「虎に翼」いつも心によねさん(土居志央梨)を<第124回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第124回を紐解いていく。
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気持ちがポカポカ
20年前、新潟にいた美佐江にそっくりの美雪(片岡凜・二役)は、大事な手帳をとった同級生の少年を駅の階段で突き落としたことで罪に問われていました。悪いことをしたと反省している美雪を、寅子(伊藤沙莉)は不処分とします。
でもその顔はなんだかすっきりしないように見えます。
美雪が美佐江に似ているからでしょうか。
美雪の泣き方は演技のようでした。20年前、美佐江もしれっとした顔で、仲間に犯罪を行わせていました。ふたりには何か共通するものがあるように感じます。
実際、調査すると、少年が美雪に意地悪をしたと認めたので、突き落としたのも無理はないようなのですが……。この調査結果などを音羽(円井わん)と話している部屋に花岡(岩田剛典)の妻の描いたチョコレートの絵が飾ってあり、そういえば、寅子も花岡を突き落としたようなものだったことを思い出しました。場合によっては寅子だって、罪に問われたかもしれません。でも、あのとき、寅子は花岡に怒っていたので、美雪の言い分も理解できるのかもしれません。ただ、美雪の場合、なにか邪念があるようにも見える。でも疑わしきは罰せずじゃないですが、美雪の心の内を知ることは難しい。ひじょうに哲学的な問題であります。
音羽は少年法改正について寅子に反論したことを出過ぎた物言いだったと反省しますが、寅子は「すべて正しくなければ声をあげてはいけないの?」と返します。なんでも思ったことは言ってみたほうがいいということです。寅子はそうやって生きてきました。第一、正しさとは誰が決めるのか、そこに法律があるのでしょうけれど、法律も完璧ではありません。
少年法の対象年齢の引き下げは正しいのかそうではないのか。
尊属殺もそうです。美位子(石橋菜津美)の問題はなかなか解決しません。でも轟(戸塚純貴)、時間がかかっているということは可能性もあるのではないかと前向きです。
美位子は、このまま、ふたりの事務所に居候できればいいと考えていましたが、よねは、彼女が事務所に訪れる不幸な案件を聞いて、心を慰めていることを指摘、そういうことはしてはいけないと諭します。
ふだん、人を殺したとは思えないけろっとした態度をとっているのは、そうせざるを得ないからだとよねはわかっていました。そうしないとあまりに苦しいのは、自分が若いとき、男性から酷い目にあったことがあるからです。なんでもなさそうに振る舞い続けないと保っていけない苦しさを誰よりもよねはわかっていました。でもよねは人を殺めることなく、黙々とひとりで生きてきました。
涼子(桜井ユキ)が司法試験に合格しますが、弁護士にはならないと言います。
弁護士になれなかったのではなくなれるけれどならないという選択の自由を手にすることが「世の中への私なりの股間の蹴り上げかた」だと言うのです。
なれなくてかわいそうと憐れまれるのではなく、なれたけどならないという意地。
「いつも心によねさんを住まわせてきましたのよ」と涼子の言う意味は、よねが、男装を続けることで司法試験に受からなかったことを言っているのでしょうか。よねはたぶん、女性の服と言葉遣いにして口頭試験を受けたら受かっていたのではないか。でも自分のままで試験に受かるまで粘った。すべて、自分の道は自分でコントールする。自分で責任を持つのは大変だけれど、かっこいい。
ちなみに、よねはかつて小橋(名村辰)が失礼な態度をとったとき「股間を蹴り上げ」ています。よねは小橋、寅子は花岡と、自分たちを軽視した男子に歯向かってきました。それと、意地悪された同級生を突き落とす美雪の心情が重ならないこともありません。
でもよねは、寅子や女子部の仲間たちがいます。仲良くしているのを見ると「心がポカポカする」と轟は喜びます。
目には目を、歯には歯を? という哲学的なことを考えさせられていると、今度は朋一(井上祐貴)が裁判官を辞めて弁護士になるとか離婚するとか人生の転機を迎えます。来週最終回とは思えない、問題だらけです。
毎日朝ドラレビューをはじめて9年半ですが、こんなに各回をまとめづらいドラマははじめて。簡単にはまとめられない密度と複雑さのあるドラマを作る気概を感じます。
(文:木俣冬)
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