「おむすび」風見先輩とバリでかいスズメバチ【120回】

続・朝ドライフ

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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。

平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第120回を紐解いていく。

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「いまは耐え忍ぶ時期」 最終回まであと5回

「辛い気持ちはわかるけどいまは耐え忍ぶ時期だと僕は思うな」

書道系インフルエンサー風見(松本怜生)が動画で語っていました。そこで、耐え忍びたいことを書き出してみます。

詩(大島美優)の持っていたミラーを直した歩(仲里依紗)が「ママにあげといて」と花(新津ちさ)に渡します。「渡しといて」じゃないのかな。歩が結(橋本環奈)から預かったもので、あげるものではないと思うのですが……。それはスルーできても、そのあとです。

花は袋からミラーを出して、平然と開けると、なかに貼ってあるプリクラを見るのです。これには、全視聴者が驚いた! のではないでしょうか。これを見て、疑問に思わない人がいたら、余計なお世話ですが、日本の教育はだいぶ後退していると言わざるを得ないのでは。

花は、教育を受ける環境にない恵まれていない子どもではなく、曾祖父母、祖父母も、父母も、中流以上の家庭環境で、学校にも通っています。他人のものを勝手に袋から取り出して、外側だけ眺めるならまだしも、開けて中を見る。それが無礼であることを知らないなんて。宮崎莉里沙さんが演じていた花ちゃんだったら、そんなことしない気がします。新津ちささんは名演技で、デリカシーのない子を説得力をもって演じていました。

ほんとは歩がたしなめるべきと思いますが、歩もずけずけしたキャラだから期待できないですね。この場面を擁護するとしたら、花の行為の無神経さは誰もがわかることで、わかって描いているのだから硬いことを言うなでしょうか。何のためにわざわざ描くのか。ツッコミエンタメだから? この場面の間違い探しを楽しんでほしい? そういうのもあっていいけれど、わざわざ、よくないことを噛みしめたら心が荒んでいくばかり。きれいなこと、正しいことを見たいです。

ここで鏡をぱかっと開けるのは、花が詩のことを知っていて、彼女の事情を歩に話さないといけないからです。でもそこで花は、歌が好きだから歌手になればと言ったら(またこの短絡的な話だ)、住む場所も家族もお金もないから無理と詩は言っていたと答えるのです。歌手になるには、家、家族、お金は関係ない。歌のうまさが必要です。なぜこんなことをわざわざ言うのでしょう。ツッコむネタを視聴者に与えるよりも、ああ、いいものを見た、と感動をつぶやくことが、いやなニュースばかりのいまの社会には必要ではないでしょうか。

深呼吸を6秒。……耐え忍びます。社会には花みたいに他人のものを開けてみたり、悪気なく無神経な言動をする人もいます。そのとき、どうしたらいいのか、このドラマは問題提起をしているのです。やだなあと思っても門を立てないようにそのままにするか。やめたほうがいいと助言するか。SNS などで批判を書くか。世の中の価値観は多様だと引き出しにしまうか。無神経でもほかにいいところもあるからいいところだけ見てつきあっていくか。……さあ、どうする?

基本的に米田家の人はラフです。結は、風見先輩は書道系インフルエンサーになっているのを動画で見て驚きますが、そのあと、書道部の大竹部長(桑野颯太)が社長になって、はちみつ販売をしている動画はスルーします。興味のないものには徹底的に無視。ここは笑うところなので、目くじら立てることはないのですが。

歩が詩の見舞いに来て、キングオブギャルの服をプレゼントしたとき、詩が服をじっくり噛みしめる間もなく、結は自分の用件ーー食事を差し出す。このタイミングの速さに、弱肉強食の世界の厳しさを感じました。こんな過酷な世界で生きているのがほんとうに辛い。でも耐え忍ぶ時期と、風見先輩の言葉を噛みしめるしかありません。

いよいよ、ドラマもあと1週間(5回)なので、少しまとめます。これまでの朝ドラにも、総集編のようだ、とか、プロットをそのまま出しているようだ、とか、カードを使った脚本づくりのカードに書かれたワードが調理されずにそのままのようだ、というような作品がありました。

長くても1時間×10話くらいの連ドラ経験しかない脚本家が、1時間15分×25週分というかなり長いものに挑むのは難題です。どうしても、持て余してしまうのです。それをそう感じさせず、見事に描ききれる作家は限られた才能の持ち主です。

今回の場合、総集編でもプロットでもカードでもない、笑福亭鶴瓶さんの「スジナシ」的に感じます。「スジナシ」とは、設定だけ決めて、打ち合わせなしに、即興でノンストップの寸劇を行う企画です。相手役がおかしなリアクションをしても、うまく辻褄をあわせていく、そのスリリングさがおもしろいものです。このリアクションは理屈に合わないとか面白くないと思っても止めることはできない。好物でなくても、辛くても、しょっぱくても、甘すぎても、無味でも、冷たくても、熱くても、全部、受け入れて、飲み込んで、打ち返し、つなげていくことで、思いもよらないところに向かっていくおもしろさです。

火事場の馬鹿力という言葉のように、人は追い詰められると思いがけない生きる力やアイデアが沸いてくることがあります。「おむすび」とはまるで「スジナシ」のようで、登場人物が何を言い出すのか、どこに向かっているのか、わからない。とても実験的な物語のように感じます。一般人による、言動がむちゃくちゃなだけどおもしろいとたくさんの人が見てしまう動画のようなのです。こうであらねばいけないという固定観念から解き放たれている。それが「おむすび」です。これはいままでにない朝ドラです。あと5回にして、気づきました。この作家さんは、とてつもなくたくましい。決して、ひるまず、へこたれず、前へ前へと向かっていく人だと感じます。この生命力はいまの時代に必要かもしれません。

あれ、今日はどんな話でしたっけ? そうそう、詩がようやく食事をするようになり、退院し、児童養護施設に引き取られていきました。というところで、お時間も来たところで、書道なら〜。

(文:木俣冬)

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–{「おむすび」第24週あらすじ}–

「おむすび」第24週あらすじ

第24週「家族って何なん?」3 /17-3 /21


結が勤める病院に田原詩(うた)という名の栄養失調の少女が入院するが、一切食事を取ろうとせず結たちは困る。
詩は幼い頃両親を事故で亡くし児童養護施設で育ったらしく、歩の亡くなった親友・真紀にどことなく顔が似ていた。
そんな折、愛子から結と歩に相談があると言って3人で会ったところ、愛子は糸島に移住を希望していて、聖人に言いづらいと言う。結たちは聖人の機嫌がいい時に言えばいいと助言するが、聖人は聞き入れず、愛子は結局無断でお試し移住を始める。

–{「おむすび」作品情報}–

「おむすび」作品情報

放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始

出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。

【結の家族・米田家の人々】

米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。

米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。

米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。

【福岡・糸島の人々】

四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。

古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。

風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。

宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。

真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。

佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。

田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。

柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。

ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。

草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。

大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。

佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。

大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。

飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。


根本ノンジ

音楽
堤博明

主題歌
B’z「イルミネーション」

ロゴデザイン
大島慶一郎

語り
リリー・フランキー

制作統括

宇佐川隆史、真鍋 斎

プロデューサー
管原 浩

公式サイト

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