鬼才クストリッツァ『オン・ザ・ミルキー・ロード』は、今年のベスト1洋画最有力候補!

■「キネマニア共和国」




(C)2016 LOVE AND WAR LLC




2017年も下半期に入り、気の早い映画ファンの中にはそろそろ今年のベスト・テン映画はどうなるかな? などと考え始めている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
私自身、そろそろ頭の中を整理させとこうかなといったところではありますが、その中でこれはかなり上位、いや、ひょっとしたらベスト1に推すかも!(とはいえ、まだ9月なので、最終的にどうなるかはわかりませんけど⁉)と思えてならない映画ファン必見の快作が9月15日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開となります……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.257》

そう、あの鬼才エミール・クストリッツァ監督の最新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』です!


戦時下の村で準備されるダブル結婚式
しかしそこに……!?


『オン・ザ・ミルキー・ロード』は、戦時下の、とある国を舞台にした男女の逃避行の物語です。

隣国との戦争が続く中、戦線の兵士たちにミルクを運ぶ仕事に従事ているコスタ(エミール・クストリッツァ)の住む村に、彼のことを慕うミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)の兄で村の英雄でもあるジャガ(プレドラグ・“ミキ”・マノイロヴィッチ)の美貌の“花嫁”(モニカ・ベルッチ)がやってきます。

どこか運命的なものを感じてしまうコスタと“花嫁”ですが、ミレナはジャガと彼女の結婚式の際に、自分とコスタの結婚式も一緒に挙げようと、着々と準備を進めていきます。

まもなくして敵国との休戦協定が結ばれました。喜びに沸く村の人々。

ジャガも帰国してきて、あとはもうダブル結婚式を挙げるだけ。



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しかし、ローマからセルビア人の父を探しにきたとき戦争に巻き込まれ、難民キャンプにいたという“花嫁”に惹かれていたのは、ジャガだけではありませんでした。

やがて多国籍軍の英国将校が彼女を自分のものにすべく、何と特殊部隊を村に送り込み……。

本作の舞台となるのは架空の国ではありますが、それがエミール・クストリッツァ監督の母国であるユーゴスラビア内戦をはじめとする世界中の紛争を風刺・戯画化しているのは疑いようのないところです。

前半部、これが戦争を背景にしているのかというのどかな雰囲気は、まさにクストリッツァ映画ならではの微笑ましい長所であり、村人たちののほほんとした生活ぶりからは、すぐ近くで戦闘が行われていても、自分たちはこの地で生きているのだといったふてぶてしいまでの人間讃歌がうかがえます。

しかし、やがて一気にそこが戦禍に見舞われていく残酷さなど、運命はいついかなるところで思いもよらない事態に陥るかわからない皮肉とも苦渋ともつかない人生の空しさまで巧みに醸し出していきます。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=81V7bbUTqF8

村が襲撃された後、コスタや“花嫁”たちがいかなる運命をたどるかは見てのお楽しみとして、これはクストリッツァ監督が初めて本格的に挑んだラブ・ストーリーとしても大いに注目すべきものがあるでしょう。

また、クストリッツア映画と言えば動物たちの名演技が毎回忘れられないものがありますが、今回もコスタが右肩に乗せたハヤブサやミルクを運ぶロバ、ミルクを好物とする(?)蛇などなど、人間顔負けの名演を披露しています。

驚くべきはCG技術が発展した今のご時世にも拘らず、蛇がコスタにからまるシーン以外、すべて本物を使って撮影しているという事実。コスタがクマに口移しでオレンジを食べさせるシーンも本当にやってみせているというすごさ!

日頃、動物との信頼関係を築き続けているクストリッツァ監督ならではの素晴らしさと言えるでしょう。


映画賞を軽やかにかっさらい続ける
才人ならでは飄々とした人間讃歌!




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これまで『パパは出張中!』(85)でカンヌ国際映画祭パルムドール&国際批評家連盟賞を、『ジプシーのとき』(89)では同映画祭監督賞、『アリゾナ・ドリーム』(93)でベルリン国際映画祭銀熊賞&審査員特別賞、『アンダーグラウンド』(95)でカンヌ国際映画祭2度目のパルムドール、『黒猫・白猫』(98)でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞、『SUPER8』(01)でシカゴ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー・シルバープレート賞、『ライフ・イズ・ミラクル』(05)でセザール賞EU作品賞と、映画賞に欠かせない才人エミール・クストリッツァ監督ですが、こういった賞の栄誉の重々しさなどどこぞとばかり、常にコミカルで飄々と、しかしながらその一方で辛口の味付けも決して忘れない語り口の作品は、リアルさの中にどこかしらファンタジックな情緒を忍ばせています。

今回も「3つの実話」と「たくさんのファンタジー」を基にストーリーを紡ぎあげ、それに即したクストリッツァならではの演出が巧みにほどこされています。

ミュージシャンでもある彼ならではの、宴のシーンなどの音楽演出の数々にも注目すべきでしょう。

また俳優としても活躍する彼が自作に出たのは『アンダーグラウンド』以来ではありますが、ここでの冴えなくも慈愛あふれる中年男の奮闘ぶりには、美熟女モニカ・ベルッチならずとも惚れ惚れさせられること必至。

ネタバレになるので後半の展開など記す愚は避けますが、実にお見事、実にスリリング、そして最後はそうなるのか! といったクストリッツァ映画ならではの感動がもたらされます。

果たして『オン・ザ・ミルキー・ロード』は今年の日本公開外国映画のベスト1になるか否か?
(まあ、ベスト・テンには必ず入ることでしょう。というか、これが入らなかったら世の中が間違っている!)

ぜひ、その目と耳で確かめてみてください。

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(文:増當竜也)




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