これぞ『2001年宇宙の旅』の原点!SF映画の先駆的傑作『イカリエ―XB1』

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東ヨーロッパ諸国は知る人ぞ知るファンタスティック映画の宝庫であり、ハリウッドとは一味違ったクールでアーティスティックなテイストは、昔も今もファンに愛され続けている所以ともなっています。

今回ご紹介する『イカリエ―XB1』は、1963年にチェコスロヴァキア(現在はチェコ共和国とスロバキア共和国に分裂)で製作された宇宙SF映画です。

これまで日本では劇場公開されたことはなく、自主上映やTV放映などでSFマニアの間で語り草になっていた作品が、このたび4Kレストアされて、堂々の正式な初公開!(実は私もタイトルだけは知っていたけど、見るのはこれが初めてでした)

そして下記が、今回の公開にあたってのキャッチコピーです。

「『2001年宇宙の旅』『スター・トレック』――すべてはここから始まった。1963年チェコスロヴァキアで生まれた奇蹟のSF映画!」

まあ、さすがに大仰ではあるけど、こういった物言いでもしないとモノクロの古い作品ゆえに今の若い映画ファンの気を引かないかな、などと微笑ましく思いながら鑑賞し始めていくと……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.307》

ゲゲッ! マジにその通り! これはSF映画の先駆的大傑作でした!

世界初の生命調査に乗り出した
宇宙船イカリエ―XB1の運命

『イカリエ-XB1』の舞台は23世紀後半(2163年)の宇宙です。

宇宙船イカリエ-XB1とアバイェフ艦長をはじめとする乗組員40名は、生命の存在が期待できるアルファ・ケンタウリ惑星系に向けて、世界初の生命調査の旅に出ました。

なお彼らは15年後に地球に帰還する予定となっていますが、宇宙空間を高速で移動するために時差が生じ、その間2歳ほどしか齢を取らないことになっています。

やがて数か月が経ち、艦内では情緒不安定に陥ったり、苛立ちを隠しきれなくなる者も出てくる中、XB1クルーは漂流中の難破船を発見し、探査シャトルを飛ばしますが……。

これから先はもう完全にネタバレになりますので、実際にご自身の目と耳で、何が『2001年宇宙の旅』(68)なのか、何が『スター・トレック』(66~)なのかを確認していただければと思いますが、ここまで記したストーリー部分だけでも、現在あふれかえるほどのSFホラーの設定に先駆けたものに成り得ていることも理解できるかとは思います。
(まあ、これ以前の50年代ハリウッドSFホラー作品にもこういったパターンの作品はあるにはありますが、本作の場合、このエピソードあたりからものすごいことになっていくのです!)

SF映画のヌーヴェル・ヴァーグ的存在の
偉大なる名作

公開50周年を記念して、つい先ごろ初公開時の70ミリ・フィルム版での上映をカンヌ国際映画祭にて成し遂げ、再び話題を集めている『2001年宇宙の旅』ではありますが、監督のスタンリー・キューブリックは自作の完成度を高めるための探求にも怠りはなく、たとえば『シャイニング』(80)では1921年の無声映画“THE PHANTOM CARRIAGE”に倣ったカット割を諸所に配置しています。
(そこから連想すると『レディ・プレイヤー1』でスティーヴン・スピルバーグ監督が『シャイニング』にオマージュを捧げた諸所のパロディ・カットとも共通するものを感じる?)

『2001年宇宙の旅』製作の際も、我が国の手塚治虫にスタッフ要請をしたほどのキューブリックですから、東欧の『イカリエ―XB1』も見ていて当然でしょう。

事実、『イカリエ―XB1』は緊迫のドラマが進むに従って、「これって『2001年宇宙の旅』の原点では?」と驚嘆させられる設定がいろいろ登場してくるのです。

また、そういったインパクトある作品でなければ、日本では一部SFファンにしか認知されてない東欧の88分のモノクロ映画がおよそ半世紀以上経って4Kレストアされることもなかったでしょう。

(本作の4Kレストアに際し、アレックス・コックスやジョー・ダンテなど世界的名声を誇る映画人が、惜しみない賛辞を贈っています)

本作の監督インドゥジヒ・ポラーク(1925~2003)は、脚本執筆から映画雑誌編集者となり、戦後の1946年にバランドフ撮影所に入所し、実写とアニメの別なく、ファンタジーやコメディ、スパイ活劇、SFなど多彩なジャンルを手掛けた才人と伝えられています。

作品の多くが日本では未だに陽の目を見ないのが残念ではありますが、『イカリエ-XB1』だけでも、そのセンスの良さを伺い知ることは大いに可能でしょう。

なお本作が作られた1963年は、先ごろ惜しくも亡くなった『カッコーの巣の上で』(75)『アマデウス』(84)などの名匠ミロシュ・フォアマンや『厳重に監視された列車』(66)『スイート・スイート・ビレッジ』(86)のイジー・メンツェルなど、“チェコ・ヌーヴェルヴァーグ”の旗手が本格的に台頭し始めた時期でもありました。
(ちなみにフォアマンなど数名の旗手は、1968年の民主化運動“プラハの春”に対するソ連の圧力後、国外に脱出しています)

もともとカレル・ゼマンやイジー・トルンカなど偉大なる東欧ファンタの名匠を抱く当時のチェコスロバキアで、その波に乗って本格的なSF映画が作られるのも道理で、その伝に倣うと『イカリエ―XB1』こそは“SFファンタスティック映画のヌーヴェル・ヴァーグ”であったといえるかもしれません。

SFファンはもとより、およそ半世紀前の東欧の優れたセンスと時代性、そして先達の偉業に触れたい映画ファン(もちろん肩ひじ張らず、暇つぶしにも最適。何せ88分ですから!)、一度は見ておいて損はない、映画史上に残る名作であると断言しておきます。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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