『轢き逃げ―最高の最悪な日―』と20代の最後に出会えた歓び~小林涼子インタビュー

『相棒』シリーズなどでおなじみの水谷豊の映画監督第2作『轢き逃げ―最高の最悪な日―』が5月10日より劇場公開されます。

監督デビュー作『TAP―THE LAST SHOW―』でショービジネスに生きるダンサーたちの世界を華麗に描出した彼が続けて挑んだのは、ある轢き逃げ事件を通して加害者側と被害者側それぞれのサスペンスフルな関係性を通して、老若男女それぞれの心情に寄り添った究極の人間ドラマであり、これまでの彼のキャリアを巧みに忍ばせた快作として屹立しています。

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今回は轢き逃げを起こした主人公の若きエリート・秀一(中山麻聖)の罪を知らぬまま結婚してしまう社長令嬢の早苗を好演する小林涼子さんにご登場いただき、作品の魅力や役に込めた想いなどを語ってもらいました。

10代から20代にかけて『ZOO(第1話:カザリとヨーコ)』『HINOKIO』『仮面ライダー THE FIRST』(すべて05)『小ぎつねヘレン』(06)など映画出演が多く、特に珠玉の青春映画『大人ドロップ』(14)での鮮やかな印象が今も忘れられない小林さんですが、本作は20代最後の映画出演作品としても、大きなステップになった作品ともいえそうです。

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《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街380》

役者の先輩でもある
水谷豊監督に支えられて

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──映画『轢き逃げ―最高の最悪な日―』は、役者のみなさんそれぞれの個性が実にうまく活かされた快作になっていましたね。

小林:ありがとうございます。ベテランの先輩方もいっぱいいらっしゃったので最初はすごく緊張していたのですが、水谷豊さんが役者の先輩として、監督として、私たちを常に優しく見据えてくださっていて、現場でもいろいろ教えていただけたので、とても楽しく撮影できました。

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──そもそも依頼があったときの感触などはいかがだったのでしょうか。

小林:絶対にウソだと思いました(笑)。水谷さんにもお会いしたことがなく、何で私を知っていただいたのかなと思ったりもしましたし、最近はドラマのお仕事が多かったりもしていたので、どうして私のところに依頼が来たのかなあと、戸惑いのほうが最初は大きかったですね。

──では台本を読まれたときのご感想は?

小林:やっぱりウソなんじゃないかって(笑)。マネージャーさんに「これ、ホントに私ですか? なくなったりしないですか?」って何度も何度も確認しましたし、それこそ初日まで騙されてるんじゃないかって。

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──クランクインまで水谷監督とはお会いしてなかったのですか?

小林:いえ、何度もお会いさせていただいてました(笑)。衣装合わせのときはそれこそ早苗の父親のようにウエディング・ドレスを選んでくださったり、役に関しても本当に親密にお話させていただいて、こんなにスムーズで幸せで、でもそんな現場って実際に来るのかな?って思わされるほどだったんです。それまでは割とタフな現場も多かったりしたもので(笑)。

──早苗に関してのディスカッションは、水谷監督からは何と?

小林:「早苗はお嬢様でおとなしくて、少し浮世離れした感じがあるといいね」と言われました。そこから帰国子女くらいの浮世離れ感はあるけど、特に変な人というわけではなく、外国で生活していたこともあるお嬢様ならではのユーモアとチャーミングな面を持ち合わせてくれたらと。私もその部分を大切にしたいと思いましたね。また今回のロケ地になった神戸の街がすごく素敵で、私も「早苗だったらどういう場所に行くかな?」とか考えながら、神戸の街をたくさん歩きました。ですから役作り云々というよりも、そこに早苗のいた時間を作っていこうという気持ちや。そして共演のみなさんとの関係性や現場の空気感の中で動きながら、私なりの早苗が出来上がっていったようにも思います。

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──早苗の場合、神戸でもかなり高級なところに行ってそうですね。

小林:そうですね。マダムがいっぱいいそうな坂の上のカフェとか、およそ普段の私が行かなそうなところ(笑)。きっと彼女がデートするならこういうところかな? とか考えながら街を散策するのも楽しかったですね。

──共演の中山麻聖さんと石田法嗣さんはいかがでしたか。

小林:中山さんは実は高校の先輩で、当時から知ってはいたんですけど、まさか結婚することになろうとは思ってもいませんでしたね。もうびっくりです(笑)。逆に石田さんとは以前夫婦の役をやってまして、ですので「前の夫と今の夫」みたいな、私的には複雑な気持ちで(笑)。でも二人とも知ってましたので、関係性も作りやすかったというか、幼馴染が3人集まったような空気感で楽しかったですね。

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──なるほど、だから和気あいあいというのとは違いますが、3人の呼吸が合っている感が自然に映画から醸し出されていますね。

小林:そう見えていたなら嬉しいです。撮影以外でも一緒にファミリーレストランでご飯を食べたり(笑)、あと水谷監督からも「みんなで楽しんでおいで」って軍資金をいただいて(笑)、毎熊克哉さんも含めて4人で神戸の街に繰り出したこともありました。

──若いみなさんに対する水谷さんの優しい気配りが感じられますね。

小林:水谷さんは監督であると同時に役者としての大先輩でもいらっしゃいますし、いかに現場でのチームワークが作品にとって大事であるかもわかってらっしゃるので、撮影外の部分もさりげなく気にかけてくださいました。ですので私たちは楽しく美味しく(笑)、現場を乗り切ることができました。

「最高の最悪な日」を迎える
早苗の心情の変化

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──一方で映画の内容そのものは非常にシビアでハードなものです。その中で前半部こそ轢き逃げ事件を起こした男性ふたりに焦点が絞られていますが、後半に行くに従い、徐々に早苗を含めた周囲の人たちの心情なども巧みに浮き彫りになっていきますね。

小林:そう見えていたとしたら嬉しいです。監督ともお話させていただいたのですが、実はある意味「最高の最悪な日」を迎えるのって、早苗ちゃんなんですよね(苦笑)。何の罪もないのに、ただただ巻き込まれちゃう。ですから彼女がいかにして最高の状態から最悪の状態へ変わっていくのか、そこをキーワードにしながら、前半での最高の部分をどのくらい最高にすべきなのか、そして後半の最悪の部分とどのように彼女が向き合いながら変わっていくのかが丁寧に描かれていたらいいなと。お話としてはもちろん男性ふたりの物語ですけど、早苗にもきちんと時間が流れていることが要所要所に感じられたらというのが自分自身も演じながら気を付けていたところでした。

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──ネタバレになるので多くは語れませんが、結果として“男たちの物語だけでなく、見事なまでに“女たちの映画”という一面も大きく持ち合わせています。これはぜひ実際に映画館で確認していただきたいですね。

小林:私も最初に台本を読ませていただいたときに、ただの轢き逃げ事件の映画ということだけではなく、轢いて逃げたことの理由であるとか、それに伴う加害者と被害者の関係性とかを通して、今という時代が見えてくる内容だなと思えたんです。特に今はSNSで他人の生活が露骨にさらけだされたりしますけど、それらに対してうらやましく思ったり嫉妬したりする自分たちの気持ちに対して「少し地に足をつけさせてくれる」映画になっているのではないかと思っています。それは根底ではなかなか変えられないことかもしれないけど、少なくとも今、言っておいたほうが言っておいたほうがいいのではないかとも。

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──被害者の母を演じる檀ふみさんと対峙するシーンも素晴らしかったです。

小林:あの日の撮影は朝からおなかが痛くて、漏らすんじゃないかってくらい緊張してました(笑)。実はこの作品、最初の頃の緊張が現場でどんどんとけていってすごく楽しいものになっていたんですけど、あのシーンは本当に他とは異なる重みというかプレッシャーを感じてたんです。でも、そこまでみんなで積み上げてきたものを絶対に無駄にはできないという想いで気を引き締めましたし、監督もそれを感じてくださって、現場ではよりゆったりとした気配りをされていました。檀さんも私の緊張に気づかれてたようで(笑)、すごく優しく温かく見守ってくださってましたね。おかげさまで無事に撮り終えることができましたけど、ものすごく達成感がありましたし、キャリアとしても人間としても先輩のみなさまがたに優しさを受けながら、自分もさらに成長できたと思えるような、そんな現場でした。

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──子役を経て10代の頃から映画出演が多かった小林さんにとって、本作はまた役者としての大きなステップになった作品ともいえますね。

小林:自分でも本当にそう思います。20代の最後にやらせていただいた映画のお仕事がこの『轢き逃げ』だったということで、私にとってかけがえのない大きな作品にもなりました。水谷さんからも「10代20代とそれぞれのキャリアが終わって次の段階に入るときに自信作があるのは良いことだし、それをバネに次の30代40代も続けて行けるといいよね」と言ってくださいましたし、10代20代ではやりたくてもやれなかったことも30代になったらやれるような気もしていますし、“改めて生まれる”といったリボーンの気持ちでこれからも駆け抜けていきたいと思っています。

(撮影:生熊友博、取材・文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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