続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年09月27日

「虎に翼」ついに老けた航一さん、彼はなぜ若見えし続けたのか<最終回>

「虎に翼」ついに老けた航一さん、彼はなぜ若見えし続けたのか<最終回>


「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら

2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、最終回を紐解いていく。

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寅子のいない世界

前回、笹竹で桂場(松山ケンイチ)が額に桜の花びらをつけながら、むすっとした顔で、女性が法に携わるのも学ぶのもよしとしていないと自論を語ったところで続くになって、最終回。時間が飛んで、平成11年(1999年)の星家。男女共同参画社会基本法が施工された年です。

なんだか様子が違います。優未(川床明日香)は独身のまま、自宅で着付けと茶道教室をやりながら、雀荘と寄生虫の雑誌の編集と花江(森田望智)とひ孫の面倒を見ています。雀荘とは雀荘でも働いているってことでしょうか。

花江はもうだいぶ年をとって(たぶん85歳)、介護寸前でしょうか。軽く描いてますが、お年寄りと幼児の世話って大変そう。自宅でできるお仕事を持ててよかった。編集者もフリーということでしょう。平成11年だと、これほど自宅ですべてを賄えることは難しかったような気もします。コロナ以降かなと。副業をたくさん持つとか小商い的な概念もコロナ以降、定着しました。優未は時代の先をいっていたのかもしれません。

神田の聖橋を歩いていると、美雪(片岡凜)がケータイで、突然解雇されたと愚痴の電話をしています。それを通りがかりに耳にした優未は、労働基準法を引いて、弁護士を紹介します。
電車の窓に貼ってある過払い金のCMのよう。
急に出会った人から「法律はあなたの味方です」なんて言われてもこわすぎますが、苗字が「佐田」だったので、美雪は信頼したのかも? でもこの件で優未は自分にすこし自信を持てるのです。

寅子(伊藤沙莉)はすでに亡くなって15年が経っていて、幽霊的なものが優未を心配してまとわりついています。
冒頭、元気に体操しているとき、頭で「連続テレビ小説」の文字がはじかれているのが面白かった。

航一(岡田将生)はついに年齢相応に老けていて(80代ですから)、自らの意思で施設に入るようです。優未は花江の世話だけでなく航一の世話もしていたのでしょう。やっぱり大変。でも全部好きなことなのかもしれません。

ここで、航一がいっこうに老けなかった理由は、寅子の主観ではそう見えていたのではないかと思いました。吉田恵里香さんにインタビューしたとき、キャラクターの名前のつけかたを聞いたのですが、フルネームを必ずつけることはなく、主人公視点で考えて、例えば「優三さん」「ヒャンちゃん」みたいに主人公がどう呼ぶかで名前をつけることがあるとおっしゃっていました。もしかしたら、見え方も主人公主観なんじゃないかと思ったのです。自分自身も、いつまでも若く考えていて、見た目があまり変わらなかったのではないかと。桂場がしっかり老けているのは、寅子にとって彼はそういう人だったということなのではないでしょうか。ただこれは脚本で指定しているわけではなく、演出家の考える範疇かと想像します。台本からそういうふうに解釈したのではないでしょうか。

寅子のモデル・三淵嘉子さんは60歳で亡くなっていて、つまり、第129回で寅子は57歳くらいだったので、まもなく亡くなったということです。生きた、愛した、戦ったという生涯であったのでしょう。

寅子が横浜の家庭裁判所の所長になって奮闘するエピソードも見たかった。法律の話は、漠然とした概念ばかりで、実務的なことがほぼ描かれていなかったのが残念。
三淵さんは、家裁に入ったとき、出張相談回をやったり、バザーをやったり、家裁の調停室のカーテンや壁をきれいにしたり、廊下に音楽をかけたりしたと、「偉人の年収How much」でやっていましたし、ドラマの取材を担当した清永聡さんにインタビューしたとき、街で被爆者のための募金活動に参加していたと話してくれました。寅子にもなにかいろいろ活動してほしかった。

遡って、あの日、笹竹で桂場に、寅子は、他人から強いられるのはいやだが、自分の意思で、雨だれになることを選択するのはいやではないと語っています。さすが弁が立ちます。129回で、法律を船に例えたときも、考えは変るかもしれないがいまはそう考えていると言っていました。なにごとも臨機応変、その場その場で詭弁を弄して生き抜いていく主人公の姿があります。正しくなくても間違っていてもいいという物語なので、これはこれで痛快です。法律は守ってくれると言いつつも、その反面、ひじょうに脆くて危うく、人間を守るどころか縛り苦しめることになるんじゃないかと、法律に携わる人は決して正しいわけじゃないと、ちょうど、昨日、58年もの長きにわたって議論された袴田事件で被告の袴田さんに無罪判決が出たニュースを見ながら、思いました。でも、58年かけて真実にたどりついたのですから、諦めたものでもないのでしょう。

ドラマのラストは、米津玄師の主題歌が流れ、なつかしい名場面が映し出され、
最後は寅子が「さよーならまたいつか!」と口パクで、どこへともなく去っていきます。100年先に、人々が自由平等でありますように。


(文:木俣冬)

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