伝説の作品が20年ぶりに復活! インド映画ブームの立役者となった“見る極楽浄土”作品とは?

©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.

今年の映画界を賑わせたトピックスとして、『バーフバリ 王の凱旋』を筆頭とした“バーフバリ旋風”についてたびたび触れてきた。昨年公開の『バーフバリ 伝説誕生』という土台あってこそだが、2018年はまさに日本中がインド映画の熱狂的ムーブメントに染まった年だったといえる。そんな年だからこそ、改めて1本のインド映画に注目が集まっている。それが、いまから20年前に映画という枠すら超えて空前の“インドブーム”を巻き起こした『ムトゥ 踊るマハラジャ』だ。

先日『遊星からの物体X』を紹介した記事の中で、近年旧作のリバイバル上映が盛んであることについて言及した。11月23日から全国順次ロードショーがスタートする『ムトゥ 踊るマハラジャ』(4K&5.1chデジタルリマスター版)も、もちろんその中のひとつ。そこで今回は、改めて今年のインド映画ブームを振り返るとともに、本作の魅力について紹介していきたい。

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映画ファンの血肉を湧き立たせた“バーフバリ旋風”

昨今のアメコミ映画やブロックバスター映画を見慣れた映画ファンにとっても、『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』の登場は極めて衝撃的だった。インド映画ならではの絢爛さに加え、壮大かつ圧巻の大河的ストーリーや、2世代にわたって示してみせた主人公・バーフバリのヒーロー像は、近年の大作映画に“足りなかったもの”を完璧なまでに補填してみせた。勧善懲悪の爽快感、魅力的なキャラクターたちの各個性、奥深いドラマが見事に揃ったことで、あっという間に観客の心を満たしてしまったのだ。映画が素晴らしければ観客が呼応するのも当然で、作品が観客を大切にしたように観客もまた作品を愛した結果、絶叫上映人気の牽引や監督・プロデューサー・俳優の来日、<完全版>公開の後押しにまでつながることになった。またツイッターをメインとした交流も盛んとなり、イベント上映などを通して観客同士の結束感が高まったのも“バーフバリ旋風”における潮流として話題から外すことはできない。

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“バーフバリ旋風”にともなって、インド映画そのものの入り口が大きく開けられたことも今年の映画界にとって大きなものだった。振り返ってみると、2013年に公開された『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』の国内上映権が3月で終了となるのに合わせて各地で再上映が行われ、“マサラ上映”で有終の美を飾った(ちなみに最後の上映館はマサラ上映の聖地・塚口サンサン劇場である)。また翌4月公開の『ダンガル きっと、つよくなる』は、実話をベースにしたアーミル・カーン主演のドラマ作品。父と娘の熱いレスリングストーリーということもあって通常上映に加えて応援上映も実施されており、多くの声援を浴びつつ観客の涙を絞り出すことにもなった。12月7日にはこれまた実話ドラマ映画である『パッドマン 5億人の女性を救った男』の公開が控えており、試写会などで既に高評価が相次いでいる。ラブストーリーや歴史大作、スポ根ドラマから女性たちが抱える衛生問題を切り取った作品まで、2018年の日本国内におけるインド映画ブームはまさに『ムトゥ 踊るマハラジャ』が公開された1998年を彷彿とさせるものとなった。

とんでもないムーブメントを巻き起こした快作『ムトゥ 踊るマハラジャ』

『ムトゥ 踊るマハラジャ』の公開から早いもので20年の月日が経ったが、筆者は当時既に映画好きとして目覚めていたこともあって、本作がいかに日本で大きな影響力を持つことになったのか記憶に残っている部分が多い。単館公開からスタートしながら劇場前に大行列が形成されている様子が報道され、またバラエティ番組でもボリウッドを意識した企画や演出が何度も映し出された。翌年には、ウッチャンナンチャンの南原清隆(南々見狂也名義)主演で『ナトゥ 踊る!ニンジャ伝説』なる全編インドロケの企画映画も作られたほどだ。

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バーフバリ旋風とともに引き合いに出されることが多かったため、「観たことはないけど『ムトゥ 踊るマハラジャ』のタイトル(あるいは“ムトゥ”というキャラクター呼称)は知っている」という人のためにざっとあらすじを紹介。主人公のムトゥは大地主ラージャーの屋敷で働く使用人で、ラージャーへの忠誠心が高くボディーガードとしての役割も果たしている。ラージャーとムトゥは旅回り劇団の芝居を鑑賞し、美しい女優ランガにラージャーが一目惚れ。ところがムトゥとランガがやがて恋仲となり、屋敷に彼女を連れ帰ってきたところをラージャーは自分と結婚するためにやって来たのだと勘違いしてしまう。さらに物語はラージャーの伯父が屋敷と財産の乗っ取りを企て、ムトゥの出生の秘密にまで及ぶほどの複雑な状況が明らかになっていく──という内容。

ざっくりまとめてしまえば本作は、前半がムトゥとランガによるラブコメ展開(ラージャーや周囲のキャラクターも含めるとなかなかのドタバタ感まで出ている)、後半が財産を狙ったドラマパートに分かれている。もちろんその内容だけでは“ありがち”な作品であり、到底一大ブームを巻き起こすような内容とは思えない。そこで本作の魅力として挙げられるのが、本作が“見る極楽浄土”とまで称されることになったダンスシーンだ。ムトゥを演じる南インドの“スーパースター”ことラジニカーントを中心としたダンスシーンが本編の多くを占めていて、大勢のダンサーを引き連れたダンスはいま見直してもなお色褪せることがない。スーパースターの所以ともいうべきキレとエモーショナルなダンスには不思議なほどに目を惹きつけられるし、同時に滲み出ている“キュートさ”もムトゥという純朴な人柄を現しているように思える。

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また煌びやかな衣装で着飾ったランガの魅力も画面に華やかさを添えていて、おそらくこの時の洗練されたビジュアルによって“サリー”の認知度が国内で高まったのではないだろうか。とにかく、本作の推しどころは間違いなくダンスシーンなのでは、というくらいムトゥやランガたちはダンスで感情を表現する。そのため時として起承転結の流れを無視して踊りまくっているように見えるが、ダンスと歌詞を通して会話や感情のやり取りが成立してもいるので実は油断できない。

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ラジニカーントの日本国内の人気を高めた理由として、本作で“歌って踊れる”だけの俳優でないことを証明したのも大きい。本編では幾度となく荒くれ者たちの襲撃を受けることになるムトゥだが、おそらくというか、ほぼジャッキー・チェンと同じレベルで強い。決してアクションスターと呼べるスタイルではないものの、ダンスと同様にキレのある格闘術で爽快感を感じるほどに暴漢を叩きのめしていく。それこそ80年代90年代の香港ジャッキー映画を彷彿とさせるようなアクションシーンが随所に盛り込まれていて、窓ガラスを突き破って外に落下していく見せ方は仰々しさを感じつつ、本作も(特に後半部において)勧善懲悪のヒーロー映画であることを感じさせてくれる。

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音楽はアカデミー賞受賞経験を持つA.R.ラフマーン

今回のデジタルリマスター化において、もっとも重きを置かれたのが5.1chデジタル・リミックスだったのではないか。20年前の公開時はモノラル収録だったが、インドでの4Kスキャンと同時に、音楽監督を担当したA.R.ラフマーン監修のもとでオリジナル・ステレオ音源を5.1ch化。作品が持つ本来の音楽の魅力を蘇らせている。それほど本作の音楽は物語の上で重要な位置を占めていて、ラフマーンの知名度を一気に押し上げることになった。

ラフマーンはインド人作曲家だがその活動範囲は世界規模であり、中国映画やハリウッド作品でもその名前は有名なものとなっている。2000年代に中井貴一も出演したチアン・ウェン主演の『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』やケイト・ブランシェット主演『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を担当しているが、最もラフマーンの音楽性が評価されることになったのはダニー・ボイル監督の『スラムドッグ$ミリオネア』だった。この作品でラフマーンは第66回ゴールデングローブ賞作曲賞並びに第81回アカデミー賞作曲賞、歌曲賞受賞という華々しい結果を残すことになった。

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ラフマーンは『ムトゥ 踊るマハラジャ』で、インドのトラディショナルサウンドとデジタルサウンドをバランスよく采配して、魅惑のダンスシーンを盛り上げた。本作が“見る極楽浄土”と称されるなら、ラフマーンの音楽は間違いなく“聴く極楽浄土”だろう。多彩な音色は本編と同じく宝石のように煌びやかで、ミュージカルパートを耳で感じる極彩色へと見事に昇華させることに成功した。

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まとめ

インド映画ブームを巻き起こしたという点に関して通じるところが多い、『ムトゥ 踊るマハラジャ』と『バーフバリ』シリーズ。また単館からスタートし連日満席の大入りを記録してメディアに取り上げられ、さらにヒット街道を猛進したという意味では、下半期の映画人気を牽引した『カメラを止めるな!』にも通じている部分がある(なお『ムトゥ 踊るマハラジャ』も公開前年11月の「東京国際ファンタスティック映画祭」で上映されている)。日本国内の映画史にとどまらない、歴史を作った1本をスクリーンで目の当たりにするまたとないチャンス。ぜひとも現在のインド映画ブームに乗って、見る極楽浄土・聴く極楽浄土を劇場で体感してほしい。

(文:葦見川和哉)

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