25年(1950年)のことです。
第70回で、尊属殺について「20年後、世間を騒がすことになります」とナレーション(尾野真千子)で言われていました。その20年後がやってきたのです。
結局、穂高の意見は認められず、合憲となったのですが、このとき、寅子が「判例は残る」「おかしいとあげた声は決して消えない」と言っているのです。
第116回でも同じ言葉を航一が言っていました。第68回で航一が悩む寅子に「うまくいかなくて腹が立っても意味はあります」と言っていて、たぶん、寅子の「判例は〜〜」のセリフは航一に言われたことから浮かんだものだと思われます。
寅子にとって航一はとても影響力をもたらしているのです。
(文:木俣冬)
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