映画コラム

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2018年03月16日

『わが母の記』が醸し出す、先に逝った母への想い

『わが母の記』が醸し出す、先に逝った母への想い



(C)2012「わが母の記」製作委員会



2018年春のお彼岸は3月18日(日)から24日(土)までの一週間ですが、この時期になりますと、先に逝った人のことを改めて深く思い起こす気持ちになるものです。

ちょうど16日から公開されるディズニー&ピクサーのアニメーション映画最新作『リメンバー・ミー』も、死後の世界をモチーフに家族の絆や想いなどを綴った傑作として、強くお勧めしたいところです。

そして今回ご紹介する『わが母の記』もまた、昭和の文豪・井上靖が亡き母への想いを募った自伝的小説『わが母の記~花の下・月の光・雪の面~』を原作に、『駆込み女と駆出し男』や『関ケ原』などの名匠・原田眞人監督が映画化し、国内外で高く評価された名作です。

原作者自身をモデルとする
主人公とその母50年の物語



本作の主人公は、井上靖自身をモデルにした小説家・伊上洪作(役所広司)。

彼は子どものころ両親と離れて育てられたことから、母・八重(樹木希林)に捨てられたという想いを払拭できないまま生き続けています。

そしてこの映画は、父(三國連太郎)が死に、八重を引き取ることになった洪作が、そこで初めて「母」と「息子」として向き合わざるを得なくなっていくところから本格的なドラマが始まります。

一方、老いに伴って八重の記憶は徐々に失われていくのですが……。

本作はおよそ50年の時を経て「母」の想いと「子」の想い、また双方の絆の復権とその美しさを、卓抜とした映画的センスに裏打ちされた演出と、見事な演技陣によって醸し出していくヒューマン・ホームドラマです。

また母と息子のみならず、主人公の一族内の確執なども巧みに描かれており、特に主人公と妻(赤間麻里子)、そして娘たち(ミムラ、菊池亜希子、宮﨑あおい)、主人公と妹たち(キムラ緑子、南果歩)といったひとりの男と女たちの関係性によって昭和の家族の精神構造なども露になっていきます。



映画的センスあふれる演出と優れた演技陣
国の内外で高評価&クリーンヒット


『KAMIKAZE TAXI』をはじめ多数の原田監督作品に出演してきた、いわば原田映画の顔ともいえる存在の役所広司が、ここでは厳格さの中にも人間的弱さを垣間見せる昭和の父親を演じています。
(次女が見た映画が『処女の泉』と聞いて、ベルイマンの芸術的傑作映画とも知らず、その邦題だけで激昂するあたり、ケッサクです)

そしてなんといっても秀逸なのが樹木希林扮する母・八重で、薄れゆく記憶の中でも決してなくなることのない子に対する母の想いなどを見事に体現。

本作で彼女は日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞しています(優秀賞は11部門受賞)。

そのほかにも本作は第35回モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリ、毎日映画コンクール撮影賞(芦沢明子)、キネマ旬報ベストテン第6位と、国の内外で高い評価を得るとともに、興行収13億3000万円を計上するクリーン・ヒットとなりました。

原田眞人監督による
井上靖と小津安二郎へのオマージュ


これまで『天平の甍』や『敦煌』『おろしや国酔夢譚』など多数の小説が映画化されてきている井上靖ですが、本作は自伝的要素が強いこともあり、井上の生まれ育った静岡県伊豆市や沼津市にて地元の全面協力体制のもとロケ撮影が敢行されました。

また東京の井上邸でも撮影が行われ、実際に彼が日常の中で用いていたアイテムの数々もさりげなく映し出されています。

実は原田監督も沼津市出身で、幼いころから井上靖の作風などに共感し、その作品群の映画化を宿願としてきたのでした。

その一方で原田監督は本作を松竹で演出するにあたり、松竹映画の名匠にして世界に名だたる巨匠小津安二郎作品に対するオマージュを随所に盛り込んでいます。そのこともまた映画ファンを唸らせる大きなポイントにもなりえているように思われます。

なお、原田監督は本作との連動企画として、同じく井上小説を原作とするテレビドラマ『初秋』(中部日本放送&松竹提携)を、役所広司主演で発表しています。こちらも機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。

[2018年3月16日現在、配信中のサービス]
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(文:増當竜也)

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