大躍進のインド映画、また新たに社会の変革をエンタメの力を用いて訴える!

バーフバリ2 王の凱旋(字幕版)

『バーフバリ』2部作(17)のクリーンヒットあたりがきっかけとなったのか、最近インド映画の日本公開がかなり増えてきているように感じます。

特に今年の下半期は毎月のように新作がお目見えといった感じですが、その中で興味深いのは、従来の歌って踊っての華やかな“ザッツ・ボリウッド!”的なイメージのものとは異なるものがどんどん増えてきていることです……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街397》

8月に公開される2本のインド映画『あなたの名前を呼べたなら『シークレット・スーパースター』も、エンタメの中にインドの厳しい実情を知らしめる衝撃的な内容なのでした!

『あなたの名前を呼べたなら』が描く
現代インドの差別と主従関係

 (C)2017 Inkpot Films Private Limited,India

2018年度作品『あなたの名前を呼べたなら』(8月2日公開)は経済発展著しいムンバイを舞台に、セレブの高級マンションに住み込みで働くメイドのラトナ(ティロタマ・ショーム)と若き主人アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)の恋を主軸に据えたラブ・ストーリーですが、その底辺には現代インドが抱えるさまざまな差別の闇が敷かれています。

ラトナは19歳で嫁に出されるも、結婚生活4カ月にして夫が病死して未亡人となり、しかし長年の因習によって婚家に死ぬまで縛られながら夫の菩提を弔わなければならず、再婚することも許されていません(派手な衣裳や化粧、アクセサリーも厳禁)。

一方、アシュヴィンは結婚直前にして婚約者の浮気が発覚して破談となり、当然ながら憔悴した日々を過ごしています。

結婚がもたらした悲劇という共通点もあってか、両者はメイドと主人といった間柄を保持ながらも、どこかしら信頼関係が築かれているようです。

しかし、もともとアメリカで仕事していたのに兄の死で帰国して父の会社を継がなければならなくなったアシュヴィンは、ファッションデザイナーを目指して日々邁進しているラトナが眩しく感じられてなりません。

さらにはインド社会に長年はびこる「身分の違い」といった問題が、ふたりの間に立ちはだかっていきます(現にアシュヴィンのラトナに対する優しさの奥にも、どこかしら上から目線が感じられますし、ラトナもそれを疑問に思ってはいません)。

結局、社会の因習から逃れられない二人の関係は常にどこかぎこちなく、それでも少しずつ心を通わせていき、またそれゆえに脅えたりもして……。

身分違いの恋というモチーフを描いた映画そのものは古今東西さほど珍しいものではありませんが、驚くことにインドでは今なおこうした男女差別の意識が当然のように蔓延していて、こういった関係性を公にすること自体が今なお大きなタブーであり、現にこの作品を見たインド系の人々からは「およそありえない」夢物語だと言われるそうです。

そういったタブーに挑んだのは、ムンバイで生まれつつもカリフォルニアやNY、パリなどで生活し、映画的キャリアを重ねていったロヘナ・ゲラ。インドと海外の双方を知る女性の目線で、見事に長編映画監督デビューを飾りました。

現実的にはそうそうすぐに状況を変えられないことも悟りつつ、それでも少しずつ変革していきたいという彼女の意識は真摯に劇中に盛り込まれています。

また衣裳やアクセサリーなどのアイテムをさりげなくもおしゃれに魅せたかと思うと、インド映画伝統のミュージカル・シークエンスこそないまでもミュージッククリップ風に挿入歌を盛り込んだりといったサービスにも怠りはありません。

現実にめげない少女のスター誕生
『シークレット・スーパースター』

(C)AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

『シークレット・スーパースター』(8月9日公開)もまた、少女のスター誕生秘話を描いたアイドル映画仕立ての中から、やはりインドの女性差別的な意識がチラホラと、しかしながら確実に描かれている作品です。

インドのヴァドーダラーで暮らす14歳の少女インシア(ザイラー・ワシーム)は、権威的で母への暴力も辞さない父親によって大好きな歌を歌うことを厳しく禁じられています。

しかしインシアを応援している優しい母は、ある日こっそりノートPCを買い与え、彼女は顔を隠してユーチューブに自分の歌をアップ。

歌は瞬く間にインド中に知れ渡りますが、まもなくしてこのことが父に知れてしまい……。

一方、実力はあるものの最近落ち目気味ですべってばかりの音楽プロデューサー、シャクティ(アーミル・カーン)はインシアの才能を見初め、覆面姿の“シークレット・スーパースター”として彼女をメジャーデビューさせようとしますが、そこにもさまざまな障害がたちはだかっていき……。

本作は夢をあきらめない少女の健気な姿と、彼女を利用して再び威勢を取り戻そうとするプロデューサーとの駆け引きがコミカルに描かれていきます。

歌がモチーフということで、インド映画伝統の歌と踊りも唐突にではなく自然な形で描出されていたり、従来のインド映画に比べてもどこか洗練されている感もあります。

もっともこの作品も父親の悪しき権威主義とDVがヒロインの夢の前に大きく立ちふさがっていくあたり、こんなことが現代にもあるのだろうかと驚愕させられること必至。

シャクティ役のアーミル・カーンは本作では製作も務めており『きっとうまくいく』(09)『PK』(14)などインド映画ならではのエンタメ要素に現代インド社会が抱える社会問題を盛り込む作品に参加し続け、「インドの良心」とも呼ばれています。

そんな彼が製作&主演した『ダンガル きっと、つよくなる』(16)もまた、オリンピックをめざすアマチュアレスリングの父と娘たちの熱血と感動のスポ根描写の中からインド国内の女性差別の意識までも露にしていく秀作でした。

アーミル・カーン自身、『シークレット・スーパースター』は『ダンガル』と表裏一体の関係にある作品と語っていますが、そうした象徴のひとつとして『ダンガル』で娘の幼年期を演じていたザイラー・ワシームを今回主演に起用し、その可愛らしさと健気な気丈さなどから未来の女性讃歌を奏で上げているようにも思えます(彼女は本作でインドのアカデミー賞ともいわれるフィルムフェア賞助演女優賞&審査員選出最優秀女優賞を受賞。また米バラエティ誌は18年にアジア次世代スターに贈る“アップネクスト・アワード”の5人の内のひとりにも選ばれています)。

もっともアーミル・カーンの映画は深刻な問題もすべてエンタメの中に取り入れてますので、本作にしても映画全体の印象は非常に明るく楽しいものになっています。ラストも鮮やかで、エンドタイトルも大笑いできます。

いずれにしましても、自国の社会問題をエンタメ化して観客に訴えていく最近のインド映画、この後もインドのお受験戦争を描いた『ヒンディー・ミディアム』(9月6日公開)、ムンバイのスラム街出身の若者がフリースタイル・ラッパーとして大成していく『ガリーボーイ』(10月18日公開)、またインドのスーパースター、ラジニカーント主演の大ヒットSFアクション映画シリーズ第2弾『ロボット2.0』(10月25日公開)など新作が目白押し。

インドの五つ星ホテルで起きた無差別テロ事件をオーストラリア&アメリカ&インド合作で描いた『ホテル・ムンバイ』も9月に公開されます。

上手さ美味さの中に辛みもあるこれらのインド映画、酷暑の夏から秋にかけて一挙にご堪能していただければと思います。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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