集まれ呪いの「こども」たち! 現代の怪奇譚『こどもつかい』レビュー

 「タッキー」こと滝沢秀明の初主演作にして、『呪怨』の清水崇監督による久々の長編ホラーということで、アイドルファンやホラー好きからの注目度も高い映画『こどもつかい』が6月17日に公開となりました。今回はイラストに加えて、良かったところや「正直ここはどうなの?」と感じたところなど、ホラーファンの端くれとして率直な感想を書いていきたいと思います。

 

あらすじ

ざっくりあらすじ。ある街で謎の連続不審死事件が起こり、新人記者の駿也(有岡大貴)はそれについて調べるうちに奇妙な事実に気づきます。なぜかどの犠牲者も「周囲の子どもがいなくなった」3日後に命を落としているのです。一体この法則にどんな意味があるのか? そして街に漂う「こどもの呪い」の噂は真実なのか…? 謎解きに徐々にのめり込んでいく駿也ですが、あるとき恋人の保育士・尚美(門脇麦)がその「こどもの呪い」に巻き込まれてしまいます! 2人を待ち受ける運命とは、そして「呪い」の背後にいる不気味な「こどもつかい」の正体とは…? これが物語の大筋です。

よかったところ

 さっそく良かったところから挙げていきましょう。まず「こどもの恨み」に焦点を当てたことが、Jホラーとして実にフレッシュだと感じました。私たちが日常的に「こども」に対して抱く気持ちは、そのほとんどが「かわいい」「愛らしい」「守ってあげたい」と言ったポジティブなものですが、時として「怖い」という感情を抱いてしまうこともあると思うんですよね。

 もちろん子どもは大人に腕力でも知恵でも叶わないことがほとんどですし、大人に守られるべき存在であることは間違いないのですが、同時に「人間として未成熟である」「大人と思考回路が違う」という点で、子どもはどこか不気味で理不尽な「怖さ」を漂わせる存在でもあると思うのです。
 
 そうした「こどもの怖さ」という一見矛盾した感覚をすくい上げることに関して、清水崇監督は日本屈指のホラー作家と言えるでしょう。清水監督の代表作といえば何と言っても『呪怨』シリーズであり、そのメインの怪異として登場するのが(白石晃士監督のスピンオフ『貞子vs伽椰子』での大活躍も記憶に新しい)「俊雄くん」なのですから。
 
『呪怨』の俊雄くんは白ブリーフに全身白塗りという一見バカみたいな(失礼)格好の「子ども」なわけですが、同時にめちゃくちゃ怖い存在でもあります。それは「子ども」の持つ不気味な純粋さ、そしてどこか虚ろな暴力性が、俊雄くんの佇まいから感じ取れるからではないでしょうか。「子どもって可愛いけど、たまに不気味だよな…」「そんな子どもに恨まれたらどうしよう」という微妙な恐怖の機微を、清水監督は『こどもつかい』でいっそう純化した形で描こうとしたのだと思います。

 その狙いが最も成功しているのは、間違いなく冒頭シーンでしょう。ある母親が(おそらく虐待を加えている)自分の娘がいなくなったことに気づき、近所を必死で探すのですが、娘は意外な場所で見つかります。ホッとしたのもつかの間、突如現れた「こどもつかい」の手によって「こどもの呪い」が発動してしまい…!?というショッキングな場面です。

 薄暗い団地アパートの一室という極めて日常的な空間で繰り広げられる、理不尽でありながらほんのりとユーモラスな惨劇…。その異常事態の後にバーンと出るタイトルコールも、子どもの無邪気さ、そしてうっすらと漂う暴力性が滲み出ていて、グッと惹きつけられました。ホラー映画のオープニングとして百点満点であり、この辺りはさすが清水監督という他ありません。

こどもつかい

(C)2017「こどもつかい」製作委員会

気になったところ

 ただ「怖さ」に関してはこのオープニングがピークだったかな…というのが正直なところです。はっきり言って本作はホラーとしては相当マイルドな部類だと思います。特にホラー映画を見慣れている層は「物足りない」と感じる可能性が高いでしょう。

 やはりその原因としては、メインの怪異である「こどもつかい」を演じるのがなんといっても超有名アイドル・タッキーこと滝沢秀明であり、かなり親しみやすいルックと性格に設定されていることが大きいと思います。

 とはいえ「こどもつかい」のキャラクター造形自体は秀逸です。「ハーメルンの笛吹き男」を思わせる、意匠を凝らしつつもほんのりチープさを漂わせる衣装や、タッキー持ち前の観客を引きつける華やかさが絶妙に絡み合い、Jホラーではあまり見かけないタイプのフレッシュな「怪異」のキャラクターが生まれていると思います。
 
 ただ、やはりそこは国民的な愛されキャラのタッキー…。天性のチャーミングさもあってか、彼が出てくるシーンでは正直「ホラー」としての怖さは大幅に減退すると言わざるを得ません。それもかなり序盤から「こどもつかい」の存在が前面にグイグイ押し出されるので(本作にはアイドル映画としての側面もあるので仕方ないのですが)、製作陣も観客を「怖がらせよう」とはあまり狙っていないのかな…?とさえ感じました。

こどもつかい サブ2

(C)2017「こどもつかい」製作委員会

ホラーが苦手でも・・・

 逆に言えば、ホラーが苦手な人でも全然「イケる」と思います。タッキー(や有岡くん等)が好きで、今までホラーを観たことがなかったけど挑戦してみようかな〜と思っている人には格好の「入り口」になることでしょう。例えば中盤の「首吊り」シーン(本作ではトップクラスに怖い場面)を見て「怖いし気持ち悪いけど、こういうのけっこう好きかも…」と感じるような人は、ホラーを楽しむ才能が間違いなくありますので、どんどん他の作品にトライしてみてください。ホラー映画はいつでもあなたを待っていますよ…。

 そして先ほど「ぶっちゃけあんまり怖くない」とか言ってしまいましたが、それは半ば意図的なのかもな、とも思います。この映画は「虐待」という非常に深刻な問題を扱った作品でもあるので、苦しむ「こどもたち」に寄り添った視点が必要になってくるからです。「こどもつかい」は大人によって無残な運命を辿った「こどもたち」の復讐を果たす存在であり、子どもにとっては一種の「ダークヒーロー」でもあります。中盤では「こどもつかい」が押入れの中である幻想的な情景を子どもに見せたりと、温かさを感じるシーンもありました。ホラーというより「現代の幻想怪奇譚」のような趣きの作品として楽しむべきかもしれません。

 ただ仮にそうだとしても、やはり肝心の「こどもつかい」と「こどもの呪い」が物語のギミックとして弱いということが、本作最大の弱点であると思います。「こどもつかい」が恐怖の存在にしてダークヒーローである、「こどもの呪い」が恐るべき呪いにして正当な復讐の手段でもある、その二面性自体は面白いのですが、そのどちらの要素もそれなりに無難に描こうとしたために、結局のところ中途半端に終わっていると感じました。

 例えば中盤、「こどもつかい」に呪い殺される犠牲者として、「クズ野郎」としか表現しようのない下劣で最低な男が出てきます。(尾上寛之さんのリアリティがある生々しい演技はとても良かったです!)このクズ野郎がキッチリ呪い殺されるのはもちろんまっとうなことですし、なんならスカッとできる場面のはずなんですが、どうにもモヤモヤする気持ちが残りました。

 というのも「クズ野郎が子供に下劣な行為をすること」と(冒頭にあるような)「シングルマザーである母親が子供を虐待してしまうこと」が、作中でどこか「同列」に扱われているように感じてしまったんですよね。この二つは確かに「子どもに対するひどいこと」という点では同じですが、言うまでもなく本質的に全く異なることです。終盤でクズ野郎も母親も一緒くたに同じ空間に並ばされているシーンは「そりゃあんまりだろ…」とさえ感じました。どうも作中の倫理観のバランスが上手くいっていない気がします。

 「ホラーなんだし倫理とかうるさく言わんでも…」と思うかもしれませんが、これはホラーとしての「怖さ」にも大いに関わってくることです。つまり「呪い」の犠牲者となる人々があまりに両極端すぎて、我が身に当てはめて怖がればいいのか、同情すればいいのか、スカッとすればいいのか、よくわからなくなってくるんですよね。その原因はやはり「《こどもの呪い》とは何なのか」という問いの練り込みが、もうひとつ足りてないせいだと思います。終盤に「こどもつかい」の正体や背景が明かされてもなお、それらは本作で描かれた「こどもの呪い」とはイマイチ噛み合ってきません。(なので必然的に主人公の葛藤やトラウマの克服描写もやや上滑りしています。)

こどもつかい 新ビジュアル

(C)2017「こどもつかい」製作委員会

「こども」との関係にまつわる別の作品

 例えば『こどもつかい』と同じく「こども」との関係にまつわる恐怖を描いた近年の優れたホラーとして、ジェニファー・ケント監督の『ババドック』(オーストラリア・2014年)が挙げられます。「子育て」につきまとう不安や恐怖を生々しく描き出しためちゃくちゃ怖い映画ですが、その一方で、厳しい子育てに追い詰められていく孤独な母親に暖かく寄り添う視点も感じられるという、真摯かつ見事な傑作ホラーです。

 『こどもつかい』もせっかく「こどもの恨み」という生々しい感情をホラーの主題にするのなら、その恐怖をよりいっそう突き詰めて、現代に生きる私たちを心底怯えさせ、そして励ましもするという『ババドック』のようなアプローチもあったのではないか…?と少しもったいなく感じました。 
 

まとめ

 偉そうなことを色々書いてしまいましたが、「子どもと大人の関係」にまつわる不安や恐怖をホラーの形で扱う『こどもつかい』の姿勢そのものは、とてもチャレンジングで有意義だと思います。先述したように本作にも息を呑むような場面はありましたし、一種の「アイドル映画」という縛りの中ではかなり健闘したのではないか、と感じる部分も多かったです。あの名作『呪怨』シリーズを送り出した清水監督なら、次こそはさらに奥深く、様々な人をホラーの魅力に気づかせ、コアなホラーファンをも震撼させてくれるような真の傑作を撮ってくれるはず…と、ホラーファンの端くれとして心から楽しみにしています。

(文:ぬまがさ)

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