「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第119回を紐解いていく。
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地元(故郷)に戻ろう 最終回まであと6回
「佳代さんのほんとうの気持ちを確かめたくて」
愛子(麻生久美子)は糸島を訊ね、佳代(宮崎美子)に訊ねます。
神戸で一緒に暮らす気はないのか、なぜ糸島がいいのか。根本的な質問。やっぱり生まれ故郷がいいのかと愛子は突っ込んで聞きます。前回、美佐江(キムラ緑子)もそこにすっきりしないものを感じさせる発言をしていました。
生まれ故郷がいい。そりゃそうじゃないかと思うのですが、それが違ったのです。佳代は、もちろん生まれ故郷にも愛着がありますが、それよりほかに理由がありました。それはーー
農業。
育てたことのない作物を育てたりすることが楽しいのだと佳代は言います。そうすることで発見や欲求がどんどん生まれ育っていくのだと。愛子はそこに感化されてしまいます。そんな愛子を「娘」と呼ぶ佳代。
「嫁」ではなく「娘」。
愛子は十代で家を飛び出しました。血縁を絶ってきて、一度も再会しないまま両親は亡くなった。そんな愛子に、義理の母でも、心をゆるせる母ができたのです。そして、実家が。
佳代にも聖人(北村有起哉)のほかに娘がふたりいるのですが、彼女たちとの関係はどうやらとても薄そうで、佳代はひとりで農業をやっています。80代にはなっていると思うのですが、お元気です。
佳代と愛子、嫁姑だけど、関係性が悪くなく、むしろすてきな関係を見ていて、語られない部分に思いをいたしてみました。愛子の両親はよっぽど酷い人たちだったのではないかという妄想です。「Mother」の芦田愛菜演じる少女の親のような。また、佳代の実娘は実家に寄り付かない冷たい娘なのではないか。「リア王」の長女と次女のような。でも、ドラマはそこには触れず、そっとしておく。そして、彼女たちの悲しみから逃れる選択だけを描く。もしそうだとしたら、世の中には、自分のことをことさら語りたくない人たちもいるということへの配慮を感じます。
とかく物語というのものは、語りたくない悲しみを中心にして描き、受け手が自分はこうでなくて良かったと思う構造になっていました。いまの物語はそうではなく、「自分ごと」がポイントです。悲劇を他人事にしない物語が作られています。なぜなら、災害や疫病が何度も何度も襲ってきて、外では戦争が起こっていて、悲劇を他人事になんて絶対にできないから。
悲劇の時代に私達は生きている。自分も悲しい目にあっていて、悲しさを他人に語りたくなかったら、佳代や愛子のような物語を好ましく感じるかもしれません。
佳代や愛子はそれでも、可能性を求めて生きていくのです。ふたりの気持ちがいまひとつわかっていなかった聖人も、孝雄(緒形直人)と久しぶりに会って、彼から「いまや世界中が俺の仕事場や」と聞き、気持ちが動きます。
孝雄は、東京で靴デザイナーになってはぶりがいいようで、沖縄、シンガポール、北海道と転々として楽しんでいました。職人は道具さえあったらどこでも仕事ができると言う孝雄の言葉に背中を押された聖人は決意します。
「故郷へ帰ろう」
聖人のやりたいことは、理容の仕事で、でも糸島に行ってもそれは可能です。もともと糸島がいやだったわけでなく、永吉(松平健)への反発だっただけ。だったら、糸島に戻るのも無問題なのです。地域コミュニティの責任者をやって最後のご奉公もできたと思いますし。
「故郷へ帰ろう」のセリフに、「あまちゃん」(13年度前期)の「地元に帰ろう」という歌が流れるような錯覚を覚えました。
感動の家族会議の舞台ーー米田家のダイニング。窓からの光が強めで、レースのカーテンがレフ板のようになって、真面目な話を延々している愛子と聖人の輪郭が少し飛んで、ふわっときれいに映っていました。どうしても味気なく見えてしまう米田家ダイニング風景をしっかり撮った、今週の演出・小野見知さんの画のこだわり。すばらしい。
(文:木俣冬)
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–{「おむすび」第24週あらすじ}–
「おむすび」第24週あらすじ
第24週「家族って何なん?」3 /17-3 /21
結が勤める病院に田原詩(うた)という名の栄養失調の少女が入院するが、一切食事を取ろうとせず結たちは困る。
詩は幼い頃両親を事故で亡くし児童養護施設で育ったらしく、歩の亡くなった親友・真紀にどことなく顔が似ていた。
そんな折、愛子から結と歩に相談があると言って3人で会ったところ、愛子は糸島に移住を希望していて、聖人に言いづらいと言う。結たちは聖人の機嫌がいい時に言えばいいと助言するが、聖人は聞き入れず、愛子は結局無断でお試し移住を始める。
–{「おむすび」作品情報}–
「おむすび」作品情報
放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始
出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。
【結の家族・米田家の人々】
米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。
米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。
米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。
【福岡・糸島の人々】
四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。
古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。
風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。
宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。
真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。
佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。
田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。
柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。
ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。
草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。
大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。
佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。
大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。
飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。
作
根本ノンジ
音楽
堤博明
主題歌
B’z「イルミネーション」
ロゴデザイン
大島慶一郎
語り
リリー・フランキー
制作統括
宇佐川隆史、真鍋 斎
プロデューサー
管原 浩