「虎に翼」寅子、美雪にナイフを突きつけられる。刃物の危機2度目。<第127回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第127回を紐解いていく。
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特別かありきたりか
「先生はどうしてだと思います? どうして人を殺しちゃいけないのか」寅子(伊藤沙莉)は補導された美雪(片岡凜)と面接します。ここで美雪は寅子にこう問いかけました。まるで、20年前の美佐江(片岡凜)と同じです。
第92回で、美佐江は「佐田先生は心から納得する答えが出せます? どうして悪い人からものを盗んじゃいけないのか。どうして自分の体を好きに使ってはいけないのか。どうして……人を殺しちゃいけないのか」と聞き、寅子はそれに答えることができませんでした。
法律家である寅子に、鮮やかに論理的に回答してほしかったという思いが残っていましたが、今度こそ、寅子は回答できるのでしょうかーー。
寅子は言葉を尽くして、長いこと考えてきたことを美雪に語ります。いやあ、人を殺してはいけないに決まっていると当然思いますが。だったら、なぜ、戦争はなくならないのか、みたいな話につながる、なかなか、難しい問題です。
寅子が、人を殺してはいけない理由は、亡くなったら言葉も交わせないし触れ合えない。あと、「わからないこそやらない」。
まるで、子どもにお母さんが答えているみたいな答えで、案の定、美雪は「そんな乱暴な答えで母は納得しますかね」と薄ら笑い。そして、持っていたナイフを取り出します。
緊迫の瞬間!
美佐江をはじめとして異質な子は手に負えなかっただけではないかと問い詰める美雪に、「美佐江さんはとても頭は良かったけれど、どこにでもいる女の子だったと思う」という寅子。これは、よね(土居志央梨)が、自分の過去の悲劇や、尊属殺に追い込まれた美位子(石橋菜津美)の悲劇を「ありふれた悲劇」と言ったこととも似ているように感じます。
さすがに美位子の事件はありふれてないだろうというツッコミの声もありますが、ここではつまり、なにごとも特別視せず、フラットに考えることが大事なのではないかと提案しているのではないでしょうか。特別、特異、異質みたいにバイアスをかけて人も出来事も見ないことが、平等の第一歩なのかなとこの場面を見て思いました。
誰もが特別で、一部の誰かだけが特別じゃない。
「特別」ということに美佐江がこだわって、東京に来て特別じゃなくなったことで絶望しました。彼女の執念が娘美雪に伝搬して、特別な存在にならなくてはいけないと思って犯罪に走ってしまったらしき美雪。
ありきたりなことを拒絶する美雪に、ありきたりでもいいのだと寅子は言います。
特別でもありきたりでも、ひとりひとりを尊重しようとするのです。
寅子は、怯みながらも、最後まで美雪に向き合います。ここで怯んだら、かつての美佐江と同じことになると思ったのではないでしょうか。寅子は第73回で、担当していた女性から刃物で切りつけられたことがあります。一回、こわいめにあっているから、よけいに怖がってしまいそうなところ、必死で耐える寅子は立派です。
美佐江の本音が聞けないのは、美佐江が死んでしまったから。死んだら終りだということ。人を殺してはいけない回答の、これが寅子の決定打になります。
美雪はしばらく施設に入ったのち、不処分となります。20年かけた寅子の課題がひとつ解決したようです。いや、ほんとうに、美雪の心から悪意がなくなったかはちょっとわからないですが……。
たくさんの中学生の問題を「3年B組金八先生」で書き続けた小山内美江子さんだったら、こういう題材をどう描いたでしょうか。
音羽(円井わん)とこの件や家裁の今後について意見を交わしあった寅子は「その後の世代のことは、音羽さん達が決めればいいわ」と託します。音羽さんたちが決めればいいわもなんだか無責任な気もしないではありません。最終週、なかなかまとめるのに苦慮しているような気が……。
そして、昭和48年8月、最高裁大法廷における尊属殺の判決の日がやってきます。ひとり深刻を引き受け続ける桂場(松山ケンイチ)の表情の迫真。
(文:木俣冬)
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