映画ビジネスコラム

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2023年12月11日

日本映画の未来に『ゴジラ-1.0』の海外ヒットが極めて重要な理由

日本映画の未来に『ゴジラ-1.0』の海外ヒットが極めて重要な理由

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山崎貴監督の『ゴジラ‐1.0』が全米で大ヒットを記録しています。

週末3日間(12月1日~3日)のオープニング興行収入(先行上映含む)で約1,100万ドル(約16億円)を記録し、全米ボックスオフィスランキングで初登場3位にランクイン。日本の実写映画としては最高の成績を記録し、2023年の全米における非英語作品として最高の成績を収めています。

興行成績のみならずメディアや一般観客からの評価も非常に高く、まだまだ成績を伸ばせるポテンシャルがありそうです。

この大ヒットはゴジラシリーズだけでなく、今後の日本映画全体にとって大きな一歩となる可能性を秘めています。なぜなら、これからの日本映画は必ずグローバル市場が必要となるからです。

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【関連記事】<『ゴジラ-1.0』興行収入>『シン・ゴジラ』越えのスタートで今後はどうなる?

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日本映画の悪循環

『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

日本の実写映画は、これまで主に国内映画市場を中心に展開していました。

日本の会社が複数集まって共同出資し(製作委員会システム)、国内の映画館で公開し、テレビ放送や配信・パッケージ展開し、予算を回収していくというサイクルでやってきました。

このやり方の場合、国内での売上見込み以上の製作費はかけられません。「この企画はこれぐらいの市場規模でこれくらいの利益だから、製作費はこれぐらいだね」と計算するわけです。

結果として、低予算の映画が多く制作現場への負担が重くなり、低賃金・長時間労働が常態化。その結果、人材が減っていき、優秀な人材が減れば作品の質が保ちにくくなります。そうすると国内でも売れにくくなるので、ますます製作費が下がる、製作費が下がるとますます面白い作品が作りにくくなる、という悪循環になってしまっていました。

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

日本映画業界の労働問題は放置され続けてきましたが、ここ数年でその問題を改善しようという動きがでてきました。今年から「映適」(日本映画制作適正化機構)が発足し、一日の労働時間は最大13時間、週一日の撮休を設けるなど、(まだまだ不十分ですが)日本映画の労働環境をよくするための取り組みが始まっています。

これは、制作現場サイドから上記のような悪循環を断ち切ろうという動きといえます。労働環境を是正して力を発揮できるようにしていき、若い世代に向けてもアピールして人材不足の解消へとつなげる、そして、より質の高い作品を作れるようにしていくということです。

製作費が上がればリクープのハードルも高くなる

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

しかし労働環境を是正していくためには、これまでよりも多くの製作費が必要になります。長時間労働の制限によりスケジュールは伸びるので、その分製作費も上がります。

東映の和田耕一専務取締役は決算説明会で、映適に対応することで「製作費、制作期間ともに従来の120%から130%になると予想している。良質な作品を制作するには、優秀な人材が集まる環境整備が必須」と見解を述べています。

参考:東映、オンラインで第2四半期決算説明会開催 

映適に対応するだけで製作費が1.3倍になるということは、映画の予算改修ラインも1.3倍ハードルが高くなるということです。優秀な人材確保のためには絶対に必要ですが、ただ予算が上がるだけでは赤字の作品が増えるだけなので、今までよりも多くの売上を作らないといけないわけです。

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

正直なところ映適の今の基準は他の業界ではまだ「過労死ライン」のため、今後さらに基準を厳しくする必要があるでしょうから、製作費はもっと上がっていきます。

単純にその状態になってくると映画を作っても赤字になるだけなので、製作本数自体が減ってしまうかもしれません。製作本数が減れば活躍できるスタッフも減るので、また悪循環が始まってしまいます。

製作費を上げるためにグローバル市場の開拓が絶対必要

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

日本は人口減少時代に突入しているため、国内の市場だけで今よりも売上を作ることはかなり厳しいでしょう。だからこそ、グローバル市場でも日本映画を売っていく必要があるのです。

グローバル市場でも一定の存在感を発揮できるようになれば、その分製作費を回収しやすくなります。今より大きな市場での公開が前提になれば予算も上げられるため、労働環境改善につながり、映像自体も豪華にしやすくなります。

『ゴジラ-1.0』はハリウッド映画に比べれば予算は低いですが、日本の実写映画としては高い部類に入るでしょう。おそらく国内市場だけを前提にしていてはかけられない予算ではないかと思います。

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

今回、アメリカで本作を配給したのは東宝の子会社「Toho International」が担っていて、最初から海外市場を前提に製作費を準備していたのではないかと思われます。

実際に、グローバル市場を前提にした作品作りを実践している会社は日本にもあります。

東映アニメーションはTIFFCOMの海外戦略に関するシンポジウムで、同社の売上の6割を海外で上げており、グローバル市場を前提にしているからアニメーション映画の製作費のかけ方が普通の実写映画とは異なると語っています。



例として挙げられたのは、2022年公開の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』です。本作は国内で25億円の興行収入でしたが製作費はそれ以上だそうで、グローバル市場で公開することを前提としていたようです。しかも、北米をはじめ世界中でヒットを記録したので、きちんとリクープできているようです。

参考:東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ

東映アニメーションはグローバル市場を開拓できたことで、製作費をアップさせ、クオリティを高めることでさらに競争力を増す「正のスパイラルが働いている」と語っています。

この「正のスパイラル」を実写映画でも回るようにしていく必要があるのです。上述したような、これまでの「悪のスパイラル」を止めて好循環を生み出すために、グローバル市場を開拓する必要があります。『ゴジラ-1.0』はその道を切り開く重要な一歩を刻んだのではないでしょうか。

 『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO., LTD.

怪獣特撮映画が一本ヒットしたらただちに他の日本映画の市場が開けるわけではありませんが、山崎監督や神木隆之介、浜辺美波などの名前を知る人は増えるでしょうし、日本映画全体への注目にも貢献するでしょう。

地道に市場を広げ、製作費を増やし、人件費も上げていくことで、業界全体を「持続可能」にしていく。そのための第一歩として『ゴジラ-1.0』の北米大ヒットは非常に重要なことなのです。

(文:杉本穂高)

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