『フェリーニに恋して』は、まるで“フェリーニの国のアリス”のような幻想世界!

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映画ファンを自認するならば、フェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の名前を知らない方などほとんどいらっしゃらないかと思われます。

イタリア映画界が生んだ20世紀の巨匠監督のひとり。

『道』(54)『甘い生活』(59)『8 1/2』(63)『サテリコン』(69)『フェリーニのアマルコルド』(74)『ジンジャーとフレッド』(85)『インテルビスタ』(87)などなど、世界映画史にその名を刻む名作を多数発表し続けた、まさに巨匠名匠の冠がふさわしい偉大なる映画人です。

そして、そんなフェリーニ監督をモチーフにした本作、『フェリーニに恋して』は、何と……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.295》

フェリーニに会いたくてイタリアまで旅に出たアメリカ人の女の子の、ファンタジックな冒険ロードムービーなのです!

純粋無垢な女の子が
フェリーニに会いにイタリア独り旅

『フェリーニに恋して』の主人公は、20歳を迎えてまもないアメリカの女の子ルーシー(クセニア・ソロ)。

母クレア(マリア・ベロ)の純粋培養的なしつけにより、恋人どころか友人もいない、ビデオで見るモノクロのクラシック映画だけを趣味にしてきた無垢なルーシーですが、最近クレアに何か変わったことが起きていることを肌で察知した彼女は、独り立ちすべく就職の面接を受けることに。

実はクレア、不治の病の末期状態にあり、彼女を気にする妹のケリー(メアリー・リン・ライスカブ)は、手遅れになる前にルーシーに真実を話すべきだと急かし続けていたのです。

面接は案の定最悪の結果に終わり、落ち込みながら街を歩いていたルーシーはふと「フェリーニ映画祭」のチラシを渡され、会場に足を向けて『道』を鑑賞し、それまでの明朗健全なハリウッド映画とは異なる甘美で厳しい人生の機微とその描出に心を奪われてしまいます。

その後フェリーニの映画を夢中になって見まくるルーシーは、思わずイタリアのフェリーニのエージェントに電話してしまいます。

すると、何とフェリーニが会ってくれるから、すぐイタリアに来てくれとの返事⁉

いてもたってもいられず、イタリアへ赴くルーシー。

しかし、そこで彼女を待ち受けていたものは、まさにフェリーニの映画の中に迷い込んだかのような甘美で悪夢的なファンタジックな世界でした……。

本作は、言ってしまえば純粋無垢な映画オタクの女の子がフェリーニ会いたさにイタリアへ赴き、そこでさまざまな経験を得ていく青春ロード・ムービーとしての体裁をとりつつ、その中にフェリーニ映画に倣った設定などが多数盛り込まれ、また彼の映画を彷彿させるキャラクターがイリュージョンのように登場し、まさにイタリアそのものがフェリーニ映画の幻想世界であるかのような描き方がなされています。

もちろんフェリーニ映画の映像そのものもいろいろ映し出されていきます(映像使用料とか大変だったろうなあ)。

そんな中、まるで“不思議の国のアリス”のようにイタリアという名のフェリーニ的迷宮をさまよい続けるルーシーは、次第に大人の階段を上っていく勇気を手に入れていくのです。

これからフェリーニ映画に接する
新しい映画ファンのために

本作はさまざまなフェリーニ映画のオマージュで構成されてはいますが、かといってあまりマニアックでフェリーニ映画のファンでなければ理解できないような、そんな閉鎖的な作品ではありません。

むしろ、フェリーニ映画のディープなマニアよりも、まだフェリーニ映画を見たことがないビギナーに向けて作られている節も感じます。

ここで描かれているのは、あくまでも若干30代半ばのインディーズの才人タロン・レクストン監督や、『ザ・シンプソンズ』などの声優として活躍し、本作では脚本&プロデューサーを務めたナンシー・カートライトらが彼らの感性でフェリーニ映画からインスパイアされたものを巧みに青春ロード―ムービーと融合させたものであり、それらの描出そのものに対してはマニアであればあるほど意見が出てくるでしょうが、逆にこの作品を通じてフェリーニに興味を示し、彼の映画を見てみようかという、これからの映画ファンの意識を大いに啓蒙してくれるものになりえています。

また一方でルーシーのイタリアの旅は、どこかしら死と隣り合わせにあるような感もあり、それはアメリカの母とその妹のリアルなドラマの展開(ちなみに彼女らがフェリーニ映画について論争するあたりはかなり笑えます)ともリンクしているようです。

さらには徹底した観客サービスを第一とするハリウッド映画と、映画作家の芸術色を大いに許容するヨーロッパ映画の資質の違いなども簡明に浮き彫りになっていきます。

おそらくファリーニのファンであればあるほど、それぞれのフェリーニ的迷宮世界を持っているはずであり、本作で描出されていくタロン・レクストン監督らの論考を微笑ましく見据えつつ、では自分なりのフェリーニ的世界って何だろうかと想いを馳せるのも一興。

ルーシー役のクセニア・ソロの可愛らしさも特筆的で、彼女の存在自体もこの映画をキュートで魅力あふれるものへ導いています。

ふと、本作の形式に倣って海外の若者が黒澤明に会いに日本に来る『クロサワに恋して』とか、そんなパターンの映画もいっぱい作れそうだなあと思ってしまった次第です。

あなただったら、どの監督の映画に恋し、会いに行きたいと思うでしょうか? そんな映画ファンならではの想像を育ませてくれるのも本作の楽しさの一つでしょう。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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