続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年09月23日

「虎に翼」最終週、尊属殺の大法廷、よね(土居志央梨)が主人公のよう<第126回>

「虎に翼」最終週、尊属殺の大法廷、よね(土居志央梨)が主人公のよう<第126回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第126回を紐解いていく。

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道徳とはなにか

「虎に翼」もいよいよ最終週。毎週、女性にまつわるネガティブなことわざがサブタイトルになっていましたが、最終週は「虎に翼」(演出:梛川善郎)。この意味は、最終回を迎えたとき、あらためて考えてみることにして、先に進みましょう。

美雪(片岡凜)の母だった美佐江の残した手帳の手記を寅子(伊藤沙莉)は読み、思春期の美佐江の葛藤や絶望に、あのとき、彼女を恐れ警戒せず、もっと寄り添っていればと後悔します。
祖母の佐江子(辻沢杏子)は、再び補導された美雪が、母と同じ道をたどらないように寅子に頼ります。

ここでは美佐江の文章の才能に注目です。
「あの人を拒まなければ何か変わったの?」と書いたのを、寅子は即座に自分と考えます。でも、「あの人」とははたしてほんとうに寅子のことでしょうか。

読んだ人、それぞれがこれは私かも?とか、あの人かも?と想像を膨らますことができる書き方。この抽象性、これぞ文学的であります。その不思議な魔力によって誰もが自分のこと(あるいは自分が特別)かもと思ってしまう、この技を使って、過去、美佐江は仲間たちに犯罪を行わせていました。ミサンガを特別の証として皆の腕に結びながら。
死してなお美佐江は、寅子をまんまと罠にハメているとも言えるのです。

そして、このドラマもまた、ある種のテクニックを使って、当初から、寅子は私だ、これは私のことを書いた物語だ、と多くの視聴者に思わせることに成功しています。

他者に、自分を支配されることなく、自分の意思を大切にすることを主張する物語の一方で、他者の支配がじわじわと押し寄せてくる、そこに気づくことこそ、このドラマの意義であると思うのですが、皆さん、いかがでしょうか。

美雪と美佐江の問題に頭を悩まし、家で晩酌をしていると、航一(岡田将生)が「ちちんぷいぷい」と
以前、寅子が航一を励ましたように、無理をして、おまじないをかけます。アラ還の男性(しかも明治生まれの)がこんな幼稚なことをするのか、岡田将生さんも辛かったのではないでしょうか。お気の毒でなりません。が、令和のいま、考えると60歳くらいの人たちもずいぶんと見た目も言動も若いので、絶対やらないとは言い切れません。例えば、郷ひろみさんのような無邪気な68歳もいらっしゃいますし。

と、そこへ、朋一(井上祐貴)がやって来て、離婚して、法曹界もやめて、家具職人になると言い出します。はて? でありますが、自分のほんとうにやりたかったことをやろうと思ったのでしょう。大学院を辞めて、雀荘でバイトする優未と同じようなものでありましょう。

星&佐田家はよくわからない感じになっているなか、山田轟弁護士事務所のよね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)はブレない。人権派弁護士として粛々と働き続けています。
尊属殺人の裁判が最高裁大法廷で行われることになり、よねが口頭弁論を行います。

ときに1972年、5月。
よねは尊属殺は違憲と訴えます。穂高(小林薫)が昭和25年(1950年)に違憲を訴えたとき、道徳原理を根拠にしたことを引き継ぎます。
被告・美位子(石橋菜津美)が義父から被った酷い行為を畜生道に堕ちたと言い、もしも、義父を守り、美位子の行為を重罪にするなら、この社会と我々も畜生道以下、クソだと。
「無力な憲法を、無力な司法を、無力なこの社会を嘆かざるを得ない」
(よね)

よねの弁論の中身は、一部、実際の事件のものを使いながら、よねらしい部分を加えているようで(クソとか)、これがこれまでの、共亜事件、原爆裁判のように、実際の事件の判決文そのままのときとは違います。
「嘆かざるを得ない」は原爆裁判の「政治の貧困さを嘆かずにはおられない」と似ています。これは実際の弁論でも言われているようです。いつでも、誰かが、法廷で現状の社会を嘆いているのです。

傍から見たら、義父の行為が酷すぎて、尊属殺は合憲と主張し続けることには無理があるように思いますが、法律で決められたことだから、と頑として考えを変えないのかと思うと、法律ってなんだ?と疑問が沸くばかり。嘆かざるをえなくなるのも無理はありません。もちろん法律のおかげで守られていることもあるのでしょうけれど……。最終週で、改めて法律とは何かを考えさせられます。

(文:木俣冬)

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