『ちいさな英雄』は“新たな挑戦”に満ちた大意欲作!その8つの魅力を語る!

(C)2018 STUDIO PONOC 

『メアリと魔女の花』のスタジオポノックの最新作である、『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』(以下、『ちいさな英雄』)が、8月24日より公開されています。実際に鑑賞してみたところ、アニメファンはもちろん、スタジオジブリ作品のファン、家族にも存分におすすめできる、“新たな挑戦”に満ちた大意欲作でした! その魅力がどういったところにあるのか、以下に解説します。

1:短編から構成されるオムニバス作品になった理由とは?

『ちいさな英雄』は、かつての“東映まんがまつり”にも似た、短編アニメで構成されたオムニバス作品になっています。今でも若手アニメーター等人材育成事業の“あにめたまご”で同様の上映形態は取られていますし、ピクサーの長編作品でも短編アニメが併映されています。しかし、3本の短編アニメのみで構成された作品をここまで大々的に公開するのは、異例のこととも言えるでしょう。

では、なぜ『ちいさな英雄』が短編のオムニバス作品となったのか。西村義明プロデューサーによると、今は配信サービスも台頭し、世の中に映像作品が十分に溢れていることから、これから新しいアニメや映画を作るにおいては、かつてとは違う意識を持たなければならないという危機意識が最初にあったのだそうです。それは、ピクサーおよびディズニーの長編作品に関わっているクリエイターから、「新しい表現や技術や作り方を実践した作品でないと企画を通さない」と聞いたことも理由なのだとか。

それを踏まえ、短編アニメという形式でこそ、新しい挑戦ができ、新しい才能とも出会えるかもしれないという展望を持ったことが、今回のプロジェクトの礎になったのだそうです。同時に、西村プロデューサーは宮崎駿監督や高畑勲監督が様々な作品で“アニメの豊かさ”を追求してきたことを鑑みて、これからのスタジオポノックでもそのアニメの豊かさがある(長編を含めた)アニメ作品を作り続けていくという未来も見据えていたのだとか。

言うまでもないことですが、長編アニメ映画を作るというのは、それだけで膨大な人員もお金も体力もいることです。プロジェクトが大きくなるほどクリアーしなければいけない課題も多くなり、失敗ができないというプレッシャーもかかり、だからこそ挑戦的な表現もしにくくなってしまう、マンネリズムに陥ってしまう危険性も高いのでしょう。

ごく端的にまとめるのであれば、『ちいさな英雄』が短編オムニバス作品となったのは、映像作品がありふれている現代で必要になる“新しいアニメの豊かさ”に挑戦するためであり、次の(長編)作品につなげるための“次なる一歩(ステップ)”でもあったからなのです。

2:それぞれの短編で“新しいアニメの豊かさ”を追求していた!

『ちいさな英雄』の最大の魅力と言えるのは、前述したように“新しいアニメの豊かさ”に挑戦していることです。3本の短編それぞれの監督はスタジオジブリでキャリアを積んでいた実力派で、それぞれの作品で“ジブリらしい”表現がたっぷりとある一方で、「こんなの観たことがない!」と思えるほどのフレッシュなアニメのおもしろさも十分に存在しているのですから。

このアニメの豊かさとおもしろさは、毎週放送されるテレビアニメでは技術的にも予算的にもスケジュール的にも実現不可能なこと。“今まで観たことがないアニメを堪能する”という贅沢な時間を過ごせるということだけでも、劇場で観る価値があるでしょう。以降の項では、3本それぞれの短編の“アニメならでは”の魅力について解説します。

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3:『カニーニとカニーノ』は米林宏昌監督の“挑戦”を応援したくなる!

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擬人化されたサワガニの兄弟の冒険を描いた作品で、(登場人物の名前を呼ぶこと以外の)セリフがほとんどない、実質的にサイレント映画とも呼べる内容です。舞台のほとんどが水の中であり、手書きの美しい背景はもちろん、CGが融合した水や泡や生き物の表現も見事の一言。“世界観”そのものにも豊かさを感じることができました。

米林宏昌監督は『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』『メアリと魔女の花』と連続して原作がある作品を手がけていましたが、今回の『カニーニとカニーノ』はオリジナルストーリーになっています(脚本も米林監督自身が務めています)。これまでの米林監督作品は良くも悪くも“冒険心のない”ところがあり、それが『メアリと魔女の花』では凡庸さにつながってしまっていたとも感じていたので、今回の“物語も自分でゼロから作る”という挑戦そのものを応援したくなりました。キャラクターの表情の豊かさ、十分な迫力があるスペクタクルシーンもあり、米林監督の作家性および、クリエイターとしての成長を感じられるでしょう。

※米林監督の作家性については以下の記事も参考にしてください↓
□『メアリと魔女の花』はなぜ賛否両論なのか?監督の歩みから、その面白さを読み解く

4:『サムライエッグ』では高畑勲監督を受け継いだ“表現”に注目!

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極度の卵アレルギーになってしまった少年と、その母親が奮闘するという内容です。物語そのものは実写作品でもできそうに思えるところですが、アニメでこそ為し得ない表現が確かに存在しています。それは、可愛らしくやわらかなタッチな絵とギャップのある、“深刻なアレルギー症状”が描かれること。水彩、色鉛筆、CGなどの模式を駆使しており、まるで“絵本がそのまま動いているよう”な感動もありました。

監督を務めたのは、『火垂るの墓』から『かぐや姫の物語』まで、長らく高畑勲監督作品で演出を務めていた百瀬義行さん(過去にも『ギブリーズ episode2』でも監督と脚本を務めた経験があります)。“普通の人の日常を描く”ことや“実際の人間の動きも「こうなんだなあ」と思える繊細な表現”には、高畑勲監督から受け継いだ確かな技術と信念を感じることができるでしょう。

5:『透明人間』の見所は“スペクタクルアクション”!

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都会の片隅に生きる“見えない男”の孤独な闘いを描いた作品です。何よりの見所は、アクロバティックなスペクタクルアクション! 平面で描かれたはずのアニメに“奥行き”や“高低差”を存分に感じられる、スタジオジブリ作品にもあった高揚感のある演出がこれでもかと観られるのです。それでいて、姿も表情も見えないはずの透明人間の不安や悲しみ、そして希望を表現したドラマとしても豊かな作品に仕上がっていました。

監督は『ハウルの動く城』や『崖の上のポニョ』などで宮崎駿監督作品の中核を担っていたアニメーターの山下明彦さん(三鷹の森ジブリ美術館の短編アニメ『ちゅうずもう』でも監督を務めています)。ダイナミックな作画と動きには、“宮崎駿イズム”を存分に感じることができました。『この世界の片隅に』でも美術監督を務めていた林孝輔さんによる油絵のような作画、中田ヤスタカさんによる“EDM”チックな重圧な音楽も実に魅力的です。

また、『カニーニとカニーノ』と『サムライエッグ』はどちらも比較的“恵まれている家族”の物語でしたが、『透明人間』では一転して“都会に生きる孤独な男”の物語が展開するという、対照的な構造にもなっています。3本の短編それぞれで、多様な価値観や“生き方”を提示しているとも言えるでしょう。個人的に、この『透明人間』が3本の短編の中で一番のお気に入りです。

6:豪華俳優陣による声の出演もハマってた!

西村義明プロデューサーは、『メアリと魔女の花』の制作のためにスタジオポノックを立ち上げた時、宮崎駿監督から“アニメを作る上での3つのこと”を教わったのだそうです。それは、「面白いこと」「作る意義があること」「作り続ける必要があるから、ちょっとだけお金を稼げること」だったのだとか。

その“ちょっとだけお金を稼ぐ”ための今回の戦略は、主題歌を木村カエラさんが担当していることや、木村文乃さんや坂口健太郎さんや田中泯さんといった実力派俳優の起用なのでしょう。オムニバス短編というマイナーとも言える上映形式でありながら、“したたか”なメジャー感も出しているとも言えます。

本業声優でない方が主要キャラクターの声を当てていることに不安を感じる方もいるかもしれませんが、結論から言えば全く問題はありません。特に『サムライエッグ』で尾野真千子さんが演じた関西弁で話す気の強いお母さん、『透明人間』でオダギリジョーさんが演じた繊細な性格の青年は実にハマり役! 話題性と役の整合性を両立した見事なキャスティングと言えます。

7:上映時間が短いからこその不満、そして魅力もある?

本作の総上映時間はわずか54分。それぞれがアニメの豊かさとおもしろさに満ちているとはいえ、どうしても長編作品のようなボリュームを感じにくい、物足りなさを覚えてしまう方も多いでしょう(このことを鑑みて、本作は通常よりも安い特別料金で鑑賞できるようになっています)。

また、上映時間が短いぶん説明不足になっているという印象もなくはなく、『カニーニとカニーノ』ではお母さんがどういう状況下にあるのかが少しわかりにくかったり、『サムライエッグ』では“侍”というモチーフをもっと焦点を当てたほうがよかったのでは?と思うところもあり、『透明人間』ではクライマックスの展開がやや性急に感じてしまうところもありました。

それらは短編作品ならではの欠点とも言えるのですが、裏を返せば“退屈に感じることなく濃密な時間を過ごせる”“描かれていないことにも想像が及ぶ”という長所にもなり得ます。少なくとも、長編映画にはないおもしろさも十分にあるのは間違いないでしょう。

また、「3本の中でどれが一番好き?」と一緒に観た人と話し合ってみるのもおもしろいかもしれません(これこそ短編オムニバス作品ならではの楽しみ方です)。映画への印象や感動は人生経験やその人が持つ価値観によりガラリと変わることも多いですし、それぞれの作品への解釈を話し合うことで、さらに物語に奥行きを感じられるかもしれませんよ。

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8:『ちいさな英雄』のタイトルの意味とは?

タイトルとなっている『ちいさな英雄』は3本の短編それぞれの主人公を表していると同時に、このプロジェクトそのものも意味しているとも言えます。

それぞれの物語の主人公は懸命に生きていて、世界を救ったりはしなくても、何かを実現していたり、身近な誰かのために行動をしていたりと、まさに“ちいさな英雄”になっています。同時に、西村プロデューサーは世に送り出したそれらのちいさな作品(短編)が、“アニメ映画の作り手にとっての大きなヒーロー”になれるという希望を持っていたのだとか。それぞれの短編の主人公の奮闘と、現実のスタジオポノックの目指す未来がシンクロしているように思えることも、本作の大きな魅力です。

余談ですが、“ポノック”はクロアチア語で“午前0時”を意味しています。このスタジオの名前は(スタジオジブリで培った技術を引き継ぎつつも)“ゼロから作品を作る”という揺るぎない信念も意味しているのでしょう。次回作でも、スタジオポノックの新たな挑戦を期待しています。

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おまけ:この夏、日本のアニメ映画界に新しい風を吹き込む、この作品も観て欲しい!

この2018年8月、著名な監督による作品でもなく、大人気のマンガを原作としているわけでもないものの、日本のアニメ映画界に新しい風を吹き込んでいるアニメ映画が他にも公開、または配信されていることをご存知でしょうか。最後に、その5つの作品を一挙にご紹介します。

1:『アラーニェの虫籠』

監督、原作、脚本、アニメーション、音楽などを、たった一人で担当したという驚異のホラー作品です。序盤は“謎が謎を呼ぶ”展開が続き、中盤からは夢か現実かわからない不条理劇へと移行、全体を包んでいる“おどろおどろしさ”こそが最大の魅力になっていました。蠱惑的なデザインのキャラクター、薄暗く閉鎖的な“異世界感”、しっかりとした恐怖描写などは、劇場で観てこそ最大限に楽しむことができるでしょう。人気声優の花澤香菜さんの演技も秀逸! ゲームの『サイレントヒル』に似た雰囲気もあるので、そちらが好きな人にもおすすめです。

2:『詩季織々』

『君の名は。』を手がけたコミックス・ウェーブ・フィルムと、中国のアニメ制作会社である絵梦(ハオライナーズ)による日中合作の作品です。『ちいさな英雄』と同じく3つの短編から構成されたオムニバス作品で、綺麗な風景とモノローグの多さには、新海誠監督からの影響が多分に感じられました。どの短編も中国が舞台ならではの物語になっており、個人的には2本目の“モデルの仕事を妹のためにもがんばっているお姉ちゃん”の話が最もお気に入りでした。8月25日からはNetflixで配信されています。エンドロール後におまけがあるので、お見逃しなきよう!

3:『よるのたんけん』

下北沢の映画館“トリウッド”で公開中の、8年がかりで製作したというストップモーションアニメです。内容は22分間のゾウとウサギの冒険を描いたロードムービーで、音楽が重圧で心地よく、唯一無二な世界観と合間って“トリップ感”もある作品に仕上がっていました。パッと見では少し怖い印象もありますが、実際に観るとキャラクターは実にキュートなので子供から大人まで楽しめるでしょう。なお、セリフのない短編『いぬごやのぼうけん』と同時上映されています。『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』や『犬ヶ島』が好きな人にもおすすめです。

4:『紅き大魚の伝説』

こちらはNetflixで配信中の中国製の作品です。人間界とは違う世界で生活する少女が、人間の青年との出会ったことをきっかけに過酷な運命に立ち向かうという物語で、その世界観や風景には宮崎駿監督作品、特に『千と千尋の神隠し』の影響を強く感じられました。独特の死生観、多重構造を持つクライマックス、 “生きること”において尊いメッセージを掲げた物語、滑らかな作画など、見所が極めて多い力作に仕上がっています。こちらもエンドロール途中におまけがありますので、見逃さないようにしてください。

5:『ペンギン・ハイウェイ』

『夜は短し歩けよ乙女』と同じく、森見登美彦の小説を原作とした作品です。ペンギンが街中に出現するといった“あり得ない現象”を通して少年の探究心を肯定する不思議な物語、ジュヴナイル的な懐かしさと楽しさが満載で、夏休みが終わる前に映画館で子どもに観て欲しいと心から願える傑作に仕上がっていました。いわゆる“おねショタ”な関係性が濃密に描かれることも話題を集めているようです。

『ペンギン・ハイウェイ』は、これまで『台風のノルダ』や『陽なたのアオシグレ』などの短編アニメを手がけた制作会社のスタジオコロリドによる初めての長編作品で、石田祐康監督はかつて『フミコの告白』というとんでもなくハイクオリティーの自主制作アニメを手がけていました。この“疾走感” が『ペンギン・ハイウェイ』のクライマックスでは全開! そこには涙を流すほどの感動がありました。

現在の日本のアニメ映画界では、細田守監督率いるスタジオ地図が強力なブランド力を持っています。しかし、スタジオジブリの技術を引き継ぐスタジオポノック、独自の魅力を突き詰めているスタジオコロリド、独自の魅力を持つクリエイターも参入しており、アニメ映画界がさらに盛り上がる未来が想像できることが嬉しくて仕方がありません。ぜひ、『ちいさな英雄』と合わせ、これらのアニメ映画もご覧になってみてください。

(文:ヒナタカ)

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