1988年の映画『1999年の夏休み』が見通していた30年後の今=心の世紀末

(C)1988 日活/アニプレックス 

昨年、1988年に公開された伊藤智生監督の『ゴンドラ』がリバイバルされ、この夏も繰り返し上映されるほどの盛況を呈していますが、およそ30年前の1990年代前後の映画には今の映画とは異なる、もしくは今の時代に通じる“何か”があるのでしょうか?

折しも、7月28日から東京・新宿ケイズ・シネマほかにてリバイバルされる金子修介監督作品『1999年の夏休み』も、また1988年に公開された作品です。

30周年を記念してデジタルリマスター化されての今回の上映、やはり今の時代のニーズに応えた必然的なものでもあるのかなという気もしてなりません。

なぜなら……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街324》

ちょっとばかし、考察していきましょう!

4人の少女が少年を演じながら
展開される夏の寄宿舎の愛憎劇

映画『1999年の夏休み』は、異国の美しい少年たちが繰り広げる愛憎の世界を麗しく描いた萩尾望都の名作漫画『トーマの心臓』に金子修介監督がインスパイアされて企画された作品です。

実質的には『トーマの心臓』そのものを原作とした映画化ではなく「翻案」という形で萩尾氏の許諾を得て、時代設定も1999年という製作当時としては近未来、しかもノストラダムスの大予言に倣うと“世界が滅亡する年”の日本の夏休みに据えられています。

山と森に囲まれ、世間から隔絶された全寮制の学院で、夏休みになっても実家に帰ることなく、寄宿舎に残る3人の少年がいました。

自分を愛していた悠が、つい先頃、自ら命を絶ったことに自責の念を感じている和彦(大寶智子)。

そんな和彦に優しく接するリーダー格の直人(中野みゆき)。

一法、和彦の悠に対する想いへの嫉妬を隠しきれない、下級生の則夫(水原里絵=深津絵里)。

そんなある日、悠に瓜二つの薫(宮島依里)が転校生として寄宿舎にやってきました。

3人は薫に悠の面影を見て激しく動揺し、もしかして薫と悠は同一人物なのではないかと疑い、困惑し、心を錯綜させ、それぞれの関係性までもおかしくなっていきます……。

と、ここまで記したものを読んで、本作の知識のない方は「?」と思われたことでしょう。

そうなのです。この作品は何と、少女が少年を演じているのです!

しかも則夫(これが深津絵里のデビュー作。ここでは水原理絵という芸名でクレジットされています)以外のキャラクターの声は薫=高山みなみ、和彦=佐々木望、直人=村田博美といった、今やベテラン(当時はもちろん若手新進)声優陣が吹き替えるという方法論で、倒錯の度合いを深めてくれています。

劇作家・岸田理央による脚本は森と湖に閉ざされた舞台劇的要素を強め、それに基づいて撮影・高間賢治&照明・安河内央之による映像美、中村由利子の流麗なピアノ音楽など、まさに“透明感あふれる”という言葉がふさわしい画と音が構築。

そして少女たちは胸の膨らみまで押し隠す息苦しさの中で少年を体現し、金子監督の演出はそれを思春期特有の心の苦しみへと巧みに変換させていきます。

かくして『1999年の夏休み』は前代未聞とも呼べる野心的試みをもって清冽ながらも閉塞的な世紀末の愛を耽美に描出することに成功し、当時まもなく世紀末を迎えようとしていた映画ファンの胸をつかむとともに、今でいうカルト映画として語り継がれる存在となっていったのでした。

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映画公開時から30年後の今こそ
実は1999年・世紀末なのでは?

そしてあれから30年!

ノストラダムスの大予言は外れたものの(まあ、もともとあれは1999年を想定してないという説も有力ですが)、21世紀に入って世界はどんどん閉塞的になり、同時に他者を排斥しようとするヘイト思想がまかり通るようになって久しく、同性愛なども一昔前に比べるとオープンになってきた感があるかと思いきや、LGBTを非難する心ない向きが一気に目立ってきてもいるご時世です。

一方で人々は現実よりもSNSなど閉ざされた内面的世界の中でのコミュニケーションを好み、その中でのみ赤裸々な思想を増幅させては意見を過激化させていき、必然的に左と右が両極化していく……。

そんな現代において、この『1999年の夏休み』を再見しますと、実は30年前に漠然と思い描いていた世紀末に対する不安感などが、不思議なくらいに蘇ってくるのでした。

実際あの頃、1999年の夏にアンゴラマオの大王など本当に降りてきて世界が滅びるなどとは、大半の人は思ってなかったでしょう(核ミサイルが落ちてきて、一瞬に世界が滅びるのでは? といった不安めいたものは、何となく若干ありましたけど)。

しかし今という時代のほうが、人それぞれの心は徐々に閉ざされ、他者との過剰な接触を拒み、それゆえに身の回りは次第に静謐なものと化していき、やがては静かに終焉を迎えるのではないか?

伊藤智生監督の『ゴンドラ』が30年後の現代社会の心の孤独を予見していたように、金子修介監督の『1999年の夏休み』もまた、もはや“心の世紀末”ともいえる現代社会の闇を巧まずして予見していたのかもしれません。

そして、こちらはさらに死というモチーフが、透明なまでに静謐で耽美な終末観として、美少年同士の愛の世界を通して匂わされるに及び、かつて『スター・ウォーズ』(77)以前に顕著で、21世紀に入って9・11以降徐々に復活してきた反体制反権力を掲げた近未来SFファンタジー映画の波とも、実は巧みに呼応しているのではないか? そう思えてならない節もあります。

いや、もはやそういった理屈などどうでもいい。

『1999年の夏休み』は“愛の苦しみ”という、思春期はもとより人生の普遍ともいえる要素を、ひたすらに美しく、ひたすらに切なく、そしてファンタジックに謳い上げていきます。

そう、本作そのものが既に普遍的なのですから、これ以上は何を言っても野暮。ただただ不朽の名作としての味わいを堪能すればいい。

改めて4人のキャストを紹介しておきます。

悠と薫の二役を演じた宮島依里は、現在声優として活躍中。アニメは「ポポロクロイス物語」(98)や「灰羽同盟」(02)、洋画ではジェシカ・アルバやリース・ウィザースプーンの吹替でもおなじみです。

和彦役の大寶智子は本作の後、松岡錠司監督の『バタアシ金魚』(90)や黒澤明監督『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(91)などに出演して若手女優としての地位を確立。現在はテレビドラマを中心に活躍中です。

直人役の中野みゆきは『寒椿』(92)『東雲楼・女の乱』(94)など90年代東映映画に多数出演しましたが、2001年に河合俊一と結婚し、現在は主婦専業中。金子作品『咬みつきたい』(91)にも出演しています。

則夫役の深津絵里は、水原理絵として本作の後『STAYGOLD』(88)に出演した後、高原理絵・名義で『満月のくちづけ』(89)で単独主演。そして現在の芸名(本名)に変えてスターダムを上りつめていきました。

最後に金子修介監督について触れておきますと、1984年に『エースをねらえ!』のパロディを散りばめた日活ロマンポルノの快作『宇能鴻一郎の濡れて打つ』で監督デビューを果たし、一般映画に進出した後も美少女スターの資質を巧みに引き出すライト・コメディの才人として活躍していました。

そんな中で『1999年の夏休み』はコメディ色こそ皆無ですが、少女漫画を基軸とした美少年たちの愛憎を描くために少女を起用するという、この監督ならではの実験精神が高く評価されました。

そして1990年代は平成『ガメラ』3部作(95~99)で怪獣映画に革命を起こし、21世紀に入ると『デスノート』2部作(06)が大ヒット。

昨年は21世紀の女子大生が91年のバブル崩壊期の日本にタイムスリップして、若き日の母親とアイドルユニットを結成するというSF&美少女アイドル&コメディ、そして社会風俗文化論としての快作『リンキング・ラブ』(17)を発表するなど、一貫した映画的信念で旺盛に活動を続けています。

その金子監督にとって『1999年の夏休み』は、映画人生の中でも大きな転機になった作品として、絶対に忘れられない作品であることでしょう。
(そしてもちろん、彼の作品を見続けてきた私たちにとっても!)

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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